国会が閉幕すると、永田町は一見、静かな夏を迎える。しかし、それは国民から見た風景にすぎない。政治家や官僚にとって夏は「人事の季節」であり、権力闘争が最も激しくなる時期だ。
秋に予定される内閣改造と自民党役員人事は、単なる配置換えではない。
最大の焦点は、「この国の最高権力者は誰なのか」を映し出す政治イベントなのである。
表向きの総理大臣は高市早苗氏。しかし党内の実権を握るのは麻生太郎氏だという見方は日に日に強まっている。
今回の人事は、高市政権の延命策なのか、それとも麻生体制完成への最後の仕上げなのか。その答えは、人事の顔ぶれを見れば、おのずと見えてくる。
維新との関係が人事を左右する
今回の人事を考える上で見逃せないのが、日本維新の会との距離感だ。
通常国会で維新は、高市総理と約束した連立合意の最重要部分を反故にされた。連立のセンターピンと称してきた衆院定数削減は先送りとなり、副首都構想も大幅に修正された。それでも麻生氏に近い国民民主党の連立入りをとりあえず防ぎ、何とか連立政権に踏みとどまったといえるだろう。
維新は「閣外協力」から「閣内協力」に転じ、今後も連立政権にしがみつく姿勢を強めている。
そうなれば、維新から誰を入閣させるかが次の焦点になる。
最有力は馬場伸幸前代表だ。本人も入閣への意欲を隠しておらず、「官房長官をやりたい」とまで公言し、波紋を呼んだ。しかし、党内では反発も根強い。
対抗馬は藤田文武共同代表だ。馬場氏の側近として歩んできたが、自らも次世代リーダーを狙う存在で、なかなかの野心家である。ここにきて師匠筋である馬場氏とのポスト争奪戦が始まるかもしれない。
さらに大穴として浮上するのが遠藤敬国対委員長(兼首相補佐官)である。高市首相と吉村洋文代表のパイプ役でもあり、馬場・藤田両氏の綱引きが激化すれば、漁夫の利を得る可能性も否定できない。
最大の焦点は幹事長人事
だが、今回最大の見どころはやはり自民党幹事長だ。
幹事長は党の資金、人事、選挙を握る「党内総理」である。しかも来年秋の総裁選の「行事役」であり、ポスト高市レースの行方を左右する重要ポジションだ。
本命は現職の鈴木俊一氏。
麻生氏の義弟という特別な関係は、単なる血縁以上の政治的意味を持つ。続投となれば、「麻生支配は揺るがない」という強烈なメッセージになる。
対抗は萩生田光一幹事長代行だ。
かつて高市氏を支え、麻生氏とのつなぎ役として執行部入りしたが、麻生支配が強まるにつれ、じわじわと麻生氏寄りにスタンスを移した。麻生氏に近い国民民主党の連立入りを公然と支持し、いまやすっかり麻生氏側近のような振る舞いだ。麻生氏の信頼を得て、何としても幹事長ポストを手に入れたいという思惑がにじむ。
そして最も注目すべき大穴が武田良太氏である。
武田氏は地元・福岡で麻生氏と宿敵関係にある一方、高市政権を支える立場を鮮明にしてきた。もし高市首相が武田氏を幹事長に据えるなら、それは麻生氏への全面的な挑戦状となる。
もちろん、麻生氏が簡単に受け入れるはずはない。
この人事が実現するなら、高市首相は解散総選挙も辞さない覚悟で勝負に出ることになるだろう。
麻生氏が描く「ポスト高市」構想
麻生氏の狙いは、高市政権を支えることではない。
その先にある次の総裁選を支配することだ。
その構想を人事に当てはめると、興味深い絵が浮かぶ。
小泉進次郎氏は防衛相留任。動かすメリットが少ない。
小林鷹之氏は経済産業相など重要閣僚へ登用。小林氏は重要閣僚経験がない。ここで実績を積ませたいという思惑が透ける。
茂木敏充氏は外相留任が有力。引き続き高市首相を閣内から牽制する役割を担わせる。
一方で、最も厳しい立場に置かれそうなのが、麻生氏と対立関係にある林芳正氏だ。
もし林氏だけが主要ポストから外されるなら、それは偶然ではない。
麻生氏は「ポスト高市」を乱立させるのではなく、自らが推す本命候補と林氏の一騎打ちに持ち込みたい。それなら負けないという算段だ。そのために林氏を孤立させるという戦略も十分考えられる。
高市首相に残された反撃のカード
では、高市首相に勝機はあるのか。
切り札となり得る人物は何人かいる。
旧安倍派5人衆だった世耕弘成氏が復党し、官房副長官など政権中枢に復帰すれば、調整力不足が指摘される官邸の体制立て直しにつながる可能性がある。
同じく旧安倍派5人衆だった西村康稔選対委員長も消費税減税を前面に打ち出し、麻生路線との差別化を図っている。萩生田氏と競合する存在として、高市首相に接近する余地はある。
さらに片山さつき財務大臣も無視できない。財政政策では高市首相との距離感に微妙な部分もあるが、「女性政治家ツートップ」という演出は、高市政権に新たなイメージを与える可能性を秘めている。
今回の内閣改造・党役員人事は、高市首相がなお主導権を握っているのか、それとも麻生氏が完全に党を掌握したのかを示す「答え合わせ」の場になる。