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練習中に倒れて死亡した中日・木下投手の「ワクチン接種」を報じない朝日新聞とNHK

まずは朝日新聞デジタルの8月6日の記事をご覧いただきたい。プロ野球・中日ドラゴンズの木下雄介投手(27)が急死したことを伝える記事である。

 プロ野球の中日は6日、球団に所属する木下雄介投手(27)が3日に死去していたことを発表した。加藤宏幸・球団代表によると、木下投手は7月6日のナゴヤ球場での練習中に倒れ、入院していた。

 大阪出身の木下投手は徳島・生光学園高卒。独立リーグの四国アイランドリーグplus・徳島を経て、2016年の育成ドラフト1位で中日に入団。18年3月に支配下選手登録された。昨年までの3年間で37試合に登板し、20年に1セーブを挙げた。

この記事しか読まない読者は、いったい何が起きたのか、まったく理解できない。若いプロ野球選手が練習中に突然倒れて亡くなった原因は何だったのか、中日はなぜ死亡した事実を3日間も伏せていたのか。何から何まで謎である。この記事は外形的にみるだけで、読者に必要な情報を伝えていない「失格の記事」と判断できる。

同じ日のNHK報道は木下選手が亡くなったニュースを以下のように伝えている。

プロ野球中日の木下雄介投手が先月上旬に練習中に倒れて治療を受けていましたが、今月3日に亡くなったことが球団への取材でわかりました。

プロ5年目の木下投手は大阪市出身の27歳。

平成29年に独立リーグ四国アイランドリーグplusの徳島から育成ドラフト1位で中日に入団し、そのよくとしに支配下選手に登録されました。

150キロを超える速球が持ち味で、昨シーズンはプロ初セーブをマークし、5年目の今シーズンはリリーフ陣の一角として期待されました。

しかし、3月のオープン戦の最終戦で肩を脱臼し、その後、肩やひじの手術を受けてリハビリに取り組んでいました。

球団によりますと木下投手は先月6日、名古屋市内で行っていた練習中に倒れ、病院に搬送されて治療を受けていましたが、今月3日に亡くなったということです。

球団は「家族と話したうえで、これ以上は言えない」としています。

この記事も死因を記していない。朝日新聞よりマシなのは「これ以上は言えない」という球団コメントを載せていることだ。何か公にできない事情があることがうかがえる。だが、この記事も「失格」とのそしりを免れないだろう。

より詳しく伝えたのは、スポーツ紙や週刊誌だった。中日が木下投手の死亡を発表する前から、朝日新聞やNHKが伏せた重大な情報を報じていた。それらによると、木下投手は6月28日にコロナウイルスのワクチンを球団親会社の職域接種で受け、その8日後の練習中に胸のあたりを押さえながら息苦しさを訴えて倒れ、搬送先で人工呼吸器が必要な重篤状態に陥ったのだという。

プロ野球の現役選手の急死を伝える同じ記事でも「ワクチン接種の8日後に息苦しさを訴えて倒れた」という情報の有無で、ニュースの意味合いはまったく違ってくる。日本中でコロナワクチンの接種が進む一方、ワクチン接種の副作用への懸念が根強いなかで、「急死の原因はワクチン接種なのか」「接種後の行動に何か問題があったのか」「適切な治療を受けたのか」などは誰もが抱く疑問だろう。

朝日新聞やNHKはなぜ「ワクチン接種」の事実を伏せたのか。

私の朝日新聞記者27年の経験からして、「なぜワクチン接種の事実を記事に書かなかったのか」という問いに対する模範回答は「ワクチン接種と死亡の因果関係が確認できていない段階でワクチン接種の事実を書くと、ワクチンが原因であるという不確かな憶測を広げてしまうため」「ワクチン接種によって急死したというエビデンスがないため」というものだ。

このように答える記者が目の前にいたら、決して信用しないほうがよい。

因果関係が立証されていない事実、エビデンスが十分でない事実を報じないというのなら、毎日の紙面に載っている政治記事や事件記事の大半は掲載できないことになろう。例えば、菅義偉首相が8月9日の記者会見で東京五輪について「開催国として責任を果たして無事に終えることができた」と述べたと報道各社は報じたが、「責任を果たした」「無事に終えた」のエビデンスはあるのか。バッハIOC会長の「五輪でウイルスが広がることはなかった」という発言も同様だ。

