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自民党に「菅降ろし」を迫った横浜市長選〜投票率は伸び悩み、野党は「勝利」に浮かれるな

8月22日投開票の横浜市長選は、同市選出の菅義偉首相が強く支援した自民党の小此木八郎・前国家公安委員長の大惨敗に終わった。

現職の林文子市長が推進するカジノ誘致に反発し、元国会議員や元知事ら著名人が次々に出馬する大混戦として幕を開けた市長選。当初は現職閣僚と現職衆院議員を辞して出馬した自民党の小此木氏がリードしたが、選挙終盤にコロナの感染爆発と医療崩壊が深刻化。選挙の争点は「カジノの是非」から「菅政権の是非」へ大転換し、小此木氏にとっては菅首相の支援を受けることが大逆風となった。

コロナ患者の自宅放置をはじめとする菅政権の無為無策に対して支持政党を超えた市民の怒りが野党共闘候補の山中竹春氏を一挙に押し上げ、小此木氏の地滑り的敗北となったといっていい。

NHKの出口調査によると、小此木氏は自民党支持層の4割しか固めきれなかった。自民党内でも菅政権への批判が広がっていることを示している。菅首相にダメージを与えることを狙って、自民党支持層の一部があえて山中氏に投票した可能性もあるだろう。秋の解散・総選挙前に実施される9月の自民党総裁選にむけて「菅降ろし」の動きが加速しそうだ。

投票率は49%にとどまった。前回の37%、前々回の29%を上回ったものの、民主党への政権交代が実現した2009年総選挙と同日選挙となった前々回の69%には大きく届かなかった。

与野党が政権をかけた激突する秋の解散・総選挙にむけて、私は、無党派層が多い都市部を選挙を象徴する横浜市長選の投票率に注目していた。安倍政権が6連勝した過去6回の国政選挙は、投票率が50%そこそこだった。2009年総選挙のように70%近くまで上昇しなければ、政権交代は難しい。今回の横浜市長選は、感染爆発と医療崩壊を招いた菅政権への怒りが噴出するなかで、それが投票率にどのくらい結びつくのかを見定める試金石といえた。

政治への怒りは投票行動に結びつくか。自民分裂・大混戦の横浜市長選、最大の焦点は投票率だ!

結果的には、現職首相のお膝元で自民が分裂して著名人が乱立し、感染爆発と医療崩壊を招いた菅政権への反発が急拡大して「菅政権の是非を問う」市長選として全国的に注目された割には、投票率は伸び悩んだといえる。菅政権への怒りは「野党への強い期待」にはつながらず、幅広い無党派層の投票行動をかき立てるまでには至らなかったと言わざるを得ない。

立憲民主党は横浜市長選の「勝利」に浮かれることなく、秋の総選挙に向けて政権交代への期待感を高める抜本的な手を打つ必要がある。このままでは政権批判は高まっても投票率は伸び悩み、野党の議席が増えることはあっても野党が過半数を制して政権交代に届くことは難しいだろう。二大政党政治において、いくら議席を増やしても政権交代が実現しなければ「敗北」であることを肝に銘じてもらいたい。

一方で、投票率がわずかに上昇しただけで組織票に勝る小此木氏が野党候補に惨敗した結果は、都市部の自民党議員を中心に強い衝撃を与えるだろう。自民党がこのまま不人気の菅首相を掲げて総選挙に突入した場合、都市部を中心に「菅降ろし」の世論が高まって野党に雪崩を打ち、自民党が大幅に議席を減らす展開が現実味を増してくる。さらに感染爆発と医療崩壊が悪化し、菅政権への怒りが沸騰すれば、自民党が地滑り的な惨敗を喫し、政権交代に発展する可能性も生じてきたといえるのではないか。10月21日に衆院任期満了が迫るなか、「菅首相では総選挙を戦えない」という危機感が広がるのは間違いない。

菅首相が地元の横浜市長選で惨敗したことを受け、政局の焦点は9月17日告示ー同29日投開票の日程で調整が進む自民党総裁選に移る。自民党総裁選で菅首相を再選させたうえで解散総選挙に突き進むのか、「新たな顔」を選ぶのか。自民党総裁選の日程が決まる8月26日に向けて、自民党内の駆け引きは激化しそうだ。

菅首相は当初、パラリンピックが9月5日に閉幕した後ただちに臨時国会を召集し、自民党総裁選が告示される同17日までに衆院解散に踏み切って総裁選を「凍結」し、総選挙に勝利したうえで総裁選の無投票再選を果たす筋書きを描いていた。

ところが、東京オリンピック閉幕後に感染爆発と医療崩壊が深刻化して内閣支持率は急落。緊急事態宣言を9月12日まで延長することを余儀なくされ、総裁選前に衆院解散に断行することは極めて困難になった。まずは自民党総裁選で再選を果たし、その後に解散総選挙に挑むという「再選戦略の見直し」を迫られることになったのである。

横浜市長選の惨敗を受けて自民党内から「菅首相では総選挙は戦えない」として自民党総裁選で首相交代を求める声が高まるのは必至だ。すでに安倍晋三前首相に近い高市早苗前総務相と下村博文政調会長が出馬に意欲を示しているほか、昨年秋の総裁選で安倍氏が後継指名を目指して失敗した岸田文雄前政調会長も出馬の準備を進めている。安倍氏や麻生太郎副総理は二階俊博幹事長が主導する菅政権の党運営に不満を募らせており、総裁選で対抗馬擁立をつらつかせながら、菅首相に対して二階幹事長の交代を迫るとみられる。

