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バッハ広島訪問の詳細日程を事前報道せず黙認したマスコミ各社

国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が7月16日、広島市の平和記念公園を訪問し、原爆慰霊碑に献花した。原爆資料館を見学し、被爆者と対談した。最後に東京五輪について「より平和な未来への希望の光になると確信している」とスピーチした。

バッハ会長の広島訪問に対しては「広島を五輪に政治利用するな」などと反発する声がネットを中心に広がっていたが、バッハ会長は広島訪問を強行した。

広島県は3日前の13日、報道各社に対してバッハ会長の訪問日程の詳細を明らかにしたうえで取材上の諸注意を記した「取材要領」を配布していた。そのなかで事前報道については「16日午後 広島市 到着」というような表記にとどめ、時刻は表記しないように求めていた。

東京五輪組織委員会は14日、報道各社に対して広島県の「取材要領」を配布し、取材の申し込み方法を伝えていた。

マスコミ各社は広島県や五輪組織委の要請に従ってバッハ会長の広島訪問日程の詳細を事前報道することは避けたようである。

このように報道各社が当局から発表情報を事前に得ることと引き換えに当局が指定する時間まで報道を見送ることは「黒板協定」と呼ばれ、記者クラブでは日常茶飯事である。黒板協定を破って報道に踏み切った場合、記者クラブから除名されるなどの制裁を受けることになる。新聞記者がせっかく未発表情報を入手して特報しようとしたら、実はどこかの役所の記者クラブで黒板協定によって発表資料が事前配布されていたため、新聞社内で報道にストップがかかるということはしばしば起きることだ。

黒板協定には膨大な発表資料を事前に得て十分に調べあげ報道内容を充実させる準備時間を確保するという利点がある一方、報道各社が一斉に報じるタイミングを当局がコントロールして世論誘導を図ることができるという弊害もあり、「当局と記者クラブの癒着」の一つとして厳しい視線が注がれている。

SAMEJIMA TIMESと提携関係にある五輪専門メディアATR Japan(編集長:小田光康・明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長)は16日午前、バッハ会長の広島訪問直前に、詳細なスケジュール表を含めて訪問日程の事前報道に踏み切った。その記事『バッハ会長16日午後広島平和公園を訪問、被爆者と対話も』を以下に引用する。

緊急事態宣言下では都道府県をまたぐ移動は自粛とされる中、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が7月16日、広島市の平和記念公園と平和記念資料館を訪問し、被爆者と対話する予定だ。「スポーツを通じての平和な社会の実現」と宣言するためという。

バッハ氏は午後1時20分から午後3時30分の間、平和記念公園と広島平和記念資料館を訪問し、被爆者と対話する予定だ。ここで橋本聖子・東京五輪組織委員会会⻑、湯﨑英彦・広島県知事、中本隆志・広島県議会議⻑、山田春男・広島市議会議⻑が対応する。松井一実・広島市長は出張を理由に同席を取りやめた。

対応する広島市は報道機関に対して、『16日午後 広島市 到着』というように、市名のみの表記にとどめ、時間帯も午前・午後の表記によることとし,時刻の表記予告はしないでください」と事前規制をした。

これは明らかに「黒板協定」に従わず、当局と記者クラブの長年の慣行に挑戦する記事である。小田編集長によると、14日午後に東京五輪組織委からATR記者である小田編集長のもとへバッハ会長広島訪問の取材要項が送られてきたという。この時点で広島県はすでに報道各社に事前報道を控えるよう求めていた。

小田編集長は事前報道に踏み切った理由について「バッハ会長の広島訪問に世論はおおよそ批判的です。今回の広島訪問は国民感情を逆なでする権力の強行突破といえます。マスコミはその状況を十分に承知しているのですから、本来は事前規制を無視して広島訪問日程の詳細を報じるべきでした。そうしていたら、バッハ会長が訪問中止を選択し、強行突破されずに済んだ可能性もありました。マスコミは当局が求める事前規制に従うことでバッハの強行訪問を黙認したのと同じです」と話している。

コロナ禍の東京五輪開催に反対する世論が圧倒的に強くても強行開催に突き進む菅政権に対し、権力監視を旨とする「当事者」として自らの立場を示すことなく、大会開催にむけて予定されたスケジュールとおりに五輪企画記事を量産し、それを「客観中立報道」として自己肯定してきたマスコミ各社。バッハ会長の広島訪問も当局の指示通りに事前報道規制を守り、事実関係を淡々と報じるその姿勢からは、権力監視機関として主体的に「不公正なことを食い止める」「社会の公正さを守る」という当事者意識はまったく感じられない。これは「客観中立」を装った「傍観報道」「権力の不公正を黙認する報道」であると私は思う。

小田編集長が指摘するように、国民感情を逆なでするバッハ会長の広島訪問の是非を事前に世の中に問うためには、訪問に先立って詳細に報道して世論を喚起することが効果的だろう。それは広島を訪れるバッハ会長に直接抗議の意思を伝えたい人々の期待にこたえることにもなる。当局の要請するままに事前報道を横並びで控えたマスコミ各社は「客観中立」どころか、「バッハ会長の広島訪問を穏便に終わらせたい当局」に実質的にこぞって加担しているといえよう。そこに一石を投じた小田編集長の判断に私は賛意を示したい。

私は記者クラブについては解体を含む抜本的見直し論者である。ただし、記者クラブの存続を前提とするにしても「黒板協定」や「オフレコ」といった報道各社と当局との取り決めは絶対服従しなければならないものではない。政治家がオフレコ前提で口にした「失言」を看過できないとして、発言後に「オフレコ」を破棄して実名報道に切り替えた先例はいくらでもある。

当局に言われるがままに横並びで従う報道姿勢こそ「マスコミ不信」の根本的原因であろう。今回のバッハ会長の広島訪問のように「事前報道しなければ権力の強行突破を追認することになる」ケースについては、報道各社は当局の要請に臆することなく事前報道に踏み切ることで権力との緊張関係を維持することが必要だろう。

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