日本政治の地図が、いま大きく塗り替わろうとしている。
引き金になったのは、高市早苗首相と麻生太郎副総裁の和解だ。
これまで高市首相は、「麻生支配」への対抗軸として、日本維新の会との連携を強めることで政権基盤を築いてきた。ところがここへきて、自民党内で麻生氏の存在感が急速に強まり、さらに玉木雄一郎代表率いる国民民主党の連立入り論まで再浮上してきたのである。
この動きは単なる「連立拡大論」ではない。自民・維新・国民民主の力関係そのものを変え、さらには中道勢力の再編をも揺るがす、大きな政局変動の兆しと言える。
その出発点にあるのが、麻生氏の復権だ。
麻生氏が最高顧問を務める自民党系議員グループ「国力研究会」には、自民党議員の8割超が参加した。これは単なる勉強会ではない。裏金事件後、派閥解消でバラバラになった自民党を、再び「麻生中心」に束ね直す動きと見るべきだろう。
高市首相は当初、党内基盤が弱かった。そこで頼ったのが維新だった。吉村洋文代表との連携を軸に、国会運営を安定させようとしてきたのである。
しかし、高市・麻生ラインが接近したことで、政権内部の力学は大きく変わった。
麻生氏に近い国民民主党を政権に取り込む――。その構想が一気に現実味を帯びてきたのだ。
麻生氏の義弟でもある鈴木俊一幹事長は、「国民民主党にも連立に加わってもらうことが大切だ」と発言。さらに、高市官邸と距離のあった参院自民党からも、国民民主の連立入りを歓迎する声が広がっている。
重要なのは、これは単なる政策協力ではないという点だ。
国民民主が連立入りすれば、政権内で麻生氏の影響力はさらに強まる。一方、高市首相との直結ルートを最大の武器にしてきた維新の発言力は低下する。
つまり、国民民主の連立入りとは、「誰が政権を主導するのか」という主導権争いそのものなのである。
この動きに最も神経を尖らせているのが維新だ。
維新はこれまで、高市首相との直接交渉をテコに存在感を発揮してきた。しかし、自民党本部、とりわけ麻生ラインは、維新との連立合意の柱だった「国会議員定数削減」や「副首都構想」に本気で取り組む気配を見せていない。
そこへ国民民主が加わればどうなるか。
自民党は、維新が連立から離脱しても、衆参両院で過半数を維持できる可能性が高まる。つまり、維新への依存度が一気に低下するのだ。
維新にとって最も恐ろしいのは、「いてもいなくてもいい存在」になることである。
だからこそ、維新は国民民主の連立入りに真正面から反対できない一方、強い警戒感をにじませている。
藤田文武共同代表は、国民民主への協力要請自体は当然としつつも、維新との連立合意をなし崩しにすることは認められないと牽制した。
さらに、高市首相と吉村代表をつないできた遠藤敬国対委員長(兼首相補佐官)は、連立拡大そのものには理解を示しながらも、「維新との合意を崩してまでやる必要はない」と釘を刺した。
しかし、その一方で遠藤氏は、維新の「閣内協力」にも意欲を示している。
ここに維新の焦りがある。
国民民主が閣僚を送り込むのに、維新だけが閣外協力にとどまれば、政権内で完全に埋没しかねない。かつては「高市政権誕生の立役者」として強気だった維新が、いまや「なんとか政権に残りたい側」に回りつつあるのだ。
昨年10月、高市政権発足時には、維新の協力なしでは首相指名が危うい状況だった。しかし今年2月の総選挙で自民党は圧勝し、維新への依存度は低下した。そこへ国民民主連立論が浮上したことで、維新の立場は一変したのである。
一方、玉木代表はどう動くのか。
玉木氏は連立入りを明確には否定していない。ただし、すぐ飛び込む姿勢でもない。
背景には、高市首相への不信感がある。
昨年10月の高市政権発足時、国民民主も連立入りを模索した。だが、その前に維新が動いた。さらに昨年末には、高市首相と玉木氏が「年収の壁」見直しで合意し、国民民主は補正予算に賛成した。
ところが年明け、高市首相は突然の衆院解散に踏み切る。国民民主との信頼関係は悪化し、今年3月の当初予算では国民民主は反対に回った。
玉木氏からすれば、「またハシゴを外されるのではないか」という警戒感は消えていない。
ただ、情勢は変わった。
高市・麻生ラインが接近したことで、麻生氏に近い国民民主の連立入りが、単なる観測ではなく現実的な選択肢として浮上してきたからだ。
さらに注目されるのが、玉木氏の政策スタンスの変化である。
5月の党首討論で玉木氏は、補正予算編成を求めつつ、「新規国債発行に頼らない」「減税より給付を優先すべきだ」と主張した。
これは総選挙で掲げた消費税減税路線をやや修正し、政権入りを見据えた現実路線へ軸足を移し始めたとも読める。
玉木氏はまだ連立に飛び込んではいない。しかし、少なくとも「入口」には立った。
その結果、政界の中道勢力は、ますます不安定化している。
立憲民主党は左傾化を強め、中道との距離を広げている。一方、国民民主は自民連立へ接近しつつある。維新は政権内での生き残りに必死だ。
「真ん中」を掲げてきた中道勢力は、いま左右両側から引き裂かれようとしている。
国民民主の連立入りは、単なる政権拡大では終わらない。
それは、維新の地位低下、自民党内の麻生復権、そして中道再編の崩壊を一気に引き起こす可能性を秘めている。
政界再編は、すでに始まっている。