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国民民主党はなぜ「103万円の壁」で敗北したのか?「批判より提案」「政局より政策」だけでは政策は実現できない!政策を実現させる「政局力」を磨かない限り、野党はいつまでも野党で終わる

私たちの手取りを増やす「103万円の壁の引き上げ」は、不発に終わった。総選挙で「手取りを増やす」と訴えて躍進し、総選挙後は国会に主役に躍り出た国民民主党はなぜ、自公与党との協議で敗れたのか。

榛葉幹事長は「与党が我々と維新を天秤にかけているとの報道があるが、国民民主党はこれからも『政局より政策』でブレずにやっていく」と表明した。

この「政局より政策」にこそ、最大の敗因がある。

政局は、政策を実現するために必要不可欠な手段だ。政局を軽視している限り、政策は永遠に実現しない。野党に欠けているものは、政局だ。それを直視せず、「政局より政策」と言っているうちは、野党はいつまでも野党に終わるだろう。

自公国3党幹事長は当初、所得税の非課税枠103万円を178万円に引き上げることを来年から目指すことで合意したが、自公与党は結局、来年は123万円にとどめることを決め、年明けの通常国会に来年度予算案を提出する。

与党案の123万円なら、減税効果年収300万円で5千円、年収500万円で1万円、年収800万円で2万円しかない。税収減は6000〜7000億円程度だ。

国民民主党案の178万円なら、減税効果は年収300万円で11・3万円、年収500万円で13・2万円、年収800万円で22・8万円にのぼる。税収減は7〜8兆円だ。大違いである。

国民民主党は反発する一方、3党幹事長で協議を継続し、予算案が衆院で採決される来年2月下旬までに予算案を修正して、123万円を引き上げることを目指すという。

しかし、これは相当に険しい道だ。来年2月に自公国3党の協議は決裂し、国民民主党は自公との協議から離脱。自公与党は維新の賛成を得て予算案を可決させる可能性が最も有力なシナリオだろう。

維新は前原誠司氏が共同代表に就任した後、自公与党に急接近し、補正予算に賛成した。自公与党は維新との連携を強固にするまでの時間稼ぎで、国民民主党との決裂を先送りしたにすぎない。

国民民主党が敗北したのは、自公与党が維新を仲間に引き入れるメドが立ったからだ。国民民主党と決裂しても、維新と合意すれば、過半数を確保できる。

政局とは、多数派工作だ。

国民民主党はこれまで「批判より提案」「対決より解決」「政局より政策」と主張してきた。

岸田政権下でも補正予算案に賛成し、ガソリン税減税を求めたが、結局は反故にされた。

どんなにいい「政策」をつくって、どんなに一生懸命に「提案」しても、それだけでは「政策」は実現せず、手取りを増やすという「解決」はできない。

政策を実現し、手取りを増やすという「解決」を実現する手段、それこそ、政局だ。

自公与党は総選挙で過半数を割った。だからこそ、過半数を確保するために、国民や維新の意見を受け入れ、協議を進めてきた。

さまざまな相手と条件闘争し、いちばん有利な相手と組む。これが政局(多数派工作)だ。

家庭にも会社にも自治会にもPTAにも政局はある。一般大衆は日々の暮らしで、政局を繰り広げているのである。

政局を動かすには、まずは相手を追い詰め、交渉テーブルに引きずり出すしかない。自公与党が国民や維新と交渉を始めたのは、総選挙で惨敗し過半数を割ったからだ

なぜ、自公与党は惨敗したのか。共産党の赤旗が次々に裏金問題をスクープし、自民党批判が高まったからだ。まずは政権を批判し、対決しなければ、政局は一歩も動かず、政策は実現しない。

国民民主党が「批判より提案」「対決より解決」「政局より政策」と訴えて躍進したのは、いちばん大変な「批判」「対決」を共産党に丸投げし、漁夫の利を得たともいえる。

総選挙後は、維新が代表交代で混乱し、国民民主党は競争相手がいなかった。維新の体制が固まるまでに178万円を完全に勝ち取る必要があった。

ところが3党幹事長合意は「178万円をめざす」にとどまった。その直後に維新が新体制を発足させ、急速に自公与党に接近した。交渉の段取り、運び方、進め方に失敗し、維新にボジョションを奪われたのだ。

国民民主党は、「政策」を鮮明に掲げていた。けれども、「政局」に敗れて、「政策」を実現できなかった。

国民民主党に欠けていたのは、「政策」ではなく「政局」だ。

これからも「政局ではなく政策」といい続ける以上、178万円は実現しないだろう。「政策」を実現させるには、「政局」を動かすしかない。

政策は学者や専門家でもつくれる。政治家のいちばんの役割は、政策をつくることではなく、政策を実現させることだ。ここを再確認しない限り、野党はいつまでも野党に終わる。

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