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朝日新聞「社内言論統制」強まる〜会社の意に沿わない記者個人の出版・執筆・講演活動を「事前検閲」で封じ込めるガイドラインを策定

FACTA10月号『迷走する朝日新聞が「言論統制」/漏れなく社外の表現活動を「事前検閲」/「北朝鮮と一緒じゃないか」』という記事が、複数の朝日新聞記者から私のもとへ送られてきた。

朝日新聞が10月1日に「社外活動に関するガイドライン」を突然改訂し、社外で行う講演、執筆、取材、出演など全ての表現活動について編集局の「事前検閲」を義務付けたという内容だ。

記事によると、労組には実施の3日前に通知された。「そもそも『社外活動に関するガイドライン』は社外で政権批判などを繰り返す記者を取り締まるために3年前に新設されたもの」という現役社員の解説が掲載されている。政権批判などを繰り返して記者職を外されても、個人の職務外活動として執筆や講演を続ける一部社員を標的にしているそうだ。

今回の改訂では「本社の報道・取材領域に関わる取材・執筆・出版等」は勤務時間外であってもすべて「職務活動」と定義し、編集局の「確認(監修)」を必須とした。朝日新聞はありとあらゆる事象を取材領域としており、すべての社外活動を「事前チェック=検閲」するということだ。現役社員は「幹部の意に沿わない言論活動、表現活動は絶対に認めないということでしょう」とコメントしている。

拙著『朝日新聞政治部』で詳しく触れたが、私は朝日新聞時代、原発事故をめぐる『吉田調書』報道で特別報道部次長を解任された後、記者職も外され、会社の著作物を管理する知的財産室に配属された。そこで社員が他社から書籍を出版する際の手続き(承認業務)を担当していた。

まさに「ガイドライン」に従って出版を認めるか否かを判断する側にいたのだ。

だから会社の手の内は熟知している。その経験を踏まえて、今回の改訂を解説してみよう。

私は知財室在籍中にツイッター(現在のX)の個人名のアカウントを開設した。プロフィール欄には社名を明示しないで「ジャーナリスト」とだけ記載し、職務外活動として会社に届を出した。

職務ではないのだから、投稿は休日や勤務時間外に行うことを徹底した。そして、温かく見守ってくれた広告局出身の上司に迷惑がかからないように過激な発信は控えた。

しかし、編集局(GLOBE・論座)に復帰した後は政権批判に加え、朝日新聞を含むマスコミ報道の批判も遠慮なく発信した。

ほどなく編集局幹部から何度も呼び出されて「圧力」を加えられるようになった。だが、勤務時間外に社名を伏せて発信する行為を禁じる明確な規定は当時のガイドラインにはなく、私は「圧力」を無視した。

ついに当時の中村史郎編集局長(現社長)の指示で「警告」(これ以上続けると処分するという圧力)を受けるに至ったが、果敢に反発したところ、最後は中村氏の上司である編集担当役員が私に謝罪して「警告」を撤回した。一社員が編集局長の「圧力」を押し返したのである。私はそれから何の遠慮もなくSNS発信を続けた。

私の勝因は理由は三つあろう。①当時のガイドラインに記された「言論統制」の規定が不十分だったこと②私のフォロワーは数万人おり、「圧力」をSNSで暴露されることを会社が恐れたこと③私が「左遷」も「処分」も恐れる様子を見せず全面対決の姿勢で臨んだことーーだ。

①はともかく、②と③を貫徹できる社員はそう多くない。人事での不利益を恐れて会社から睨まれないように自己規制する者がほとんどだ。私はすでに会社からの独立を視野に入れていたから強気を貫けたのである。会社を去る覚悟がないと、会社には楯突けない。

ここまでの経緯は『朝日新聞政治部』で描いたとおりである。

私が2021年に退社した後、朝日新聞はますます社内の「言論統制」を強めた。今回のガイドライン改訂は、社員が会社の意に反した発信をする道を完全に塞ぐ内容で、「言論統制」の総仕上げといっていい。

出版や執筆、講演などの言論活動・表現活動はすべて職務活動として扱われ、上司の指揮下で行うことになる。会社の意向に反した朝日新聞記者の出版、執筆、講演は消滅していくだろう。

まさに言論統制だ。私のように全面的に戦う記者がほとんどいなくなったことと無縁ではなかろう(かつては社内にゴロゴロいたのだが…)。

朝日新聞が改訂したガイドラインは、憲法が保障する「表現の自由」を過度に侵害し、違憲の可能性が高い。表現の自由の恩恵を最も受けている新聞社が社員の表現の自由を過度に侵害しているのだから、話にならない。

出版活動を個人の職務外活動として行う場合、著作権は記者個人に帰属する。しかし、会社の指揮下にある職務活動として扱う場合、著作権は会社に帰属する(朝日新聞は記者個人に著作権料の一定割合を報奨金として支給している。この割合を決定するのも知財室の権限だった)。

私が知財室に在籍している当時、知財専門家である同僚たちには「強引に職務活動と判断して過度に個人の言論活動を規制するのは違憲の恐れがある」「万が一裁判所に提訴されたら勝てる保証はない」という見解が強かった。

このため私は、記者の出版活動を職務活動と判断する場合は記者側から「表現の自由の侵害だ」として提訴されないように丁寧に説明し理解を求めるよう努めていた。

だが、今回のガイドライン改訂は「職務外」の出版、執筆、講演活動の規制をさらに強化し、事実上不可能にするものだ。記者の言論活動は会社の指揮下にある「職務活動」に限定され、会社の意の沿わない記者個人の発信は事実上封じられることになった。この基準に照らせば、私の社員時代のSNS投稿は承認されないことになろう。

ここまできたら、気骨ある朝日新聞記者が会社を相手に「このガイドラインは記者個人の表現の自由を過度に制約する内容で、憲法違反だ」と提訴するほかないのではないか。

私が知財室時代に弁護士や弁理士ら知財専門家と意見交換を重ねた経験からすると、この裁判は記者側が勝つ可能性が十分にある。ぜひ戦ってみてほしい。

新聞記者個人の社外言論活動を制約する社内規定の違憲性が争われた訴訟は、おそらく前例がない。『ジュリスト』に重要判例として記載されることだろう。

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