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マスコミ上層部の大物政治記者たちが日比谷公園の仏料理店で岸田首相を囲んで会食!これがいけない本当の理由は?

私がかつて在籍した「朝日新聞官邸クラブ」が久々に良い仕事をした。岸田文雄首相が3月14日夜、東京・日比谷公園のフランス料理店「日比谷パレス」でマスコミ各社の大物記者らと会食した後に店から出てくる様子を動画で撮影してツイッターで流したのだ。

会食に参加したのは、NHKの島田敏男元解説副委員長、読売新聞の小田尚調査研究本部客員研究員、毎日新聞の山田孝男特別編集委員、日経新聞の芹川洋一論説フェロー、日本テレビの粕谷賢之取締役常務執行役員、そして時事通信特別解説委員だった田崎史郎氏。いずれも永田町で著名な政治記者だ。

安倍政権時代、安倍晋三首相とこのメンバーの「定例の会食」は世論から激しい批判を浴びた。同じ枠組みを岸田首相も受け継いだということである。マスコミ各社の大物政治記者を手懐ければ政権批判を封じ込めるという魂胆がみえみえであり、世論が首相官邸とマスコミ各社に怒るのは当然だ。マスコミの政治報道への不信感を増幅させているのは間違いない。

安倍政権当時は朝日新聞の曽我豪編集委員も参加していた(私は曽我氏から政治取材のイロハを教わったが、安倍政権以降は関係が冷え込んでいた。このあたりの社内の人間模様は拙著『朝日新聞政治部』で克明に描いている)。朝日新聞官邸クラブがツイッターに動画を配信したのは、曽我氏が今回は欠席したからかもしれない。

裏を返せば、社内の出席者がいれば世論の批判を恐れて報道を控えるということだろう。この一点をもって、やはり首相と記者が会食することは政治報道への不信を招く行為というほかない。

私は永田町で20年以上政治取材を続けており、現職首相と会食したこともある。「どの口がいうのか」とお叱りを受けるのはもっともだ。

私は首相をはじめ政治家との「会食取材」や「オフレコ取材」を全否定していない。その理由については、具体的な体験談をもとに『朝日新聞政治部』で詳細に示したつもりだが、ここで簡潔に整理しておこう。

なぜ首相との会食取材がいけないのかというと、①首相と癒着した結果、政権追及が甘くなる恐れがある②仮に癒着していないとしても、読者や視聴者から癒着を疑われ、報道への信用を失うーーの2点にあるといえるだろう。

裏を返せば、首相との会食が例外的に許される場合があるということだ。どういう場合かというと、①日頃から首相を厳しく批判する報道を展開しており、会食しても批判を手控えることはないという信頼を読者・視聴者から得ている②会食取材の内容を読者・視聴者が納得するかたちで報道するーーの2点を満たした場合だ。

いまのテレビ新聞は①日頃から政権追及に及び腰な報道を展開しており、首相と会食するまでもなく権力監視の役割を果たせていない②首相との会食取材の内容を一切報道しないーーのが実情だ。これでは首相との会食に批判が殺到するのも無理はない。

オフレコ取材は危険である。政権の世論操作に利用される恐れが極めて高い。それを承知でオフレコ取材を敢行するには、取材記者が「権力者のウソを見抜く能力」と「権力者に嫌われても批判する覚悟」をあわせ持ち、会社全体で「権力者よりも読者・視聴者を優先する批判精神を徹底する」という報道理念を共有していることが最低限必要である。それを欠くオフレコ取材なら行わないほうがマシだ。

首相と大物政治記者たちの「定例の会食」がよくないもうひとつの理由は、これが「内輪の談合」であることだ。

どうしても首相の真意を聞きたければ、サシで会えばよい。どうして集団で首相を囲む必要があるのか?

首相は有力記者を束ねてオフレコ懇談の場を設けることで、参加者が抜け駆けして「オフレコ発言」を報道できないように手足を縛ることができる。そのうえで、会食に参加した大物記者たちの横並びの連帯感を醸成し、マスコミ界全体の政権追及機運を抑えることも可能だ。

この構図は、各社政治部が有力政治家にマンツーマンで担当者をはり付ける「番記者制度」と同じである。首相と大物政治記者たちのオフレコ会食は、旧態依然たる政治部の番記者制度の延長線上にあるといってよい。

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