総選挙は終わったばかりだが、自民党内でははやくも来年夏の参院選にあわせて、ふたたび衆院を解散する衆参ダブル選挙構想が浮かんでいる。
自公与党は総選挙で過半数割れしたものの、野党がバラバラなことに救われて、少数与党として政権を維持できる見通しだ。しかし、内閣不信任案はいつでも可決される状況にあり、予算案や法案も野党の一部の協力を得なければ成立させることができない。政権基盤は極めて脆弱だ。衆院の過半数を回復するには、再び解散総選挙に打って出るのが手っ取り早いというわけだ。
自民党は特別国会を11月11日に召集して総理大臣指名選挙を行う方針。野党が結束して立憲民主党の野田佳彦代表を首相に担げば、野党連立政権が誕生して政権交代が実現する。
自民党はこれを避けるため、総選挙で大躍進した国民民主党に接近し、ガソリン税減税や「103万円の壁」解消など国民民主党の主張を次々に受け入れながら少数与党政権を維持していく方針だ。
国民民主党も自公連立入りは否定しつつ、個別政策では自公政権に是々非々で協力する「パーシャル連合(部分連合)」を進めていく方針で、首相指名選挙では野田代表に投票しないことを決めた。野党第一党の立憲民主党よりも与党第一党の自民党との連携に軸足を置いたといえるだろう。これにより、政権交代は実現せず、石破政権は続くことになる。
立憲民主党は選挙前から自分の議席増ばかりを優先し、他の野党との連携強化を怠ってきた。その結果、立憲の議席は増えたものの、野党はバラバラで、せっかく自公が過半数割れしたのに、野党が一つにまとまれない状況になった。首相指名選挙の時点で、そのツケが一気に回ってきた格好だ。
立憲が突き放した共産党は首相指名選挙で野田代表に投票する方向で検討しているが、国民に加えて立憲が関係強化を目指してきた日本維新の会も野田代表には投票しない方針を決めたことは、皮肉としかいいようがない。
政権交代を実現できない以上、立憲は議席を増やしたとしても、総選挙に勝利したとはいえない。総選挙は政権選択の選挙である以上、むしろ立憲は敗北したともいえる。
とはいえ、石破政権は少数与党政権となり、いつ倒れてもおかしくはない。このまま国民民主党など野党に押し込まれる政権運営が続けば、来年夏の参院選でもボロ負けする恐れがある。
そこ過半数割れの不安定な政治状況を打開するため、来年夏の参院選にあわせて衆院解散を断行する「衆参ダブル選挙」で過半数を回復する構想がくすぶりはじめた。
国民民主党が与党入りして自公国連立政権が発足すれば、過半数を回復して政権は安定する。しかし、来年夏の参院選前に国民民主党が連立に加われば、世論の反発を受け、参院選で大負けする恐れがある。
国民民主党としては、うかつに連立入りすることはできない。むしろ参院選前に自公与党との対決姿勢をふたたび示して世論の支持を引き寄せる可能性の方が高いだろう。
これは日本維新の会にもあてはまる。やはり参院選前の連立入りは、野党にとってリスクが高い。
連立の枠組み拡大で過半数を回復できないとしたら、残る手段は、解散総選挙で与党が議席を取り戻すしかない。来年夏には3年に一度の参院選があるため、そこに解散総選挙をぶつけることになる。
今回の総選挙で当選した衆院議員たちは任期が1年も経過していないなかでも超早期解散となるが、過半数割れを打開するにはそれしかない。
もちろん、内閣支持率が急落した石破茂首相のもとでダブル選挙は戦えない。この場合は、来春の予算成立後に石破首相を退陣させ、緊急の総裁選(国会議員だけが投票)で新しい総裁(首相)を選出し、そのもとでダブル選挙に突き進むことになる。
当然、ポスト石破レースは「選挙の顔」になる候補が有利となる。高市早苗氏や小泉進次郎氏が有力候補に浮上するだろう。
一方、衆参ダブルではなく、連立の枠組み拡大による過半数回復を目指して国民民主党や維新を連立に引き込むこと(場合によっては立憲民主党との大連立)を目指すとしたら、ベテラン勢の林芳正官房長官や茂木敏充前幹事長がポスト石破の有力候補に浮上する。
自公の少数与党政権は安定しない。来夏の参院選を見据えて、石破政権の余命は長くて半年だろう。そのあとの政権運営をどうしていくのか。連立拡大による過半数回復か、衆参ダブル選挙による過半数回復か。自民党は両睨みの政権運営を続けていくことになる。