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円安が止まらない!長引く経済制裁は「日本自滅への道」でも内閣支持率はなぜ高止まり?

円安が止まらない。4月19日には1ドル=129円台に突入した。2002年5月以来、20年ぶりの円安水準である。対米ドルだけではなく、対中国元などでも円の価値は急落している。円は一人負けの様相だ。

ガソリン代に加え、電気代やガス代の急騰に衝撃を受けている人も多いだろう。これから食料品価格もじわじわ上がってくる。日本は海外からモノを買う力を失った。日本の購買力は1970年代の水準まで逆戻りしてしまった(参照「日本円の購買力が1970年代に逆戻りしてしまったことの意味とは」)。

海外旅行は高嶺の花になる。介護・建設・農業などの現場を支えている外国人労働者もこれからは賃金が相対的に安くなる日本を敬遠し、中国や韓国など他国へ流出していくだろう。高齢化が進む日本社会は肉体的な負担の大きい業務を中心に深刻な労働力不足に陥る恐れがある。

後述するが、この急激な円安は一時的なものではなく、日本の構造的な凋落が引き起こした結果だ。日本は世界から見放されつつある。もはや先進国から転落しつつあるといえるのではないか。

最大の原因はこの20年間の経済政策を主として担ってきた自公政権の無為無策にある。とりわけ日本史上最長の安倍政権下で継続されたアベノミクスの大失政のツケがついに回ってきたといえるだろう。

アベノミクスは超金融緩和によって円安株高を強引に進め、海外輸出の軸とする自動車や電機など大手製造業ばかりを特別に優遇した。円安株高は大企業や株主、経営者ら「富める者」をますます富ませる一方、株を保有していない庶民には何の利益ももたらさなかったのである。

そのうえに、労働市場の規制緩和で非正規労働が急増し、給料は上がらず、貧富の格差が急拡大したのだった。

マスコミは安倍政権にべったりすり寄り、アベノミクスを絶賛し続けた。安倍政権は国政選挙に6連勝してアベノミクスを延々と続け、貧富の格差はどんどん拡大し、日本社会は完全に活力を失ったのである。

そこへコロナ禍が襲来し、景気は一気に悪化。自公政権はコロナ対策を口実に巨額の財政支出に踏み切ったが、その多くはGOTOトラベルに代表されるように経済界を支援するものだった。財政赤字は急速に膨らんだが、庶民のくらしは厳しくなる一方だ。

自公政権は金融政策も財政政策も「金持ち優遇」を重ね、庶民を切り捨ててきたのである。それでも日本の有権者は自公政権を容認し続けたのであった。

トドメがウクライナ戦争を受けた対ロシア経済制裁である。ロシアはエネルギーと食料の巨大輸出国であり、世界の原油や小麦の価格は急騰した。

エネルギー大国の米国は原油高で潤った。戦争の拡大・継続は米国の軍事産業に巨額の富をもたらしている。一方で、エネルギーも食料も海外からの輸入に依存する日本は急激なインフレに見舞われ、庶民のくらしを直撃している。

そのなかで自公政権は「ロシア批判」を強めるばかりで、庶民のくらしを救済する手立ては遅々として進まない。

それでも内閣支持率は60%前後の高さを維持し、国民は「ロシア批判」を強め、自公政権に怒りを向けないのである。国民の不満を「ロシア」に振り向ける自公政権の世論工作は見事に的中しているといっていい。自公と戦うべき野党も一緒になって「ロシア批判」に明け暮れているのだから、今夏の参院選は勝負にならないだろう。

急激な円安の原因は、米国が金利を引き上げたのに、日本は金利を低く抑えたままのため、円を売ってドルを買う流れが止まらないことにある。

米国はコロナ禍で巨額の財政出動を実施し、国民生活を下支えした。その結果、米国内はインフレ傾向が強まり、金利を引き上げることで景気の過剰を抑えている。

一方、日本はアベノミクスの超金融緩和の恩恵を大企業や株主ばかりが享受し、一般庶民のくらしは厳しくなるばかり。ここで金利を引き上げると住宅ローンが跳ね上がり、中小企業は借り入れの返済に行き詰まり、国民生活は窒息してしまう。

さらに金利を上げると国債価格が暴落し、国債を大量保有している金融機関(日本銀行を含む)など大企業のバランスシートが一気に崩れて日本経済が破綻する恐れもある。

そのため金利を上げるに上げられず、日米の金利差は広がり、円はどんどん売られて円安が加速し、国民生活がますます苦しくなるという悪循環に陥ってしまったのだ。

自公政権の金融緩和も財政出動も大企業や富裕層を潤わせるばかりで、庶民のくらしを痛めつけてきた結果、「打つ手なし」の状況に追い込まれてしまった。

それにもかかわらず、ウクライナ戦争で米国に追従して経済制裁を強め、国民生活をますます追い込んでいるのが自公政権の実像だ。そのうえに国民生活をそっちのけで、米国の軍事産業を潤わせる防衛費の大幅増額や核共有の大合唱なのだから、呆れるほかない。はっきり言って、防衛費を増額する余力はこの国にない。他国との戦争に備えて米国製のミサイルや戦闘機をどんなに買い入れても、その前にインフレで国民生活が破綻したら元も子もない。

