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公明党の山口那津男代表が一転して退任へ 進次郎政権誕生で10月解散総選挙へ、そして麻生太郎から菅義偉へキングメーカー交代を見越した人事だが…

自民党総裁選で小泉進次郎氏が勝利して総理総裁になれば、公明党嫌いの麻生太郎氏は失脚し、公明党にと親密な菅義偉氏が新しいギングメーカーとして君臨する。公明党の山口那津男代表が9月28日の党大会で退任し、石井啓一幹事長が代表に昇格することになったのは、それを見越した対応だ。

進次郎政権が誕生して10月解散総選挙を断行し、自公与党が圧勝できるーー。自民党が裏金事件で逆風を受ける中、次の解散総選挙までは山口代表が続投するとみられていたが、一転して代表交代に踏み切ることにしたのは、そのような読みもあったからだろう。
総理が岸田文雄氏から小泉進次郎氏へ、キングメーカーは麻生太郎氏から菅義偉氏へ。自民党内の権力移行で、公明党の発言力が再び大きくなる可能性がある。


岸田政権のキングメーカーだった麻生氏は公明党を毛嫌いしてきた。自民党のなかで公明推薦を受けない数少ない議員としても知られる。公明切りの急先鋒だった。
菅氏は連立相手の公明党の窓口だった。党内基盤では第二派閥を率いる麻生氏にかなわず、公明や維新など他党と連携して党外から党内政局を動かしてきた。

9月の総裁選で岸田首相を不出馬に追い込む岸田おろしに成功したが、これも公明党と連携した結果だった。公明党が岸田首相による衆院解散に断固反対しつづけた結果、岸田首相は解散権を縛られてしまったのだ。

麻生氏は菅氏に対抗し、連合に接近してきた。連合の背後には、国民民主党や立憲民主党がいる。つまり、野党分断は、麻生氏と菅氏の自民党内の主導権争いの裏返しという側面もある。

公明党は、麻生氏がキングメーカーとして君臨する岸田政権とは一定の距離を保ち、菅氏の復権を期待して菅氏を側面支援してきたといっていい。

岸田首相が退陣を表明し、この9月の総裁選は願ってもないチャンスとなった。

山口氏が公明党代表に就任したのは、自公与党が野党に転落した2009年総選挙の直後だ。この選挙で、当時の代表だった太田昭宏氏が落選し、参院議員の山口氏が緊急登板したのである。

それから8期15年、自公が政権復帰し、安倍長期政権が続き、さらには菅政権、岸田政権と進む激動の時代を山口代表は担ってきた。すでに70歳を超え、本人は代表を退くことを希望してきた。

しかし、後継候補の石井啓一幹事長が地味で、「選挙の顔」になるのか疑問視する声もあり、山口代表はずるずると続投。自民党への逆風が強まる中で、次の解散総選挙は山口体制で乗り切るしかないという見方が強まっていた。

もうひとつ理由がある。石井幹事長は衆院比例ブロックで当選を重ねてきたが、昨年、衆院埼玉14区に転出していた。新代表になる条件として小選挙区での勝利することを突きつけられた格好だった。石井氏の代表就任に慎重な勢力がハードルをあげたという側面もあろう。

この結果、解散総選挙前に石井氏にバトンタッチする可能性はいっそう小さくなっていた。新代表がいきなり小選挙区で敗北して落選すれば、目も当てられないからだ。

けれども、進次郎政権が誕生して裏金事件が薄れ、自公与党が勝てるという判断が強まった結果、ここで自民党に歩調をあわせてトップの世代交代に踏み切っても、石井氏は小選挙区でしっかり当選できるという手応えをつかんだのだろう。

このまま順調に進次郎政権が誕生し、菅氏がキングメーカーになれば、公明党の影響力が増す可能性が高い。

しかし、進次郎氏が出馬会見で掲げた「聖域なき規制改革」(とりわけ解雇規制緩和)には反発も強く、世論調査では石破茂氏や高市早苗氏が予想以上に健闘している。石破氏や高市氏の弱点は国会議員に不人気なことだが、麻生氏が進次郎政権誕生を阻止するため、決して親しいとはいえない石破氏や高市氏に決選投票で乗る可能性も捨てきれない。

予想通りに進次郎政権が誕生しても、進次郎氏が掲げる「聖域なき規制改革」や「憲法改正」は必ずしも公明党が歓迎する政策テーマではない。菅氏が君臨する進次郎政権を支えるため、公明党が譲歩を迫られる局面も出てくるだろう。

自公両党のトップが交代して連立政権は新たなステップに向かう。連立は強化されるのか、弱体化していくのかはまだ見通せない。

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