立憲民主党の小川淳也衆院議員と8月29日夜、BS11「インサイドOUT」に一緒に出演した。香川県立高松高校の同級生である彼とは、ドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」(大島新監督)のイベントで一緒に登壇したことはあるものの、テレビに一緒に出演するのは初めてである。
先に出演依頼を受けたのは実は私。担当プロデューサーから「鮫島さんは政権批判側なので、相手方は政権寄りの人で調整します」と連絡があり、私は「どなたでも大丈夫ですよ」と応じていた。ほどなくして「相手は小川淳也さんに決まりました。最初はバランスをとろうと思ったのですが、ダメもとで小川ー鮫島の同級生コンビでどうかと提案したら通りました」と告げられた。
相手は誰でもよかったのだが、さすがに小川淳也とは。下手をすれば「政治討論番組」というよりは「同級生対談」になりかねない。まあ、政治家と政治ジャーナリスト。お互いに馴れ合わず、プロとしてそれぞれの立場に徹することはできる。ともに50歳を超えたことだし。
それにもまして、立憲民主党の政調会長を退いたばかりの彼に、友人の雑談としてではなく、政治ジャーナリストとして、公の場で、岡田克也幹事長や安住淳国会対策委員長が復権した新執行部の評価を聞いてみたい思いもあった。
とはいえ、同級生の彼と生放送で意見をぶつけあうのは、やはりやりにくい。お互いの人生の歩みを熟知しているし、手の内も知り尽くしている。私はジャーナリストとして「攻める」側だが、彼は政治家として「守る」側だから、さらにやりにくいことだろう。
でも、そこで逃げるような輩ではない、彼は。
担当プロデューサーは「お互いに話しやすいのか、その逆なのか分かりませんが、どうぞ宜しくお願いします」と言うので、「お互い照れ臭くてやりにくいですが、彼は了解でしたか?」と尋ねると、「小川事務所は『喜んで!』と受けてくれました」という。
この「小川事務所」は、秘書の八代田京子さんであることはすぐに想像できた。彼女も高松高校の同級生である。小川淳也の初選挙以来、ずっと彼を支えている。かれこれ20年になるか。和田靜香さんと私をつないでくれたのも彼女だ。(和田さんの本を紹介した私の記事「最低賃金で働いてきた56歳フリーライターと小川淳也衆院議員の1年にわたる徹底問答の記録が本になった〜立憲民主党に欠落しているものがここにある!」は大きな反響をいただきました)
しばらくして八代田さんからメールが届いた。「テレビに出るなら眉毛をちょっと剃ったほうがいい」とのアドバイス。同級生の「ボス」に限らず、私のことまで気を配ってくれる優秀な秘書である。
小川淳也からは当日メールが届いた。「さめちゃん、今日はありがとう!よろしくお願いします。珍しい取り合わせやのう、、」
短文ながら、讃岐弁を織り混ぜ、配慮を行き届かせた彼らしいメッセージだった。
東京・お茶の水のBS 11のスタジオに到着すると、小川淳也はすでに到着していた。いつもの変わらぬ笑顔で私に手を振っている。彼は担当プロデューサーに「お互いに讃岐弁が出てしまうかも」と軽口を叩いた。
政調会長に就任する直前、これまで「誠実さ」を最大の売りにしてきた彼に、私は「そろそろ政治家として一皮剥けなければならない時だな」と助言していた。政治家は「誠実」でなければならないが、「誠実」だけでもいけない。政治はやはり「結果」である。何かを「実現」させるためには、ときに「誠実さ」のイメージに傷をつけて汚れ役を引き受けることも必要だ。自民党の毀誉褒貶な政治家たちを長年取材してきた私からみたら小川淳也は「誠実」すぎた。
私の助言に対し、彼は「人間はそう簡単には変われんよ」と不快な表情を浮かべた。私たちの間で長年、何度も繰り返されてきた光景である。
小川淳也が初めて政調会長という執行部の要職につき、党全体に責任を負いながら参院選に挑み、惨敗した責任を執行部の一員として真っ先に認め、その職を離れる意向を自ら表明した今、「そう簡単には変われない」という彼の人間観・政治観が変わったのかどうか、それを自分の肌感覚で確かめるのが、私のこの日の最大の目的だった。
政調会長時代の小川淳也は、言いたいことを我慢してストレスを溜めているように見えた。この夜の番組の前にも「親と上司は選べない」と漏らし、泉健太代表とは必ずしもフィーリングがあわなかったことを示唆した。それでも政調会長として代表を立てなければならない息苦しさからようやく解放された「明るさ」を私は感じた。
番組では、立憲民主党の新執行部の評価、岸田政権や「国葬」の評価、消費税増税の行方などを議論した。私は鮫島タイムスやユーチューブで話してきたラインで意見を展開した(昨日の記事「岡田・野田・安住…民主党政権で消費税増税を進めた緊縮財政派に支配される立憲民主党の泉執行部」参照)。
小川淳也とは岸田政権の評価ではほぼ一致したが、彼は「立憲民主党の新執行部は消費税増税を進める岸田政権と連携する可能性がある」という私の見方には否定的だった。彼は持続可能な社会をつくるため、将来的な消費税増税には賛成の立場を示してきている。
番組中に私が「立憲民主党は岸田政権と・・」と言った時、彼が横で「立憲? 国民(民主党)じゃなくて?」と首をかしげることもあった。少なくとも彼は立憲の新執行部が岸田政権と消費税増税で合意するシナリオはまったく想定していない様子だった。
私が参院選で「れいわ新選組支持」を鮮明にしたことを意識したのか、小川淳也はCM中に「山本太郎は本気で消費税廃止を主張しているのかなあ」と漏らした。彼は山本太郎代表と腹を割って話し合いたい様子だった。ある場面で山本代表と遭遇して自らの連絡先を渡したのだが、連絡がないことを残念がっていた。私は「警戒しているんだろう。消費税廃止で意見を一致することができない状況では会わないほうがいいと考えているんじゃないか」との見立てを伝えておいた。
さて、小川淳也は政調会長を経験して、変わったのか、変わっていないのか。
私は番組終了後、スタッフが多く見守るなかで、二人並んでメークを落としながら「政調会長になる前は『なかなか変われん』と言っていたが、少しは変わったんじゃないの?」と水を向けた。彼はいつものように「変わっとらんやろ」と一瞬、不快な表情を浮かべたが、すぐに表情を緩めて「すこしは変わったんかな」と笑った。
うん、彼は政治家としてたしかに進化した。それが私の感想である。
自分の思いを自由に発信することができない党幹部というしがらみのなかで、さまざまな体験をしたことだろう。自由な立場に戻って、これからどう動くのか、楽しみだ。引き続き、同級生として、政治ジャーナリストとして、ときにぶつかりあいながら、見守っていきたい。