コロナ禍とウクライナ戦争の以前から、日本の経済社会構造は歪み、官僚機構のモラルは失われ、この国の基盤は崩れていた。コロナ禍とウクライナ戦争でそれが一気に表面化し、急激な円安・インフレのかたちで襲いかかってきたのである。

これはこの国の構造的欠陥が露呈した結果であり、小手先の対策で凋落を食い止めることはできないだろう。私たちは当面、さらに厳しい状況に追い込まれることを覚悟するしかない。相当な痛みを伴うことになろう。政治の腐敗を放置してきた帰結である。

その危機感を日本社会は共有していない。だからこそ、自公政権は相変わらず高い支持率を維持し、今夏の参院選も圧勝する勢いなのである。

一方、ロシアのプーチン大統領は4月18日の閣議で、欧米や日本による経済制裁について「市場にパニックを起こして銀行制度を崩壊させ、物資不足も招こうとする試みは失敗した。ロシアは前例のない圧力に耐え、状況は安定している」と述べた。

一時は急落した通貨ルーブルの為替レートは2月下旬の侵攻開始前の水準に戻り、株価も安定。数字上は日本の急激な円安・インフレのほうがよほど深刻なくらいだ。

日本マスコミは「ロシア経済は早晩行き詰まる」という欧米メディアの情報を垂れ流してきたが、現実的には早晩行き詰まるのは日本経済ではないか。

バイデン政権はウクライナの人々の命を守るための早期停戦に後ろ向きで、むしろ戦争を長期化させ、経済制裁を強化・継続することでプーチン政権を転覆させることを優先している。米国の国益にいつまでも追従して、日本経済はいつまで持ちこたえるのであろうか。円安・物価高のしわ寄せはアベノミクスで富を蓄えた大企業や富裕層ではなく、経済力のない庶民に回ってくるばかりである。

広大な領土を抱えるロシアはエネルギーと食料の輸出大国だ。エネルギーや食料を海外に依存する日本のような国土の小さな国は経済制裁を受けたら国民生活は瞬く間に困窮するが、ロシアはたとえルーブルが暴落しても、エネルギーと食料を自国内で調達すれば(自国内でルーブルで購入すれば)国民生活は維持できる。つまり、グローバル経済から切り離された時、経済成長を遂げることは困難だとしても、最低限の国民生活が破綻するわけではない。その意味ではやはり耐久力のある「大国」なのだ。これは米国や中国にも相通じることである。

これに対して日本はグローバル経済のなかで国民生活を維持している。エネルギーや食料という必需品を海外から輸入して生きている。自ら経済制裁を強化してグローバル経済を縮小させることは、自分で自分の首を締めるようなものだ。

対ロシア経済制裁は米国、中国、ロシアのように体力のある国家よりも、日本のような衰退国家に重くのしかかるのである。自公政権にその自覚はあるのだろうか。

長期戦になればなるほど日本は苦しい。その日本に米国は経済支援はしてくれない。むしろ経済制裁の強化や軍事的な後方支援をいっそう迫ってくるだろう。

日本のマスコミは「欧米=国際社会」と決めつけ、ロシアが国際社会で孤立しているという欧米の目線で報道しているが、実際には経済制裁に参加しているのは欧米や日韓などごく一部で、人口大国の中国やインドをはじめ、ブラジルなど中南米諸国、南アフリカなどアフリカ諸国、トルコなど中東諸国、インドネシアなど東南アジア諸国のほとんどは欧米と一線を画して経済制裁に加わっていない。

サメタイが試算したところ、経済制裁に加わっている国の人口総計は世界全体の13.9%にとどまり、人口ベースではむしろ経済制裁に参加しているほうが「圧倒的に少数派」だ。経済規模でも経済制裁に加わっている国のGDP総計は世界全体の6割弱にとどまり、せいぜい「世界を二分している」に過ぎない。

もはや欧米以外の第三世界の台頭は無視できず、「ロシアが孤立している」というのは偏った見方だ。

「ロシア追放」に賛成したのは国連加盟国の48%!台頭する第三世界は「欧米=国際社会」へ静かに抵抗している

日本マスコミが「ロシア孤立」の事例として報じた「国連人権理事会メンバーの資格を停止する決議案」も、賛成したのは国連加盟国193カ国のうち48%の93カ国にとどまっている。中国、サウジアラビア、イランなど24カ国は反対し、インド、ブラジル、タイ、メキシコなど58カ国は棄権し、18カ国は無投票だった。半分以上の100カ国は賛成しなかったのだ。

諸外国は自国の国益を最優先に、欧米とは自立してウクライナ戦争に対処しているのである。

米国が圧倒的に強い世界のリーダーである時代は米国に追従していればよかったのかもしれない。しかし米国は今やそこまで強大な国家ではない。世界の多極化は進んでいる。

マスコミに登場する外交・安全保障の専門家は「米国目線」で「米国の国益」を代弁する「米国追従」の人ばかりだ。これでは米国に見放された時、日本はその瞬間に孤立し、経済的にも安全保障的にも極めて危険な状況に放り出されるだろう。

米国はアフガニスタンを見捨てた。ウクライナも「打倒・プーチン」に利用しているだけだ。米国は当然ながら自国の国益を最優先にしている。その米国に盲従するのは日本の国益にかなうとは思えない。

米国に追従するのではなく、したたかに向き合うしかない。政治家も官僚も専門家も記者も「米国神話」から早く目覚めないと、私たち日本国民は路頭に迷うことになろう。

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