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こちらアイスランド(47)蒸気があちこちから沸き立つ幻想的な地熱地帯を駆けるEldvörp〜小倉悠加

エルドヴゥープ(Eldvörp)という地名を聞いた時、「なにそれ、ゲップ(burp)みたい」と思った。垢抜けない名前だなぁ、と。私の脳内ではアイスランド語のeld(火)と英語のburpが合体し、即座にヘンテコなイメージが出来上がった。

アイスランドは言わずと知れた火山国・地熱大国で、首都レイキャビクが位置するレイキャネス半島には、火山帯だらけ。そのうちのひとつ、ファグラダルスフャットル(Fagradalsfjall)火山帯に属するのが、3月に噴火した火山だ(見学記はここ)

その火山の東側に、エルドヴゥルプ・スヴァルステンギ(Eldvörp Svartsengi)火山帯がある。そこには美しいブルーの水と世界一の広さを誇る、世界的に有名な露天風呂のブルーラグーンがある。ここが天然温泉だと思っている人もいるようだが、実はスヴァルステンギ地熱発電所の副産物として生まれた場所だ。

ここが地熱発電所。タービンの冷却水を近くに排水した結果がブルーラグーンとなった。

そして10月末の天気がよかった日に、エルドヴゥープ(Eldvörp)を訪ねた。

いつものことながら、どこへ行くのか知らずに家を出た。車の中でエルドヴゥープという地名を聞いて、ゲップみたいだと思った以外には、家を出るのが午前10時半と予定より遅くなったため、午後2時からのアート展示会のオープニングに間に合うかの方が気になった。

途中までは勝手知ったるルートで、ブルーラグーン、隣町のグリンダヴィク(Gindavík)、そしてケプラヴィク国際空港へも行ける道だ。初めてアイスランドに来る人であれば、空港からレイキャビクへ向かう道沿いの、苔むした溶岩大地に目を奪われることだろう。溶岩大地はあちこちで見てきたが、それでも未だに、この道沿いに見える果てしない溶岩大地や水平線には心ときめく。「あぁ、アイスランドだ」と異国情緒(?)を感じたりする。

車はブルーラグーンの前を素通りし、未知なる未舗装道へと進んでいく。例によって「ここ、走っていいのかな。大丈夫?」という道だ。どうやらここは電力会社の私道らしい。その故の看板もある。道の横には温熱パイプが走っている。

「ほら、見てごらん。普通の道路として、記載されている。走ってはいけないなら記載しないだろう」彼はレイキャネス半島の観光局が発行するオフィシャル観光マップを持参していた。

ま、一理あるね。本当に入っちゃダメ地域なら、門を作って閉めておくはずだし。

私道であったとしても公式観光マップに記載されている。勝手にオッケーを出して道を進んだ。ゲップに何があるのか知らないが、とりあえず先を急いだ。

ちなみに、この道には番号がないため、地図に印をつける以外に説明のしようがない。それでもあえて説明すれば、ブルーラグーンの駐車場の前をそのまま素通りして、パイプラインと伴走するように右へ曲がる道がエルドヴゥープへとつながる。

ブルーラグーンから30分ほど走ると、突然、蒸気が湧き上がる大地が見えてきた。へ〜、なるほど〜。エルドヴゥープってこういう場所だったのかぁ。基本的に地熱地帯なんだぁ〜〜〜って、アホか!ここは地熱地帯に決まってる。すぐ隣では火山が噴火してるし、地熱発電所もボアホールもある。分かりきってることなのに、蒸気が上がっているところを見て思わず感激した単細胞な自分を嘲笑った。

エルドヴゥープとは苔むす溶岩大地からやさしげに蒸気が沸き立つ場所だった。

安全な場所に車を止め、周囲を探索してみることにした。道は続いているが、先が小高くなっているため向こう側が見えない。蒸気のある場所からあまり離れたくないので、徒歩で小高い道の先を行くと、小高い山からも湯気が立ち込めていた。幻想的で実に美しいーーー。

この山はクレーターで、簡単に登ることができた。周囲はもくもくと湯気が立っている。
蒸気に包まれ、すべてが幻想的に見える瞬間。この時に私が撮っていたのが下の写真。
風向きや角度により、こうして色鮮やかにも見える。蒸気に火傷するほどの熱さはない。

