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朝日新聞社を二度辞めた亀松太郎さんが提唱する驚愕の新聞社再建案「社員を50歳以上に限定」に私も一票!

亀松太郎さんは私と同じ「朝日新聞退社組」である。違うところは朝日新聞を二回辞めたということだ。二回辞めたということは二回入ったということである。

大学を卒業して朝日新聞記者になったが、組織になじめず三年で退社した。ニコニコ動画や弁護士ドットコムでニュースの編集長を務めた後、20年ぶりに朝日新聞社に復帰。朝日新聞社が2018年に「ひとりを楽しむ」をコンセプトに創刊したサイト「DANRO」の編集長を務めた。朝日新聞社が2020年に「DANRO」の閉鎖を決めた際、亀松さんは朝日新聞社から「DANRO」を買い取り独立したのである(こちら参照)。

私は亀松さんと一緒に仕事をしたことはなく、面識もない。ただ、彼の経歴をみるだけで、ただものならぬジャーナリストであることは想像できる。

朝日新聞社には彼のようなユニークな人材がいる。ユニークな人材を活用しようとする上司もいる(私もそのような上司に後押しされて様々な経験をさせていただいた)。だが、ユニークな人材もそれを活用しようとする上司もはっきり言って少数派だ。圧倒的多数派は管理統制が大好きな内向き官僚タイプである。ユニークな人材の多くは最終的には会社に限界を感じて社外に飛び出すことが多い。そういう会社だ。

その亀松さんが最近、とても興味深いツイートを発信した。経営でも報道でも凋落が著しい新聞社の大胆な改革案である。きょうはこれを紹介しつつ、議論を深めてみよう。

亀松さんは「最近また新聞社の人から厳しい経営状況の話を聞いた」としたうえ、紙の新聞は「シニア向けメディア」に徹したほうがよいと指摘。そのうえで社員を「40歳〜80歳に限定すればよい」「50歳以上に限定してもいいかも」と提案しているのだ。

亀松さんは50歳以上の世代を「社会人になってからインターネットに触れた世代」と定義し、その世代に社員を限定した方が「いまよりも組織に活気が出て、面白いメディアになる」という。その理由を「社員が50歳以上だけになれば、不眠不休で取材したり、速報合戦に明け暮れたりということは難しくなる。でも、それで良い」「速報はネットやテレビに任せて、紙の新聞は重要なニュースを丁寧に伝達したり、社会問題を深く考察することに徹する。そうすることで差別化も図れる」と説明している。

さらに読者の中心が定年退職後の人になれば、早朝に新聞を届ける必要性も薄れるので、朝刊と夕刊をやめて「昼刊」にすることを提唱。シニア向け媒体として広告の価値も上がる。「堂々とシニア向けの記事を書き、シニア向けの広告を載せる。それで良いのでは?」というのである。

朝日新聞では政治部や経済部、社会部などの最前線で取材にあたる記者の大部分は30〜40代だ。各部のデスクが40代半ば、部長が50歳前後である。50代になると多くが取材現場から離れ、管理部門やビジネス部門へ移る。50代以上で取材現場に残るのは編集委員などごく一部である。

亀松さんの提案通り、社員を50歳以上に限定すればどうなるか。政治部では有力政治家にマンツーマンディフェンスで「番記者」を貼り付ける取材体制は崩壊するだろう。社会部では検察や警察の幹部に連日夜回りする取材を続けることは到底無理だ。気力も体力もとても続かない。記者クラブを拠点として自らが担当する権力者や当局者をひたすら追いかける取材方式そのものが根底から変わらざるを得ない。

読者層をシニア向けに絞り、社員も50歳以上に限定する「新聞社再建案」は、新聞社の経営戦略のみならず、国家権力にすり寄る報道姿勢そのものを大転換させる「ジャーナリズム再建案」ともいえそうだ。

そもそも海外メディアでは日々のニュースを追いかけて速報するのは通信社の仕事である。新聞社は速報よりもニュースを深掘りする解説や隠された事実を暴く調査報道に力点を置いている。ところが、日本メディアは共同・時事の通信二社も、朝日・読売・毎日などの大手新聞社も、横一線で同じニュースを追いかけ、「速報」や当局発表を一足早く報じる「特ダネ」でしのぎを削っている。実に業界内向きの競争を繰り広げているのだ。

そこを国家権力側につけこまれる。権力批判の記事を書くと日々の情報をリークしてもらえず、速報や発表記事の事前報道で遅れをとる。それを恐れて、記者たちは権力批判に尻込みしている。

そしてデスクになる前の30〜40代の現場記者ほど社内の「人事」や「評価」を気にし、記者クラブで他社との取材競争に敗れることを恐れ、権力批判に及び腰になる傾向が強い。さらには国家権力から抗議を受けたり、トラブルに発展したりすることを恐れて記事を無難にまとめようとする部長やデスクにあらがうことも、30〜40代の現場記者はためらいがちだ。

記者が全員50歳以上になれば、こうした風景はがらりと変わるだろう。まずは体力的に速報で競い合うことはあきらめる。もはや社内人事や社内評価もさほど気にならず、当局にすり寄って提灯記事を書くよりも、自分がこだわる記事に力を集中させることになるだろう。本来のジャーナリズムの姿に近づくのではないか。

亀松さんは「記者が50〜70代限定となれば、全員がフルタイムで毎日働くのは難しくなるだろう。でも、それでいい。60代や70代の記者は週2、3日の稼働でも良いと思うし、会社に出てくるのは2週に1回くらいで十分だ」という。これぞ「働き方改革」だ。

若い世代がいるから、上意下達の取材体制が温存される。現場を離れた上司が管理統制に明け暮れ、威張りちらし、風通しが悪くなる。全員を50代以上にすれば、確かに社内の空気は一変する。パワハラやセクハラは激減し、記者の自主性を尊重した社風が生まれるーー私もそんな気がする。

社員を50歳以上に限定する新聞社再建案は、凋落する新聞社が直面する様々な課題を一挙に解決するウルトラCといえるかもしれない。このような大胆な改革案を掲げるのが、新聞社の経営陣の役割であろう。小手先のリストラをいくら積み重ねても、新聞社の再建は到底無理だ。

社内出世競争に生き残った凡庸なサラリーマン社長に代わって、亀松さんのような構想力と行動力のあるメディア人を社長に大抜擢しない限り、新聞社のジリ貧は止まらないだろう。そう遠くない将来、亀松さんの「三度目の入社」もあながちないとは言えない。

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