菅首相は安倍氏と二階氏の双方と妥協をはかって総裁再選の道筋をつけるのか、安倍氏または二階氏の一方と手を握って総裁選で激突するのか、または自ら先手を打って退陣し河野太郎行革大臣らを擁立してキングメーカーとなることを目指すのか、内閣支持率やコロナ危機の状況を見極めながら自民党総裁選への対処を決めることになる。

総裁任期満了に伴う今回の総裁選は国会議員だけでなく全国の党員が参加する「フルスペック」で行われる。内閣支持率が急落した菅首相は、党員投票で苦戦が予想される。派閥を中心とした国会議員の「談合」によって党員投票の結果を覆して菅首相が再選すれば、総選挙が間近に迫るなかで党員の反発は避けられない。党員の間で「菅降ろし」が吹き荒れる展開になれば菅首相の再選は厳しくなってくる。

はたして予定通り9月17日告示ー同29日投開票の日程で、しかも党員投票を含む「フルスペック」の形式で、自民党総裁選は実施されるのか。菅首相の再選に黄信号がともったことを受けて、二階幹事長がコロナ危機を理由に「強権」を発動して総裁選の延期や投票形式を変更するのかどうか、8月26日に予定される総裁選日程の決定に向けて、自民党内の駆け引きは激化するだろう。総裁選日程が正式に決定すれば、高市氏や下村氏に続いて、有力候補とみられる岸田氏も正式に出馬表明する可能性が高い。その場合、巨大派閥を率いる安倍氏と麻生氏が岸田氏に乗るのか、菅氏に乗るのかが最大の焦点となり、菅首相が出馬断念に追い込まれる可能性も出てくる。

二階幹事長は安倍政権時代、自民党の党則・総裁公選規定を変更し「安倍氏の3選」を主導した前歴があり、今回も総裁選を取り仕切る幹事長としての「裁き」に注目が集まる。このまま総裁選に突入して「菅再選」を実現できると判断するのか、「菅降ろし」の拡大を警戒して総裁選先送りを画策するのか(その場合は党則・総裁公選規定の変更をめぐり党内は大混乱に陥る可能性もある)、はたまた「菅再選」は困難とみて菅首相をいち早く見限り、野田聖子幹事長代行ら別の候補を担ぐのか。

自民党はコロナ危機そっちのけで、総裁選にむけ、安倍氏、麻生氏、二階氏、菅氏の熾烈な権力闘争が勃発しそうだ。

しかし、感染爆発と医療崩壊が加速し、救えるはずの命が次々に失われていく現状において、政権与党が党内権力闘争に明け暮れることなど許されるのだろうか。

菅首相が総裁再選を果たした場合、10〜11月に希望者へのワクチン接種が完了して内閣支持率が回復することを期待し、10月21日の衆院任期満了ギリギリまで衆院解散を引きのばして総選挙の投票日を11月に先送りする可能性が高い。この場合、菅首相は現在の政権の枠組みをほぼそのまま踏襲し、「無為無策のコロナ対策」を延々と続ける恐れが高いだろう。

一方、菅首相に代わる新しい総裁が誕生した場合、党役員・内閣の人事を経たうえで、新たなコロナ対策を掲げ、10月解散・11月総選挙に臨むことになる。この場合も新たなコロナ対策が実際に動き出すのは11月総選挙の後になるだろう。少なくとも9月末まで自民党内は総裁選一色となり、11月に総選挙が終わって新体制が整うまで、3ヶ月以上も政治空白が続く恐れが高いのだ。

ほんとうに9月に自民党総裁選を実施している余裕があるのだろうか。私は「菅政権の延命」を望んでいるわけではない。しかし、感染爆発と医療崩壊をそっちのけにして、首相が権力維持のために総裁選に奔走するのは極めて危険だと思う。総選挙と総裁選による政治空白が生じるのを防ぐため、与野党が知恵を絞る時ではないか。

立憲民主党も今回の横浜市長選で投票率が伸び悩んだことを真摯に受け止めるべきだろう。感染爆発と医療崩壊を招いた菅政権への怒りを野党が広く吸収するには至っていないことを改めて自覚する必要がある。このまま総選挙に突入しても、投票率が伸び悩めば政権交代は難しい。まして自民党に菅首相に代わる「新たな顔」が誕生すれば、野党は一挙に埋没する恐れもある。

目下、国民がもっとも期待していることは、感染爆発と医療崩壊を食い止め、国民の命を守る政治だ。総選挙にむけた選挙活動に奔走するよりも、現職国会議員として目の前の危機に対処できることを優先させてこそ、立憲民主党の存在感を高め、多くの国民の支持を得ることにつながるのではないか。

まずは与野党が率直に話し合って10月21日の衆院任期満了日に解散することで合意し(投開票は11月28日)、それまでの期間限定で与野党は政治休戦して「医療提供体制の緊急整備」など喫緊の政治課題に絞って協力する(事実上の大連立)。それとともに自民党総裁選も衆院選後に延期し、菅首相は野党との党首会談を通じて意見を取り入れ、与野党合意にもとづいて迅速に政策を決定し、菅政権の閣僚や専門家が主導してきた無為無策のコロナ対策を転換する(衆院解散までに最低限、コロナ専用の巨大臨時病院・野戦病院を緊急整備し、治療が必要な患者が治療を受けられずに命を落とすことがないようにする)ーーこのようなかたちをつくらなければ、9月に想定される感染爆発と医療崩壊の一層の悪化に対処できず、「救えるはずの命」が次々に失われていくのではないかと、私は強く危惧している。

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