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こちらアイスランド(57)湯川れい子さんと美味しくドバっと「半分こ」の夜。〜小倉悠加

20余年ぶりに第二の母に会った。美味しいものを食べて、楽しくおしゃべりをして、なんと楽しかったこと!

彼女の明るい笑顔と、歯に衣着せぬ率直な物言いと、私の母と2歳しか違わないのに、80歳後半とは思えない熱量の存在感。そう、存在感がなんかも〜凄い!エネルギッシュなのだ。といっても、それは私がかつて慣れ親しんだ彼女の姿そのものであり、ひゃー、変わらない!と脱帽。

あれはもう40年以上前のこと。アメリカの高校を卒業して帰国した私を、アシスタントとして雇ってくれたのが湯川れい子さんだった。

洋楽が大好きで、湯川さんがDJをしていた「全米トップ40」に毎週欠かさず手紙を書いていたところ、思いがけずお声がけをいただいた。主な仕事はレコード整理やラジオ番組に使うアーティストの資料作りで、音楽好きとしては最高のアルバイトだった。それは大学を卒業する直前の80年代初頭まで続けた。

ちなみに、私の次のアシスタントがなっちゃんで、その次が和田ちゃんこと和田靜香さんだった。サメタイでも大きく取り上げられた「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた」「香川1区」密着日記」で話題沸騰の、鮫島さんお墨付きの市民目線政治ライターだ。元を正せば音楽ライターだったんだけどね。

で、今回の約束は「美味しいものを食べましょう!」。実は2020年3月に久々に会うことにしていた。トーキョーノーザンライツフェスティバルという映画祭の、関連行事として続けてきた音楽イベントの10周年記念で、私は一時帰国をする予定だった。

それがご存知の通りの理由から半年伸ばし、一年伸ばし、そしてやっと今回2022年になって会うことができた。

約束の場所に到着した時、そこには既ににこやかなれい子先生が座っていた。

「うわ〜、本当にお久しぶりですぅ〜〜〜〜。」久しぶりすぎて、それ以外何と言っていいやら、なんだかわからなくなってしまった。

その後は、ひたすら美味しいものを食べて、20年間のギャップを埋めるべく、いや30年間分くらいあったかな。おしゃべりをして、思い出話などもして、楽しく過ごした。あれから40年以上経っている。道は違うけれど、ふたりともよく生き残ったものだと感慨深かった。そして何だか、笑っちゃうほど楽しかった。

その余韻は数日続いていて、何がそれほど楽しかったのかを考えてる。もちろん久々に大好きな人に会えた嬉しさと、美味しいものが食べられたことと、美味しいものを決める過程を思い出すと、クスっと笑ってしまうのだ。

私はとにかく久々に会って話がしかったけれど、彼女はそこに美味しいものをどっさりと運んできてくれた。やっぱり美味しいものはいい。美味しいものは人を幸せにする。

一通りの挨拶を済ませると、このレストランの常連であるれい子先生は、私の前にメニューを起き、身を乗り出して指をさしながら、私にわかりやすく説明をしてくれる。

「このレストランは新しいメニューもあるけど、改築前の名物料理をメニューに復活させることにして、それがここに書いてあるのね。パーコーメンは有名だし、どこのパーコーメンを食べてもここのには叶わない。日本中どこを探しても、ここのが一番美味しいと思う。和風のピラフも有名で美味しいし、日本で初めておいしいハンバーグを作ったのもこのレストランだった」と。

フムフム、そうなんだ。ビートルズやマイケルなんかが食べたメニューも入ってる可能性がありそうで、ワクワクする。どのメニューの何が美味しいかのポイント説明もあり、それを聞いているだけで楽しい。私はあまり大食漢ではないため、あっさりめのメニューを少なめでいいから、それじゃサッパリのピラフがいいかな、と思っているとーー。

「こっちの新しいメニューも素晴らしくて、私も好きなものがいっぱいあるんだけど、お肉もお魚もあるし、お野菜のココットもいいのよね。普通のサラダじゃなくて、温野菜になっていて。私はこれを取るから、半分こしない?しようね!」とたたみかけてくる。

いいねいいね、半分こ。一皿全部だと食べきれないから、半分に分けられるの私も好き!女性といっしょだと、こういう食べ方ができて便利だ。

「でさ、ここにメインがあって、魚料理でもお肉でもあるわよ。メインはどうする?」

えーと、私も久々にここに来たので、せっかくだから懐かしいメニューがいいかな。通訳時代、通ったことのある場所だし、当時ここで食べた記憶も少なからずあるし・・・。

「そう、そしたら名物料理がいいよね。何にする?パーコーメン、美味しいよね。海外の人でも食べられる麺類をということでここのシェフが以前開発をして、それで人気が出て、他の店でも真似して作り始めたのよね。でもやっぱりここのパーコーメンが最高よ」と、再度、そしてやたらパーコーメンを勧めてくる。

「おなじみさんだと、パーコーメンを半分にして、別のメニューも半分にして、ハーフでもオーダーできるのよ?そうする?」またまた押してくる。サッとメニューを決めて話をしたいのか、それとも彼女の超おすすめがパーコーメンなのか?!

いや、本当に、実はパーコーメンは食べたいと思ったけど、これを一品とると、小食の私はそれ以上食べられなくなる。だからハーフオーダーができるのはとってもうれしい。ナイス・サジェッション!

パーコーメン、ハーフでいただきます!

「その下のインドネシア風ライスと半分にできるよ」と言われたけど、最初に説明してくれた時、サッパリめの醤油味のピラフがいいと思った。家庭でも作れるけど、家庭では出せない味だと思うし。

和風の海鮮ピラフでも半分できますかね?

