高市早苗政権の内部で、ただならぬ空気が漂い始めている。
きっかけは、ゴールデンウイーク中の外遊から帰国する政府専用機の中で起きたとされる「激高事件」だ。講談社『週刊現代』元編集長の山中武史氏が5月28日、自身のXで明かした。
高市首相はベトナムとオーストラリアを歴訪。その帰路、政府専用機で接客を担当した女性自衛官が「総理、オーストラリアでコアラをご覧になりましたか?」と和やかに話しかけたところ、高市氏は突然、怒声を浴びせたという。
「私は遊びに行ってるんとちゃうねん!」
女性自衛官は謝罪したが、高市氏の怒りは収まらず、機内は重苦しい空気に包まれた。そして帰国後、その女性自衛官は政府専用機任務から外れた――という内容だ。
もちろん、この話の真偽は確認されていない。内閣広報室も「そのような事実はない」と全面否定している。
しかし、ここで重要なのは「事件があったかどうか」だけではない。政局的により重大なのは、こうした極めて限定的な空間での出来事が、なぜ外部へ漏れたのか、という点である。
政府専用機の内部事情を知り得る人物は限られている。首相に近接できるのは、ごく少数の官邸関係者と自衛隊幹部だけだ。しかも、女性自衛官の処遇変更まで含めて情報が出ているとすれば、単なる噂話では済まない。
つまり、官邸中枢から何らかの情報がリークされた可能性が高いのである。
思い出されるのは、これまで繰り返されてきた高市政権の内部リークだ。
総理執務室裏の「タバコ部屋」問題。総理秘書官らさえ入室できず、高市首相が一人で資料を読み漁っているという週刊文春報道。さらには、安倍政権で絶大な影響力を持った今井尚哉・内閣官房参与との衝突説など、高市官邸では内部情報の流出が絶えなかった。
当時、高市氏と麻生太郎副総裁の関係は緊張していた。高市氏は麻生氏から距離を置き、自立を模索していたからだ。
麻生氏に近い国民民主党ではなく、日本維新の会との連立を選択。麻生氏に無断で解散総選挙に踏み切り、さらに財務省や麻生氏の反対を押し切って「食料品の消費税ゼロ」を打ち出した。
しかし、その結果、党内の不満は噴出した。
支持率は低下し、自民党内では武田良太氏や石井準一氏らが独自グループを立ち上げ始めた。高市包囲網が形成されつつある中、高市氏は方針転換を余儀なくされる。
麻生氏との和解である。
4月には「焼き魚ランチ」、5月には「ステーキランチ」。さらに麻生氏を最高顧問とする「国力研究会」が発足し、自民党議員の8割超、347人が参加した。高市再選を支える巨大議連の誕生であり、表向きには「麻生中心の挙党体制」が完成したのである。
だが、それでもリークは止まらなかった。
これは何を意味するのか。
表向きは高市支持に回りながら、内心では高市再選を快く思っていない勢力がなお存在する、ということだろう。しかも、その勢力は官邸中枢にまで食い込んでいる可能性がある。
背景として考えられるのは二つだ。
一つは、財務省ラインである。高市政権は積極財政路線を掲げ、財務省と鋭く対立してきた。財務省に近い官邸官僚が、高市下ろしへ動いている可能性は否定できない。
もう一つは、自民党内の「ポスト高市」勢力だ。
来年秋の総裁選で高市再選が現実味を帯びる一方、麻生氏周辺ではすでに次の権力構想が動いている。小林鷹之政調会長、茂木敏充外相らの名前が浮上し、「ポスト高市」への布石が打たれている。
高市氏自身も、それを感じ取っているのではないか。
最近の高市首相は、明らかに苛立ちを隠せなくなっている。5月28日の参院審議でも、自身の陣営によるSNS誹謗中傷動画問題を追及され、感情をあらわにした。
「証明できない限り、まるであったかのように印象付けられるのは大変心外だ」
声を荒らげて反論する姿は、これまでの「冷静沈着な保守政治家」というイメージとは異なっていた。
本来なら、麻生氏との和解によって政権基盤は安定するはずだった。しかし実際には、高市政権は「麻生支配」の中へ組み込まれつつある。
食料品消費税ゼロは事実上後退。高市氏肝煎りの旧姓使用拡大法案も見送り。さらに、麻生氏に近い国民民主党を連立に加える構想まで浮上している。
もし自民・維新・国民民主の三党連立が実現すれば、高市氏の基盤だった維新の独自性は薄れ、主導権は完全に麻生氏へ移るだろう。
高市氏は、自らが目指した「麻生から自立した保守政権」ではなく、「麻生に支えられた高市政権」という現実に直面しているのかもしれない。
だからこそ、政府専用機の中での小さな一言にも、過敏に反応した――。
そんな見方すら、永田町では広がり始めている。
政府専用機リーク問題は、単なるゴシップではない。
そこに映っているのは、高市政権内部で進む権力闘争そのものなのである。