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こちらアイスランド(67)見つけたらラッキー!レストランの採算度外視「お味見コース」〜小倉悠加

前回の1周年記念、いつもよりも大勢の方に見ていただき、有難うございます。『こちらアイスランド』をどこから読んでいいやら?と思っていた人には、少しは指針になったでしょうか。

いただいたコメントが私にはすごく意外で、読者と筆者の感覚には、思いがけず大きな隔たりがあるものだと驚いています。どちらにしても、みなさん励ましてくれてありがとう!アイスランドのあれこれを楽しんでいただいているようなので、とりあえずはこのお気楽路線を続けますね。

今回はレストランの話。2月には書き終えていたものです。二週間続けて食べ物の話は避けたいと一週だけずらすつもりが、タイムリーに別の話題出てきて、今日までズレズレに。書き出しの時間系列が変なのはその関係なので、ご容赦を。

それでは私の美味しかった食べ物日記をどうぞ〜。


前々回はパン屋だったので、今回は私が一番好きなレストランの話。食事会をする時はこのレストランを使うことが多いので秘密ではないけれど、本当は秘密にしておきたかったりする。

食文化のレベルには少なからず疑問があるこの国でも、首都たるレイキャビク、使えるレストランはいくつかある。

ツアーを企画したりコーディネーションをする際に、レストランは必ず使うため、詳しく知っておく必要がある。なのでなるべくレストランは定期的にチェックしているーーというのは口実で、実は食べ歩きが好きなのだ。

レイキャビクでは日本ほど気軽に外食ができない。ハンバーガーでも2500円はするし、ビール一杯千円は当たり前。まして普通においしいラムステーキなどを頼むと一品5千円くらいなので、前菜やデザートをとるとすぐに一人あたり一万円になる。

そんな目が飛び出る価格設定なので、外食をする時は気合を入れてレストランを選ぶ。新しいレストランがオープンすれば試しに一度は行くけれど、値段に見合わないと思ったら、二度足を運ぶとことはない。もちろんニーズによっても使い分ける。どちらにしても頻繁に外食に出ることは、財布が許してくれないのだ。

そんな中、時々必ず行くことになるレストランがある。それがAPOTEK kitchen + barだ。

店内の壁には薬瓶がディスプレイされ、かつて薬局(APOTEK)だった名残を残している。

このレストランは私が知る限りずっとクオリティを落としていないし、ミシュランに媚びることもなく、カジュアルな路線を保っている。印刷済みのメニュー内容は変わらないが、時々海外からシェフを呼んだり、目新しい食材を使った期間限定メニューを展開したりと、以前から地元民を飽きさせない工夫をしている。ありがたや〜。

コロナで苦しい間も驚くような企画を時々出してくれた。だから目が離せない。それも「飛び付かずにいられないっしょ!」という企画なのだ。

前述のように、レイキャビクではハンバーガーでも2500円はする。ビールは一杯千円、カクテル類は2500円以上が当たり前。なのにこのApotek、時々やってくれるんですよ〜。賞に輝いたカクテル付きで食事は6品が出てくる「お試しメニューコース」。その上、スパ施設ご招待券までついて一人6千円弱。それでも最近一人前千円アップになり、その前までは5千円ぽっきりだった。

計算が合わないでしょう。カクテル代金が2500円。残りの3500円でコースの料理を出してくる。普通のレストランでは、一品3500円で食べられるメインがあればラッキーだし、そこまで安いメインディッシュはほぼ存在しない。なのにその金額で料理6品+ドリンクも出てくる。夢ですかぁ?!

超お得なこのコースは定期的に提供されている訳ではなく、突然アナウンスされる。これを見つけた2年前、すぐに飛びついたことは言うまでもない。基本的に料理の内容は変わらないものの、あまりにもお買い得すぎるので、この二年間で6回も行った(笑)。だって、文字通り美味しすぎるんだもん。

それじゃその内容をサ〜っとご紹介しようと思う。でも、ササーっとはいかないかな。

まずはカクテル。ディラジン(ディルのジン)はカクテルの賞を受賞しただけあり、とても味わい深い。香り高く濃厚で、ディルの香りとマンゴーのリキュールが不思議にとてもよく合う。これをチビチビ舐めながら、「ウッマー」と周囲の誰もわからない日本語を声にするのが毎回楽しい。このカクテル、単品で頼むと2800円なり!

