岸田文雄首相の最側近である自民党の木原誠二幹事長代理(前官房副長官)の妻が、2006年に起きた元夫の不審死事件の重要参考人として警視庁に事情聴取されながら、木原氏の妻という理由で捜査が不自然に打ち切られた疑惑で、新たな動きがあった。元夫の遺族が容疑者不詳の殺人事件として警視庁に告訴状を提出し、受理されたのだ。
この疑惑は、週刊文春の大々的なキャンペーンではじまり、当時捜査にあたった元刑事が実名で記者会見して不自然な捜査打ち切りの内幕を明かすなど大きな社会問題となった。不審死事件の真相に加え、①木原氏が警察に圧力をかけたのか②警察が木原氏を忖度して捜査を打ち切ったのかーーが大きな焦点だ。
しかし、露木警察庁長官は「事件性はない」と明言し、再捜査を否定していた。
ここにきて警視庁が元夫の遺族が提出した告訴状を受理したのは、世論の関心と批判が高まるなか、不受理でさらに批判が高まることを避ける狙いだろう。
警察は強力な上位下達の官僚組織である。警察トップの警察庁長官が早々に「事件性はなかった」と明言した決定が覆る可能性は極めて低い。不審死事件の真相よりも、警察内部の論理を優先させる。
その意味で、警視庁が殺人事件の捜査に全力を尽くすとは思えない。
木原氏の妻を事情聴取したのは2018年のことだった。
当時の警察庁長官は、現在は霞が関トップである官房副長官にのぼり詰めた栗生氏だった。木原氏とともに岸田官邸を中枢で支えてきた政府高官である。
この不審死事件の捜査について、当時の二階俊博幹事長も情報を得て木原氏に捜査に協力するよう助言したことが文春報道で明らかになっている。この事件が「政治案件」として扱われ、当時の栗生警察庁長官の指揮下に入っていたことは間違いない。
再捜査で不審死事件が殺人事件だったことになると、「事件性はない」と早々に明言した露木警察庁長官に加え、当時の栗生警察庁長官(現官房副長官)の責任問題に発展することは免れない。彼らが政治的理由で事件の真相究明を遮ったことになるからだ。
木原氏個人というよりも、警察組織全体を揺るがし、さらには岸田政権の中枢を直撃する大スキャンダルになる。
これまで世論はこの問題を「木原事件」として注目し、木原氏が警察に圧力をかけたかどうかが最大の焦点となっていた。
だが、ここまでくると、木原氏の圧力の有無をこえて、警察自身が組織防衛のために事件性を認めるわけにはいかない動機が生まれてくる。「木原事件」というよりも「栗生・露木事件」という側面が強まってきたのだ。
テレビ新聞各社の社会部は警察に極めて弱い。警視庁クラブで警察情報を垂れ流す報道ばかりを続けている。世論が過熱するまで「木原事件」を黙殺してほとんど報じてこなかったのも、「事件性はない」と明言する露木長官に従順だったからだ。
いまいちばん重要なのは、警察が不審死事件の捜査を適切に行ったのか、なぜ不自然な形で捜査を終えたのか、今の時点で「事件性はなかった」と明言する理由はどこにあるのかーーなどの疑問について、露木長官が記者会見で明確に説明することだ。記者クラブが警視庁に実現を迫れないようならもはや存在価値はない。ただちに解体すべきである。