緑の部分は苔が数種類混在し、見た目が松のような低木も地を這うように生えていた。味見をしてみると、松かトウヒかという感じで、いい香りがした。私は植物が好きで、興味を持つとその場で味見もする。アイスランドには毒性の強い植物はほとんどないと言われ、安心して味見ができる。なので、食べられる植物もいくつか知っているし、香りのいいハーブや薬効成分のあるものは、ウォッカ漬けにしたりもする。

もう冬なので植物はほとんど枯れ、苔も茶色になっているところが多い。けれど、こうして蒸気がある場所の植物は青々としている。蒸気はホワっと感じる程度だから、植物にもやさしいのだろう。火傷の心配はない。はほんのり暖かい湯気は肌にやさしく、心地よく、安心してあちこち歩いてまわった。

周囲にはいくつか小高いクレーターがある。軽めの溶岩でできた山は、若干足元が滑りやすいものの、注意して登り降りすれば問題はない。私は午後のアート展示会を想定して、アウトドアに向かない服装をしていたけれど、何とかなった。溶岩はゴツゴツと鋭角な部分が多いので、洋服にひっかかると生地が痛んだり、最悪裂けたりするので注意が必要。

もうひとつ小高いクレーターに登り、周囲を見渡し、ハタと気づいた。ここは火山帯だ!ほら、一直線にクレーターが並んでる。この見覚えのある風景は・・・ラカギーガル、ラキ火山帯と同じだ!

小高い別の山に登ってみると、クレーターが一直線に並んでいることを発見!

「ほら見て、あそこから一直線にクレーターが並んでる。向こう側にも続いてるね。ここはちょうど火山帯の割れ目のところなんだ。へ〜、すごい!」と、なんだか感激してしまった。

専門家から笑われそうな子供じみた感想だけど、クレーターが直線上で連なっていることに気づいたことが、とてもうれしかった。実際に噴火する火山に触れて以来、興味を持ってあちこちの火山を見てきた。その積み重ねがなければ、この火山帯のクレーターの並びは気づきもせず素通りしていたに違いない。まして感動もしなかったと思う。火山の興味ゼロだった私が、ここまで気づくようになったことに感無量。やはり実体験は重要だ。

この火山帯のクレーターは10キロほど続いているという。探したところ、以下のツイートの写真がわかりやすかった。写真を見るには、日時のリンクをクリックしてほしい。

ツイートには「レイキャネス半島のエルドヴゥープにはクレーターが10キロ連なっている。エルドヴゥープは素晴らしい見学地で、クレーターに登ることもできるし、雄大な景色を眺めることもできる」と書かれている。

さらに散策すると、小さな溶岩トンネルを見つけた。小さな子供なら、隠れたり、遊んだりできそうなお手頃サイズ。冒険ごっこにもってこいの場所。

遠くに見える煙がスヴァルステンギ地熱発電所。ブルーラグーンもそこにある。

蒸気がもくもくしているエルドヴゥープはそれほど広い地域ではなかった。それでも小一時間ほど散策しただろうか。週末のドライブは「サクっと見てレイキャビクに戻ろう」が合言葉なのに、現地に到着するとどうしても時間をかけて、あちらもこちらも見たくなる。何よりも、大自然の中に身を置くことが、気持ちよくて仕方がない。

アイスランドの大自然。風光明媚とう表現に当てはまらない場所もある。今回の写真を見ても、前半は煙っぽいのが写ってるだけだし、後半は茶色っぽいだけ(苦笑)。

伝えたいことは多くても、いつも語彙が足りなくてムズムズしてばかりだし、写真も携帯任せなので、果たして読者のみなさんにどこまで伝わっているやらーーー。

それでも、選挙結果のやるせなさや重苦しさを背負いながら緻密に情勢を分析する鮫島さんや、その記事を真剣に読み解き、自らの糧にして次回の選択に役立てようと前向きな姿勢で政治を見つめる読者に、「こちらアイスランド」は少しでもほっとできる別空間になればと思っているのです。です〜。

アート展示のオープニングには、会場に1時間遅れで入ることができた。アーティストのスピーチなどが行われる華やかな場には間に合わなかったけれど、人混みが少なかった分、ゆっくりと見ることができた。その上、この日の夜は今季初めてのオーロラに恵まれ、盛りだくさんの1日だった。

小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら

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