フジテレビの女子アナに対する性加害疑惑が報じられた中居正広さんが、有料会員サイトで一方的に芸能界引退を表明した。何があったのかを自分の口では一切説明せず、「引退して逃げる」という最悪の投げ出しだ。
テレビ各局は、中居さんや松本人志さんら大物芸能人をメインキャスターに起用してきた。
今のバラエティ番組は単なるお笑いではない。彼らが政治経済社会の時事問題について、十分な知識もないまま無責任に感想を話した内容が、世論形成に大きな影響響を与えてきた。
そしてフジテレビの疑惑の中心にいる港浩一社長もバラエティー番組の出身で、バラエテイ番組の影響力拡大によって社長にのしあがったのだ。
視聴率目当てで芸能人をメインキャスターやコメンテーターに使うテレビ業界の風潮を見直す時である。
中居さんの引退表明全文を徹底分析し、今回の問題の本質に迫りたい。
①有料の会員サイトで一方的に引退を表明
「私、中居正広は本日をもって芸能活動を引退いたします」
中居さんは公共の電波を使ったテレビ番組に多数出演し、社会的に大きな影響力を持っていた。テレビ東京以外の民放は中居さんのレギュラー番組を放映していたし、NHKは看板番組の紅白歌合戦の司会に起用したこともある。
中居さんは有料の会員サイトだけでなく、広く世論に対して説明責任を果たすべきだ。何があったのか真相をうやむやにしたまま突然引退して逃げ切るのは、社会的責任を放棄したとの批判を免れない。
今回の性加害疑惑について公の場で釈明して疑問に答えるべきだし、過去にも同様のことを重ねてきたのかどうかも自らの言葉で語るべきである。
不祥事を起こした政治家が記者会見を行わずに議員辞職したまま雲隠れするケースが近年相次いでいる。辞めて逃げ切りの悪しき社会的風習をつくったのは、政界の責任でもある。
②『株式会社のんびりなかい』は廃業
「会社であります【(株)のんびりなかい】につきましては、残りの様々な手続き、業務が終わり次第、廃業することと致します」
中居さんは今後、損害賠償請求をうけて破産に追い込まれる可能性も指摘されている。
中居さんがジャニーズのような大手芸能事務所に所属していれば、少なくとも事務所は「引退で逃げ切り」はできない。中居さん個人が社長を務める事務所だから、それができてしまうのだ。
これは中居さん個人の信頼低下だけではなく、大手事務所に所属せず、独立して自力で頑張っている他の芸能人らの信頼低下を招くのは避けられない。中居さんの社会的責任は極めて大きいのだ。
③マスコミ各社やスポンサーとの調整は終了
「ご報告にあたりましては、私がこれまでに携わらせて頂きましたテレビ各局、ラジオ、スポンサーの打ち切り・降板・中止・契約解除等に関する会談がすべて終了し、本日となった次第でございます」
中居さんは「引退で逃げ切り」をマスコミ各社やスポンサーとの話し合いが終わった後に表明した。
中居さんをこれまで起用し続けてきたマスコミやスポンサーには中居さんを起用した経緯に加え、降板や契約解除の経緯について説明責任がある。
さらには芸能人を時事問題を扱う番組のメインキャスターやコメンテーターに多用する番組づくりそのものを見直すべきだ。
④なぜ引退するのか、理由があいまい
「これで、あらゆる責任を果たしたとは全く思っておりません。今後も、様々な問題に対して真摯に向き合い、誠意をもって対応して参ります」
「あらゆる責任を果たす」「真摯に向き合う」「誠意をもって対応する」という言葉が虚しく並ぶ。どれも具体的な言及はなく、誰に対するどんな責任を果たすのかがまったく伝わってこない。
・被害女性への責任→「解決金9000万円」は支払い済であり、これから何をするつもりなのか?
・マスコミ各社やスポンサーへの責任→損害賠償に応じるつもりか?
・ファンへの責任→ 会員サイトで一方的に引退表明で終わりか?
・社会的責任→ 記者会見して疑問に答えないのか?
疑問点だらけである。口先ばかりで逃げ切るつもりとしか思えない。
⑤フジテレビの大物プロデューサーの関与は?
「全責任は私個人にあります」
中居さんの性加害疑惑はいまやフジテレビの関与疑惑・もみ消し疑惑・女子アナ接待常態化疑惑・密室記者会見問題へと拡大している。
その大元である「フジテレビの関与疑惑」を中居さんは説明する責任がある。
中居さんと被害女性の密会をセッテイングしたのは、中居さんの番組を数多く手掛けてきた大物プロデューサーA氏(現在は編成局幹部)と報じられている。A氏は、同様に性加害疑惑で活動休止に追い込まれた松本人志さんとも親密で、中居さんの性加害疑惑と松本さんのケースとの類似性も指摘されている。
フジテレビの関与を検証するため、中居さんの証言は欠かせない。「全責任は私個人にある」というばかりでは、フジテレビとの間で裏取引が成立し、中居さんがフジテレビの隠蔽工作に加担しているとの疑念が深まるばかりだ。
⑥中居の目線にあるのはマスコミ各社とスポンサーだけか?
「これだけたくさんの方々にご迷惑をおかけし、損失を被らせてしまったことは申し訳ない思いでなりません」
「たくさんの方々」とはマスコミやスポンサーのことか?
「損失」とは金銭的な損失だけか?
公共の電波であるテレビに多数出演して社会的影響力をもち世論をつくってきたことに対する責任の自覚が欠如しているというほかない。だから記者会見もしないで「引退して逃げ切り」という発想がでてくるのだろう。
⑦「会わなきゃだめだった」の大嘘
「ヅラの皆さん 一度でも、会いたかった 会えなかった 会わなきゃだめだった こんなお別れで、本当に、本当に、ごめんなさい。さようなら…。」
最後の言葉は「引退で逃げ切り」についてどう説明しようにも説明できない実情がくっきり出ている。
「ヅラ」とは、ファンのこと。中居さんがこれまでも使ってきた言葉だ。こういうかたちでしか締めくくれなかったのだろう。
これが政治家の引退表明なら、厳しく糾弾されるのは間違いない。
ひとりの芸能人にそこまで社会的責任を負わせるのは酷だという思いは私にもある。
ひとりの芸能人を、社会的影響力のある番組のメインキャスターに多数起用し、世論を左右する存在に仕立て上げたテレビ局にこそ、最大の責任がある。
これからは政治問題や社会問題を扱う番組のメインキャスターやコメンテーターに、視聴率目当てで芸能人を安易に使うテレビ局の文化そのものが見直されることを強く望む。そして、私たち視聴者もそのような番組を拒否する姿勢が必要であろう。