殺人事件が発生した時点の警察発表も、政局記事に散見される「〜とみられる」「自民党関係者によると〜」といった部分も、所詮は「一つの見方」に過ぎない。政府が国会で平然と虚偽答弁を繰り返し、政府発表も「エビデンスが不十分で信用できない」時代である。日々の新聞紙面は「因果関係が立証されていない事実」や「エビデンスが十分でない事実」の集合物なのだ。

新聞の役割は誰もが異論を唱えない事実や教科書に載っている事実を伝えることではない。因果関係やエビデンスが不確かな事実を含めて(国家権力や大企業が隠蔽している事実を含めて)、読者がこの社会で現在進行中で起きていることについて考察し、議論し、判断する材料(情報・分析)を公正な目で見極めて提供することである。

今まさに起きている出来事を報じるのだからエビデンスが十分でないのは当たり前だし、それでも今まさに報じなければ現在進行中の出来事について世の中に問題提起することはできない。エビデンスが確立するまで報道を控えていたら、その間に為政者は既成事実を積み重ね、報道された時には時すでに遅し、すでに国民不在で政策決定が終了しているということになるだろう。

木下投手がワクチン接種を受けた後に倒れて死亡したという事実をマスコミが報道しなければ、読者はワクチンの是非について考え、議論し、判断する重要な材料を知る機会を気づかないまま奪われるのである。それが「公正な報道」といえるだろうか。

球団は「家族の意向」を理由に死因について説明責任を果たしていない(実際に「家族の意向」を確認した報道機関がどれだけあるかは疑問だ)。朝日新聞もNHKも球団発表を垂れ流しているだけなのだ。その記事だけしか知らない読者は「ワクチン接種が原因ではないか」という疑念を抱くことさえできないのである。球団が説明を回避するのなら「ワクチンを接種していた」という事実だけでも報じてうえで、粘り強く球団に説明責任を迫るのが本来のジャーナリズムのあり方だ。

朝日新聞やNHKは「ワクチン接種」の事実を伏せて報じた。読者や視聴者に対する明らかな背信行為である。マスコミの隠蔽体質に対する不信感が、若い世代を中心にワクチン接種への疑念や不安を広げている最大の原因である。彼らは「ワクチン陰謀論」を厳しく批判するが、彼らの報道姿勢こそ「ワクチン陰謀論」を後押ししていることに気づかないのだろうか。

ファイザーがワクチン開発に成功し、世界各地でワクチン接種が始まったころ、私はまだ朝日新聞記者だった。当時から社内でしばしば耳にしたのが「ワクチン接種後に必ず亡くなる人が出てくる。その時、大騒ぎしてワクチン不信を高める報道をしてはいけない」という言葉だった。

こうした認識は、とくに医療や科学の専門記者に強い。彼らの取材・報道姿勢は、ワクチンの副作用に対する国民の不安を封じてとにかく接種を普及させたい政府高官や専門家たちに寄り添うものだった。「ワクチンには確かにリスクがあるが、それは非常に小さい。不幸にも犠牲になる人がいたとしても、社会全体では接種を進めたほうがはるかにメリットは大きい」として「ワクチン接種を不安がる一般大衆を啓蒙するのが新聞の役割」という上から目線そのものなのだ。

それは一人一人の人間に寄り添うよりも統治者の発想である。そこから「国家は間違える」「専門家も往々にして間違える」というジャーナリズムの基本中の基本である国家観・権力観・人間観を感じることはできない。

私はワクチン接種の是非をここで論じているのではない。ワクチンには重症化を抑える効果がある一方、副作用のリスクもある。それを踏まえ、一人一人が接種の是非を自分で判断するしかない。そのための判断材料を公正に伝えるのがマスコミの責務だ。

ところが、マスコミは官僚や専門家と一体化し「大衆を啓蒙する」という歪んだエリート意識に覆われている。それがマスコミ不信を増大させ、ワクチンへの信用度を落としている。木下投手の「ワクチン接種」の事実を伏せた報道は、マスコミ不信を増大させる典型例だ。