料理に移ろう。前菜その1はタコ型の皿に運ばれてくるのはマグロと貝柱の前菜二種。アイスランドで美味しいマグロを食べた試しがないため、マグロは割愛。がんばってるとは思うけど、日本のスーパーで390円で売ってる鉄火の方が質が上。と思わず書いてしまうけど、おっとおっと、こういう比較はしちゃいかんと自分に言い聞かせる。軽くソテーした貝柱の上に乗るのは北極イワナの卵(ウマウマ!)グリーンアップルのサラダとも相性がよくて好き。

前菜その2はしっかりした味のついたビーフ・カルパッチョ。ところどころにクリーミーなポルチーニが乗っていて、それがパルメザンとチーズのカリカリととてもマッチしている。これ、見た目よりも結構お腹にくる。ちなみに、ここからは全て一皿で二人分。

前菜その3はドーム型の透明の蓋が乗る皿が、うやうやしく運ばれてくる。蓋が開けられると、燻製の香りが漂う煙の中から、ヌヌっとタコが登場する。サイドの赤、緑、黄色の彩もいい。低温でじっくりと調理するのか、柔らかくしっとりとした食感が素晴らしいし、しっかりとタコの味がして、たこ焼きが食べたくなる(そこじゃない?!)。付け合わせのアボカドがマッチしているかは疑問だけど、チェリートマトはいいアクセントだった。

メイン料理1は鴨肉。季節なのか、この時期よくメニューで見かける。濃厚な甘辛っぱいソースが特徴で、下に敷いてあるのは香り高いきのこクリームのソース。きのこの付け合わせは大歓迎だし、芋チップスのカリカリも食感のアクセントになっている。濃厚な味付けで食べ応えもあり、これがメインでもおかしくないレベル。

メイン料理2はビーフのステーキ。どこの部位の肉かはわからないけど、とろけるようなスムーズな舌触りで、ミデアムレアの焼き加減はプロの技。先ほどとは別の種類のキノコの付け合わせは、キノコ好きの私にはうれしい。ベルネーズソースは基本に忠実かつ素材に手抜きはなく、食材とのマッチングはとてもよかった。けれど、鴨で既にお腹いっぱい状態。このメインはあまり手をつけられずで持ち帰った。

最後はもちろんデザートだ。最初にこのコースを食べた時に感激したのは、デザートの演出だった。今回も、数種類のケーキが飾られたプレートには花火が音をたてて華々しく舞い、ドライアイスのスモークが皿をモワモワと覆った。


あれはレストランの一切閉鎖が解除され、やっと制限付きで外食ができるようになった2020年秋のことだった。コロナで緊張を強いられ、家にこもらざるをえない生活が半年も続いていたので、外食できることが心からうれしく感じた。その上にこの大盤振る舞いだ。コロナ前だったら、「誕生日でもあるまいし、花火だなんて陳腐で大袈裟な演出」と鼻にもかけなかったかもしれない。けれど、社会に閉塞感が充満していたあの時に見たこの花火は、心から嬉しく、楽しく、レストランの心意気に心底感謝した。その感謝は今回も変わらなかった。

美味しく、楽しく、お腹いっぱい!写真にはないけど、サワードーのパンもついてきた。

デザートといっしょにコーヒーや紅茶をとれば更にゆっくりできる。今回、私たちは途中からシャンパンに切り替えた。お料理が安すぎるので、少しは貢献しようという心意気も手伝い、奮発してボランジェ!こんな美味しいシャンパンをグラスで提供しているのは、レイキャビクではここだけだと思うし、東京でもなかなかないかと。

このレストラン、ディナーだけではなく、ランチでも超お得なメニューを提供してくれる。早くても数日前にしかアナウンスしないので、興味ある人はAPOTEK kitchen + barのFacebookページをマメに見てね。

ちなみに、このコースをオーダーするとついてくるのは、ロイガルというスパのペアご招待券。普通だとペアで13,000円だそうで、支払った料理代金よりも高い!招待券6枚も持ってるのに、まだ一度も行ってないので、これから消化します!

小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら

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