石破茂首相は総選挙の勝敗ラインを「自公与党で過半数」と表明している。自公政権を維持する最低ラインの議席数だ。
衆院定数は465、過半数は233。自民党の解散時議席は258(非公認を含む)で単独過半数を握っていた。公明党の32とあわせて過半数を大きく上回る290議席を持ち、巨大与党を形成していた。石破首相の勝敗ラインでは、自公が57議席減らしても「勝利」となる。
さすがに自民党内からは、総裁選で高市早苗氏を支持した反主流派を中心に「自公で過半数は甘すぎる」「自民が単独過半数を割れば敗北だ。総選挙後に石破おろしに動く」という声が噴出している。
石破首相は党内基盤が弱い。総選挙後の「石破おろし」を封じるため、甘めの勝敗ラインを設定して予防線を張ったというわけだ。
反主流派は納得しておらず、勝敗ラインの設定そのものが党内闘争の主戦場になっている。自公与党の過半数維持は「対野党での勝利」にすぎず、「党内闘争の勝利」には直結しない。
立憲民主党はどうか。
立憲の解散時議席は98だった。弱小の野党第一党だった(日本維新の会41、共産党10、国民民主党7、れいわ新選組3と続く)。それほど前回総選挙(2021年)にボロ負けしていたのである。
立憲は発射台が低く、しかも自民党は裏金批判の大逆風を浴びている。二大政制では自民批判票の多くが野党第一党に流れるため、立憲が議席を積み増すのは当たり前だ。議席を伸ばすだけでは「勝利」とは言えない。
野田代表は総選挙の目標として、①自公過半数割れ②立憲が比較第一党(自民を上回る)の二つを上げ、その結果として、③政権交代を実現すると訴えている。野田代表自身は「勝敗ライン」と明言していないものの、①~③を「勝敗ライン」と位置付けるべきだろう。
本来、野党第一党である立憲民主党の勝敗ラインは「野党で過半数」を獲得して「政権交代を実現する」(自民党を野党に転落させて立憲中心の新政権を誕生させる)とすべきである。裏を返せば「政権交代」を実現できなければ「立憲は敗北」(野田代表は引責辞任!)と認定するのが、二大政党制の鉄則だ。
ところが、マスコミ各社は総選挙の序盤情勢調査で「立憲は30〜40議席を伸ばす勢い」と報じ、「立憲健闘」というトーンで伝えている。これは明らかなミスリードである。
立憲が30〜40議席を伸ばしても、自公政権は継続する。とても「立憲の勝利」と呼べる政治状況にはならない 万が一、自公与党が過半数割れしても、野党がバラバラな状況では、野党各党が総選挙後の国会で一致結束して野田代表を首相に担ぎ出し、野党連立政権が誕生する可能性はほとんどない。むしろ維新か国民が与党に加わって連立政権の枠組みが2党から3党へ拡大する可能性がはるかに高い。
自公が過半数を維持するという現時点の情勢調査とおりになれば、「立憲民主党は敗北」と評価するしかない。
けれども、野田代表は「立憲が議席を増やした」=「立憲が躍進した」として、代表の座に居座るだろう。立憲が1議席でも多く獲得するために、他の野党との選挙協力を進めず、さらには政権交代への期待感を煽っているのだ。
本気で政権交代の可能性を高めたいのなら、総選挙後の首班指名をにらんで、野党共闘を進めなければならないはず。その気はまったくないのだから、やはり「政権交代」よりも「立憲の議席増」によって「代表を続投する」ことを優先しているとしか思えない。
野党の勝ち負けを議席の増減で認定するのは、社会党が万年野党だった中選挙区制時代の名残である。二大政党制である以上、政権交代を実現できなければ野党は敗北であり、野党第一党の党首は議席を増やしたとしても敗北責任を問われるべきなのだ。
ところが、日本のマスコミは議席の増前で野党の勝ち負けを認定してきた。政権交代を実現できなくても議席を増やせば許されるというかたちで野党を甘やかしてきた。
この結果、野党第一党は政権交代よりも自党の議席増を優先して野党勢力を束ねることに消極的となり、政権交代はますます遠のくという悪循環に陥ったのだ。
今回の総選挙で、少なくとも自公過半数割れに追い込めなければ、立憲民主党は敗北であり、野田代表は引責辞任すべきである。二大政党制の鉄則に沿った政治・選挙報道をマスコミ各社に望みたい。