フジテレビの女性アナウンサーが中居正広さんから性被害を受けたという週刊誌報道は、フジテレビによるもみ消し疑惑や女性アナウンサーの上納接待疑惑へ発展した。さらには港浩一社長が記者クラブ加盟社以外を締め出し、撮影も禁じるかたちで記者会見を行ったことに批判が噴出し、フジテレビは解体的危機に陥っている。ネット上ではフジテレビの放送免許取り消しを求める声が広がっている。
けれども、テレビ局を監督する総務省にその気はない。
村上誠一郎総務相ははフジテレビに早期調査を求めたが、総務省幹部はマスコミ取材に対し、放送法に基づいて放送停止や放送免許取り消しを命じる法的根拠はないとコメントしている。
なぜ総務省はフジテレビに対する行政処分に後ろ向きなのか。最大の理由は、フジテレビには総務省のOBがたくさん天下っていることだ。
テレビ局と監督官庁の総務省は癒着している。ここにもメスを入れることが不可欠だ。
週刊文春によると、フジテレビの企業グループに総務省のOB4人が天下っている。そのひとりは、安倍晋三内閣で女性初の首相秘書官に抜擢され、放送担当のトップである情報流通行政局長を務めた山田真貴子氏だ。
山田氏は事務次官級の総務審議官を経て、2020年に退官した後、菅義偉内閣で女性初の内閣広報官に就任した。総務審議官時代に菅氏の長男が務める放送事業会社から一晩に7万円を超える高額接待を受けていたことが発覚し、内閣広報官を辞任している。
ところがその後、フジ・メディア・ホールディングスの取締役、そしてフジテレビの社外取締役に天下ったのだ。取締役の年収は約3000万円とされる。総務省とフジテレビはべったりなのだ。
フジテレビに君臨する日枝久相談役(フジサンケイグループ代表)は森喜朗元首相や安倍晋三元首相らと昵懇の仲として知られ、政界に太い人脈を築いている。政官業癒着の構図そのものである。
村上総務相は21日の記者会見で「フジテレビにおいて独立性が確保された形で、できるかぎり早期に調査を進め、その結果を踏まえ、適切に判断、対応することで、スポンサーや視聴者の信頼回復に努めていただきたい」と語ったが、毎日新聞によると、総務省は放送法に違反した場合の放送停止や放送免許取り消しについて「あくまでも番組の制作過程において公序良俗を乱す場合。一社員の関与という話に限ると、法律に処分する根拠はない」(総務省幹部)と慎重な姿勢だ。
だが、今回の性加害問題は「番組の制作過程」で発生したと言えなくもない。中居さんから性被害を受けた女性アナウンサーは、中居さんと同じ番組に出演していた。中居さんと女性アナの密会をセッティングしたのは、中居さんの番組を数多く手掛けてきた大物プロデューサーA氏(現在は編成局幹部)であり、誰を番組に出演させるかという人事権を握っていた人物である。A氏に嫌われると番組に起用してもらえなくなるからA氏の誘いを断れないという別の女性アナウンサーの証言も報じられている。
ここから浮かんでくるのは、番組制作の実権を握るA氏が、番組に出演する大物芸能人に女性アナを上納する接待を重ねてきたという疑惑だ。これは番組制作過程で起きた不祥事と言えるのではないか。
総務省幹部は今回の問題を「一社員の問題」と認識しているのも間違いだ。A氏は番組編成全体に絶大な決定権を持つ編成局幹部で、一社員ではない。そして、同じバラエティー番組出身の港社長と昵懇だった。港社長自らの女性アナを使った接待を繰り返してきたとも報道されている。女性アナの上納接待はフジテレビ社内で常態化していた疑いが濃厚だ。
しかも中居さんから性加害を受けた女性アナはただちにアナウンス室長に報告し、編成制作局長や専務を経て港社長まで上がっていた。それを組織的にもみ消し、中居さんの番組起用を続けてきたのである。これは一社員の問題とは到底言えない。
総務省がフジテレビに甘いのは、大量の天下りを受け入れてもらっているからだ。少なくともそのような疑念を抱かれるのは当然であろう。
監督官庁の総務省からテレビ局への天下りは厳格に禁じなければならない。このような大スキャンダルが起きた時、監督官庁が何を言ったところで誰にも信用されなくなる。