政治を斬る!

高市、最後の勝負へ――「減税解散」で麻生と参院を突破できるのか

高市早苗首相が、ついに最大の決断を迫られている。

食料品の消費税率を引き下げる――。総選挙で「私の悲願」と繰り返し訴えた看板政策を、本当に実行に移すのかどうか。その答えを出す時期が目前に迫っている。

しかし、この減税は単なる税率の議論ではない。高市政権そのものの命運を左右する政治決戦である。

立ちはだかる壁は二つある。

一つは、自民党最大の実力者で財務省の用心棒である麻生太郎氏。

もう一つは、与党が過半数を失った参議院だ。

高市首相が減税法案を国会に提出するには、自民党内の財政規律派を押さえ込まなければならない。仮に国会提出にこぎつけて衆議院を通過しても、参議院で否決される可能性は十分ある。

その時、高市首相に残される道は二つしかない。

衆議院で3分の2を確保して再可決するか、それとも衆議院を解散して国民に信を問うか。

いわば「減税解散」である。

これは税率1%をめぐる争いではない。「麻生支配」を断ち切り、高市政権が本当に自立した政権になれるのかを問う戦いなのだ。

もっとも、その政局に水を差すように熊本地震が発生した。災害対応が最優先となれば、政治休戦ムードが広がる可能性もある。

政局は一寸先が闇である。

まず注目したいのは、自民党内の力学だ。

高市首相は7月28日の党役員会で「私も決断する時は決断する」と語った。すでに麻生太郎氏、鈴木俊一氏らとも協議を重ねており、早ければ今週中にも食料品の消費税率を1%へ引き下げる方針を打ち出すとの観測が流れている。

一方の麻生氏は熊本地震を受け、29、30日に予定していた派閥研修会を中止した。麻生氏の講演に注目が集まっていた。表向きは災害対応を中止の理由にしているが、高市首相との距離の取り方を慎重に判断し、現時点では発言の機会を先送りした可能性もある。皇室典範改正という最大案件を終えた今、本格的な政局に向けて発信のタイミングを慎重に見極めているとも映る。

麻生氏は伝統的な財務省寄りの政治家というより、「政局を見据えて財政規律を武器にする政治家」と言った方が実態に近い。

減税が財政論争になるか、政権闘争になるか。その分岐点に立っている。

次に立ちはだかるのが参議院である。

衆院選では、多くの政党が何らかの減税を掲げた。しかし、選挙後は中東情勢の緊迫化などによる物価高を背景に、さらなるインフレを招きかねない減税論への慎重論が急速に高まった。

与野党が協議する社会保障国民会議でも結論はまとまっていない。

しかも、先日の「副首都」法案では、自民・維新・チームみらいが賛成する一方、立憲、国民民主、公明、参政、共産、れいわ、日本保守などが反対し、わずか2票差という薄氷の可決だった。

この結果は重要だ。

野党は政策ごとに離合集散する時代ではあるが、「反維新」「反与党」という政局になれば、一気に結束する可能性がある。

減税法案も、政策論だけでは決まらない。

参議院で否決されれば、高市首相は衆院再可決か解散総選挙かの選択を迫られる。

2005年、小泉純一郎首相が郵政民営化法案の参院否決を受けて「郵政解散」に踏み切ったように、「減税解散」が現実味を帯びるのである。

その背景には、高市首相自身の政治姿勢がある。

支持率急落について問われた記者会見では、「原因はわかりません」「反省点というのは特にございません」と言い切った。

普通の政治家なら支持率低下を前に軌道修正を図る。

しかし高市首相は違う。「公約実現への歩みを加速する」と繰り返し、減税も積極財政も一歩も引かない姿勢を鮮明にしている。

維新との連立についても「信頼関係に揺るぎはない」と断言し、公明党との連立解消後も維新との協力を軸に政権運営を進める考えを隠さない。

減税は、高市首相にとって単なる経済政策ではない。

政権の存在意義そのものなのである。

もっとも、この構図には既視感がある。

国民民主党の古川元久氏は、民主党政権の普天間基地移設問題との類似性を指摘している。

鳩山由紀夫首相は、正式なマニフェストには書かれていなかった「最低でも県外」という発言に縛られ、最終的に政権崩壊へと追い込まれた。

高市首相も、与党公約では「消費税減税の検討を加速する」と比較的慎重な表現だった。

ところが本人は選挙中、「私の悲願」と繰り返した。

その言葉が事実上の公約となり、いま自らを縛っている。

有権者が本当に求めているものと、首相自身が実現したいものが一致しているのか。

そこにズレが生じれば、政権は急速に求心力を失う。

そんな中で起きた熊本地震は、政局にも少なからぬ影響を与えるだろう。

高市首相は直ちに非常災害対策本部を設置し、夜を徹した対応を指示した。

麻生氏も派閥研修会を中止した。

災害が政治対立を一時棚上げするのか。それとも、災害対応が一段落した後に一気に決戦へ向かうのか。

今後の焦点は、高市首相が「麻生斬り」を断行して内閣改造を行うのか、それとも減税公約を修正して延命を図るのかに移る。

もし冒頭解散から減税法案提出、参院否決、そして「減税解散」というシナリオまで進めば、日本政治は再び国民投票型の劇場政治へ突入する。

その勝敗を決めるのは、国会の議席ではない。

国民世論である。

支持率が上がらなければ解散は打てない。

逆に支持率が回復すれば、高市首相は麻生氏にも参議院にも正面から勝負を挑める。

この夏、日本政治は「消費税」をめぐる政策論争ではなく、「誰がこの国の政治を動かすのか」を問う権力闘争へと突入しようとしている。