「和風ピラフも半分にできるわよ。それじゃ和風ピラフがいい?インドネシア風じゃなくて?」と。

ということで、彼女のイニシアチブにより、メニューが次々と決まっていく。そして全部仲良く半分こ!さすがに胃に重たいからパーコーメンは私だけだったけど。

れい子先生はテキパキとオーダーしていく。「ココットは真ん中に置いて、お皿は2枚ね。二人で分けるから。ピラフは最初から盛り分けてね」と。指示がわかりやすい。コマンダーだ。

いつもここで飲んでいるという山梨のワインはフレッシュでやさしい香りの、雑味の少ないとてもさわやかな味だった。運転が大好きなのは知ってるので、お飲みにならないのかと思ったら、いっしょにワインで乾杯できてうれしい誤算。

いつも素敵な笑顔が魅力。お土産も同じくらい魅力的だったといいな。

食事が運ばれてくると、お給仕の人にこうして、あぁしてという指示も的確で、なんというか、お母さんみたいに全部段取りをつけてくれる(笑)。

野菜は仲良く取り分けてくれるは、パーコーメンが来ると、「そこの薬味、全部ドバっと入れた方がいいわよ、ドバっと!」というサジェッションが飛んできた。そこには小口切りの小ネギ、白ネギ、ラー油、七味の薬味セット4種が上品に、そしてたっぷりと盛られている。

私は最初から薬味を入れることはしない。何も入れずにそのもままの味をみる。一口スープを味わい、そのまま少しいただいた後に適宜薬味を入れるのが好きだ。薬味を入れた方がいいという彼女の指示に従わず、まずスープをすすった私を見て、すかさず飛んできたのが「ドバっと!」の指示だった。

今思い出すと、その表現に思わず笑ってしまうけど、現場にいた時の私は「ドバっとというけど、結構な量の薬味だよね。一挙に入れるより、最初半分ずつくらい入れて、それが少なくなったらまた足した方がよくない?」というツッコミを心の中で入れていた。

パーコーメンの薬味で攻防を繰り広げるとは滑稽な話だけど、少しだけ「ドバッと」に抵抗していた。こうして書きながら思い出すと、なんだかおかしくて笑ってしまう。で、少し薬味を入れてみると、私のネギ好きも手伝い、やっぱりネギは入れた方がおいしい。美味しくスープが飲める。「ドバッと」ですね。確かに結局ドバっと入れることになった。だってその方が美味しいんだもん(笑)。

辛いのは苦手なので、ラー油には手を付けなかったけど、きっととびきり美味しいラー油だったのではないかと思う。「全部ドバッと入れたほうがいい」という最初の指示を守らなかったことを、今はちょっぴり後悔してる。

パーコーメンがあまりにもキョーレツな印象を残したため、ピラフに関しての言及が少ないけど、醤油の香ばしさを生かした味付けで、トッピングの大葉とノリのコンビネーションがいかにもザ・日本の味!軽く米を炒るのか、ところどころにカリカリした食感もあり、裏切らない一品だった。

どれも大変においしゅうございましたぁ〜。

そしてデザートの出番とあいなった。デザートメニューを前に「何にする?」の言葉に続いて間を入れず、「ここのアップルパイが名物で、とっても大きいの。半分こしようか」

老眼の私の目は、メニューを素早く読み取ることができない。メニューに目を通す時間がなかったので、何となく自分で選んだ感が薄いけど、名物は名物、美味しいに違いないのでオッケー。

「半分こするから二つに切ってね。そこにバニラアイスを2個ね。ひとり一個ずつ」とまたまた指示が飛ぶ。すごくいい、わかりやすい、そういうの好き!

運ばれてきたアップルパイ(クレープにアップルを乗せたもの)は確かに大きくて、半分こしてちょうどいい感じ。さすが・・・。クレープ地の皮がパリンと焼けていて、香ばしいアクセントになっていた。バターやメープルの濃厚な舌触りと、アップルの軽やかさと皮のビターな香ばしさ。れい子先生、さっすが〜。

そして食事をしながら話すこと・・・え、4時間?!時間がどこへ飛んでいってしまったやら。まだまだ話し足りないことがあるのに。

ここに来る前、会うのがとても楽しみだったのと同時に、私では話題不足ではないかと少し心配をしていた。だって、天下の湯川れい子さんですよ。政財界に知り合いはわんさかいるし、あちこちの委員会に所属していて、いつも専門家と話をしている人だ。私のように、極北の僻地アイスランドに縮こまって生きている者など、話題が少なすぎて・・・と正直少しばかり意識が萎縮していた。でもそれは杞憂だったのかもしれない。

政財界のことは分からなくても、40年前湯川家に出入りしていた人々や出来事はよく知っている。北海道の別荘にも連れていってもらったし、ハワイにも2回ほど同行した覚えがある。当時彼女が抱えていた子育ての悩みや嫁としての立場、作詞の苦悩からお化粧の仕方まで知っているし、ジョン・レノンが亡くなった夜は一晩、湯川邸で過ごした。

アシスタントではあったけれど、立ち位置は娘のようなものだった。それはれい子先生のアシスタント・秘書として関わった女性全員に共通することでもある。でもって、れい子先生、本当に面倒見がいい。とても洋風でモダンで進歩的なのに、日本の魂、肝っ玉おっかさんみたいなところがある。

約束通りの「美味しいものをいただきながら、楽しく話をしましょう」というひとときだった。多忙なれい子先生に、こんなにたっぷりと個人的な時間を割いていただき、またおいしいものを仲良く「半分こ」できて、本当にうれしかった。幸せでした。

話の中で印象に残ったのは、私がアイスランドに拠点を移したことを「たんぽぽの種みたいに、突然飛んで行っちゃったでしょ」という言葉。作詞家だわ〜〜!


小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら

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