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岸田首相が「旧統一教会の解散命令請求」と「大型経済対策」で今度は「10月解散風」を吹かせ始めた!内閣改造人事への自民党内の不満を封じる狙いか

岸田文雄首相が内閣改造を断行した後の記者会見で強調した政策は、経済対策をまとめて補正予算の編成に入ること、旧統一教会の解散命令請求に向けて最終判断を進めることの2点だった。ポイントは、いずれも10月中に取り組むことを強調した点にある。

女性閣僚を過去最多の5人を登用した内閣改造で内閣支持率を回復させ、10月に臨時国会を召集して衆院解散に踏み切るーー「経済対策」と「旧統一教会への解散命令請求」の10月実施に意欲を示した岸田首相の発言は10月解散説を後押しすることになった。

10月で衆院任期は折り返しの2年を迎える。この先はいつ衆院解散が行われてもおかしくはないという雰囲気が政界にはある。しかも来年秋に自民党総裁選を控える岸田首相にとって、その前に解散総選挙で勝利して国民の信任を取り付けることで、総裁再選を果たすのはベストシナリオといっていい。

年が明けると、内閣支持率の低迷や経済情勢の悪化などによって解散権を行使するタイミングを逸したまま総裁選を迎え、不出馬ー勇退に追い込まれるリスクもある。

それを避けるためには、年内に解散総選挙に踏み切っておいたほうが得策というのは一定の合理性がある考え方だ。それならば10月に臨時国会を召集して国会審議に入り、野党の見せ場が増える前ーーつまり臨時国会冒頭ーーに解散を断行した方が自公与党には有利である。

しかも立憲民主党と日本維新の会が対立し、野党はバラバラで、自公与党が大幅に議席を減らす恐れは少ないことも10月解散説の大きな根拠だ。

そのなかで、岸田首相が10月中に「経済対策」を策定し、「旧統一教会の解散命令請求」を実施する意向をにじませたことは、「10月解散風」を自ら吹かせたともいえるだろう。

経済対策に財源をつけるための補正予算について、岸田首相は記者会見で臨時国会で成立させる目標を明言しなかった。経済対策は10月に策定して補正予算編成に着手した後、ただちに経済対策の実現を公約に掲げて臨時国会冒頭で衆院解散に踏み切るシナリオを想定したものだろう。

経済対策というものは、実現した後に選挙で支持してもらうよりも、経済対策というニンジンを公約としてぶら下げて選挙戦に突入するほうが、業界団体の支持獲得などの選挙対策としては効果を発揮するものなのだ。

旧統一教会の解散命令請求も似た点がある。

旧統一教会に対する国民世論の根強い批判にこたえるため、岸田内閣が解散命令請求を見送ったうえで解散総選挙に突入するという選択肢はありえない。一方、岸田内閣が解散命令請求をしても裁判所がそれを認めて旧統一教会に解散命令をするかどうかは見通せない。ハードルは高いという指摘も広がっている。

もし解散命令が実現しなければ、裁判所だけではなく、岸田政権にとっても痛打となろう。それならば10月に解散命令請求を実行したうえで、裁判所の判断を待っている間に解散総選挙を断行してしまうーーそのようなシナリオはかなり有力である。

これも10月解散論を後押しするひとつの論拠といえるだろう。

だが、実際に10月解散に踏み切るには、ハードルも少なくない。

まずは内閣支持率が回復するかどうかだ。野党が低迷し、自公与党が過半数割れに追い込まれる可能性は極めて低いとしても、自公与党が大幅に議席を減らせば、岸田首相の責任論が浮上し、ただちに退陣に追い込まれなくても来年秋の総裁再選に黄信号が灯るのは避けられない。

旧統治教会の解散命令請求にしても、ジャニーズ問題で過熱している世論の目を再び旧統一教会に引き戻し、逆効果になる恐れもある。旧統一教会問題で大臣を辞任した山際大志郎氏やマザームーン発言で注目を集めた山下朋広議員らも衆院候補として公認されており、衆院選に突入すれば再び旧統一教会問題への批判が再燃する可能性は高い。解散命令請求がむしろ解散断行の決断を鈍らせる恐れもあるのだ。

岸田首相は6月解散を煽りながら見送った。長男の秘書官更迭などスキャンダルから世論の目を逸らすことが大きな目的で、本気で解散総選挙に挑む覚悟はなかったようである。

今回も解散の覚悟を決めて解散風を吹かせ始めたのではなく、別の目的で意図的に吹かせた可能性が高いと私はみている。別の目的とは、内閣改造・自民党役員人事への党内の不満を封じることだ。

麻生太郎副総裁の意向に従って茂木幹事長を留任させたことで、菅義偉前首相や二階俊博元幹事長ら非主流派を中心に人事に対する不満が広がっている。「岸田降ろし」に発展することを防ぐには、10月解散風を吹かせて衆院議員たちを選挙区に縛りつけ、党内政局どころではない状況に追い込むのが手っ取り早い。党内政局を封じるための解散風というわけだ。

むしろ今回の内閣改造・自民党役員人事から浮かぶのは、岸田首相が「解散総選挙に勝利することで政権基盤を強化する」ことよりも「茂木敏充幹事長らライバルを人事で牽制し、最大派閥・安倍派を分断する」など「内向きの体制強化」で総裁再選を目指す戦略である。

10月解散で議席を減らして来年秋までレームダック化するリスクを覚悟で勝負に踏み切る胆力が岸田首相にあるだろうか。私は現時点ではやや懐疑的である。


岸田首相が10月解散風を吹かせ始めた背景について、ユーチューブのライブ配信でも解説しました。ご覧ください。

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