高市早苗総理は早期解散に踏み切るのか。維新との合意で掲げた「議員定数削減」は実現するのか。
いま政界最大の焦点に、自民党・鈴木俊一幹事長が踏み込んだ。
鈴木氏は、地味な印象からマスコミでは軽く扱われがちだが、実は麻生太郎副総裁の義理の弟。麻生氏から財務大臣を引き継ぎ、その指名で幹事長に就いた「キングメーカーの影武者」である。
鈴木の声は、すなわち麻生の声。今回の発言は、麻生支配の本質を示す重要なシグナルだ。
■定数削減法案──「敵の身を切る改革」
高市総理が維新・吉村代表と交わした連立合意の柱は、「衆院の議員定数1割削減」。しかしその実態は、維新のスローガンである「身を切る改革」というより、「敵の身を切る改革」といえる。
比例代表を50削減すれば、打撃を受けるのは公明、共産、れいわ、参政といった中小政党。一方、小選挙区中心の自民や、関西で圧倒的強さを誇る維新への影響は限定的だ。
当然、削減案に中小政党は反発し、立憲民主党も野党を束ねる好機とみて批判を強める。頼みの国民民主党も、連合系候補の反対で立場が揺れている。与党が少数のいま、賛成勢力を広げない限り法案成立は不可能だ。
それでも維新は「今国会で法案を出さなければ連立離脱も辞さない」と強硬姿勢を崩さない。藤田共同代表は「野党が潰すなら解散して国民に信を問え」とまで言い切った。完全なデッドロック。その膠着を打ち破ったのが、鈴木幹事長の「先送り発言」だった。
■鈴木発言──「来年秋まで議論は動かない」
鈴木氏は、「今国会で与野党合意の具体案をまとめるのは難しい」「来年秋に国勢調査の結果が出た段階で各党と議論を深める」と発言した。これは定数削減を「来年秋以降」に先送りする方針を明確にしたものだ。
国勢調査の結果が確定しなければ区割り変更はできない。だから、来年秋以降でなければ制度設計は動かない。裏を返せば「それまでは議論しても無意味」という宣言である。
一年後の政治状況は誰にも読めない。高市政権が続いている保証すらない。ボールを遠くへ投げる――それは「定数削減を本気でやるつもりはない」と白旗を上げたに等しい。少数与党で野党が一斉反対する法案を通せるはずがないと、鈴木氏は冷静に見切っているのだ。
■解散見送り──麻生が握る「専権」
定数削減を実現する道は、もはや「解散」しかない。野党の反対で法案が通らないなら、「国民に信を問う」と衆院を解散し、選挙を大義に変える。それが政治の常道である。
しかも高市内閣は発足直後に支持率82%というロケットスタートを切った。今解散すれば、自民単独過半数回復のチャンス――。ところが鈴木氏はこれを真っ向から否定した。「選挙準備は一切していない」「高い支持率だからといって解散する流れにはない」と断言したのだ。
解散は総理の専権事項――その原則を踏み越えたこの発言は、麻生支配を象徴している。麻生氏が実際に“解散ボタン”を握っているのだ。
■麻生の戦略転換──高市を「封じる」
麻生氏は当初、公明党切りで保守層を引き寄せ、早期解散で自民単独過半数を狙う戦略を描いていた。だが、高市内閣が予想以上に高支持率を獲得したことで、事情が変わった。いま解散すれば高市総理が絶対的な権力を握ってしまう。それは麻生にとって望ましくない。
さらに、連立パートナーに想定していた国民民主党ではなく、宿敵・菅義偉氏と近い維新が連立入りした。維新が掲げる「定数削減」を争点に解散するなど、麻生にとって屈辱的だ。菅の影響力を復活させかねない。
だから麻生氏は、早期解散見送りに舵を切った。高市総理もそれに逆らえず、「定数削減を争点に解散することは普通考えにくい」と国会で答弁した。こうして「解散封印」が事実上決まったのである。
■維新対策──鈴木の老獪な“二分割作戦”
とはいえ、このままでは維新が収まらない。鈴木氏はそこで、したたかな“折衷案”を提示した。
定数削減法案は「努力目標」にとどめて今国会に提出し、実質的な議論は来年秋の国勢調査後に先送りする――という二段構えだ。
これなら維新は「連立合意どおり法案を出した」とメンツを保てる。成立できなくても「野党の反対で潰された」と言い訳できる。定数削減は本気の政策ではなく、連立入りを正当化する“名目”にすぎなかった。維新の本命は来年通常国会での「副首都構想」の法案成立なのだから。
鈴木氏の“二分割作戦”で、麻生、維新、野党すべてが一応は納得した。損をしたのは、ただひとり高市総理だ。絶好の解散タイミングを封じられ、少数与党の泥沼に足を取られたまま、茨の道を歩むことになる。