注目の新刊!
第一回は9/4(月)夜、東京・渋谷で開催! オンライン参加も!

茂木幹事長の「共産党は左翼的な過激団体と関係」発言を放置したNHK司会者を笑えない朝日新聞政治部

自民党の茂木敏充幹事長が9月4日のNHK日曜討論で、自民党と旧統一協会の関係を追及されたことに反論するなかで「左翼的な過激団体と共産党の関係、ずっと言われてきた」と発言した。

茂木氏が言及した「左翼的な過激団体」が何を意味するのか定かでないが、武装闘争を掲げた極左過激派を指すのであれば、共産党は1950年代に暴力革命路線の放棄を表明した後、むしろ極左過激派とは対立関係にあり、茂木発言は根拠を欠くといえる。

番組に出演していた共産党の小池晃書記局長はその場で「全く関係ありません」「公共の電波を使って自民党の幹事長が全く事実無根の話をしないでください。『過激な団体』と、いつ共産党が関係をもちましたか。共産党は最も厳しく対峙してきた政党です。今の発言を撤回してください」と反論した。

ところが、NHKの司会者はこの問題をあいまいにしたまま討論を先へ進めてしまったのだ。

政治討論番組の司会者は根拠不明な無責任発言が飛び出したら、その場でそれを指摘する責任がある。しかも今回は名指しで批判された共産党の小池氏がその場で事実関係を否定し、撤回を要求したのだ。それを無視し、発言の真偽をあいまいにしたまま討論を進行させたのは、単に司会進行がずさんということにとどまらず、自民党の茂木氏に肩入れしたアンフェアな司会進行というほかない。

公共放送が政権与党の幹事長の「失言」を見て見ぬ振りをし、あからさまにかばったとすれば、その責任は重大である。番組終了後からSNSではNHK司会者への批判が噴出したのは当然だ。NHKは自ら経緯を調査したうえでこの司会進行のあり方について総括し、その結果を公表すべきである。

この騒動を伝える朝日新聞の報道もひどかった。政治家の発言を垂れ流し、両論併記する無責任な政治報道の典型例なので、9月5日18時12分にヤフーで配信された朝日新聞デジタルの記事全文をここに引用したい。

 自民党の茂木敏充幹事長は4日のNHK討論番組で、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題に関連し、霊感商法の被害防止策や救済策についての議論のなかで、共産党について「左翼的な過激団体と共産党の関係、ずっと言われてきた」と発言した。これに共産党の小池晃書記局長が「全く事実無根」と、同番組内で発言撤回を求める場面があった。

 茂木氏の発言は、霊感商法被害の防止・救済に関連し「(現行法で)足りないということであれば、どんな措置を取るのかを考えなくてはいけない。これは旧統一教会の問題だけではなくて社会的に問題のある団体すべてについて考えていかなくてはならない」と指摘し、「左翼的な過激団体と共産党の関係、ずっと言われてきた。そこについて全く調べないというのも問題だ」と言及した。

 小池氏は5日の記者会見で「事実無根のフェイク発言。改めて撤回を求めたい」と批判。茂木氏の発言が、旧統一教会と自民党との接点を巡る質疑の中で出てきたとして「でたらめなことしか言えないぐらい(自民党が)追い詰められているということを示すものではないか」と指摘した。

最初に指摘しておきたいのは、この記事が配信されたのは茂木氏がNHK日曜討論で発言した9月4日午前ではなく、翌日の9月5日夕刻であるということだ。

朝日新聞政治部の記者はNHK日曜討論をほぼ100%見ている。茂木幹事長番の記者は茂木氏に同行してNHKのスタジオで視聴しているし、与党記者クラブのキャップやサブは記者クラブや自宅などで視聴し、ニュースがあればただちに記事化するためにスタンバイしている。

しかもこの日の日曜討論には与野党幹事長・書記局長がそろって出演していたわけだから、各党の幹事長番記者や野党クラブのキャップやサブ、さらには政党担当のデスクらも間違いなく視聴しているはずだ。政治部長もふつうは視聴している。

ところが、番組直後には茂木発言を問題視せず、SNSで批判が湧き上がり通信社などが報じた後になってようやく報道したのだ。茂木発言が発せられたのは4日午前、朝日新聞が報じたのは5日夕刻。つまり朝日新聞政治部は部長やデスク以下の多くが茂木発言を知りながら「問題なし」「報道する必要なし」と判断し、世間が騒ぎ出してから「問題あり」「報道する必要あり」という判断に転じたのである。

本来ならただちに報道すべき事柄である。世間が騒ぎ出してから報じるという主体性のなさこそ、朝日新聞がジャーナリズム精神を失っている証左だ。

いまの朝日新聞は世間が騒ぐかどうかでニュース価値を判断しており、自分自身で事実関係を認定し、ニュース価値を判断する能力を失ってしまったのだ。自分の頭で物事を考えていないのである。

さらに報道の仕方が最悪だ。

まずは茂木氏の発言を紹介し、続いて小池氏が反論したことを伝え、双方の言い分を並列させて終わっている。

これでは茂木発言が真実なのか虚偽なのか、読者は判断できないではないか。

このような「両論併記」による「発言の垂れ流し」は昨今の朝日新聞の記事には極めて多い。記者やデスクが自分の責任で「事実認定(ジャッジ)」せず、その結果として誰も「批判」せず、ただ双方の言い分を垂れ流して放ったらかし、報道した気分になっているのである。

これは朝日新聞が自ら事実を認定し、どちらか一方から抗議されることを、極度に恐れているからだ。真実の追求や読者への説明よりも、自分達の保身を優先しているのである。

茂木氏の発言と小池氏の反論の双方に耳を傾け、番組終了後に双方を取材し、そのうえで過去の経緯や関係者への取材などを踏まえ、白黒はっきりつけるのが、政治報道の役割である。それを放棄しているのだから、この記事はもはや政治報道と呼ぶに値しない。単なる事実の羅列だ。それなら組織ジャーナリズムでなくとも、素人にもできる。購読料をもらって読ませる記事とはとても言い難い。

さらに問題は根深い。

先に述べたように、朝日新聞政治部は自民党幹事長には必ず番記者を同行させている。今回のNHK日曜討論にも同行させていたのは間違いない。茂木発言を幹事長番記者はNHKのスタジオで聴いているのだ。

なぜ高いコストをかけて番記者をはり付けているのかというと、このような問題発言があった直後に、幹事長自身にその真意をただし、事実関係を確認し、ただちに記事化して責任を追及するためである。

今回ならば、幹事長番記者は番組終了後にただちに茂木氏に対して「共産党が左翼的な過激団体と関係していたという根拠はなんですか」と質問しなければならない。そこで茂木氏が的確な根拠を示さなかった場合は「茂木氏は発言の根拠を示すことを拒否した」「この発言は根拠なきまま共産党のイメージを悪化させ、統一教会問題で自民党に浴びせられた批判をそらす狙いがあったというほかない」という事実認定をしなければならないのである。そこまでしてはじめて政治記事は成立するのだ。的確な「ジャッジ」なき政治記事など、世の中をミスリードするだけだ。

そのような事実認定をするために、新聞社は政治家に番記者をはりつけているのだ。おそらく番記者はそれを怠ったのだろう。きちんと追及していれば、ただちに記事が出稿されたはずだ。そうしなかったということは、そもそも幹事長を批判的にウオッチする気がないからである。それでは幹事長番記者は失格だ。なんのために高いお金をかけて幹事長にはりつけているのかわからない。

自民党の幹事長番は政治部でもエース級を投入するのが通常である。その幹事長番がこの程度なのだから、朝日新聞政治部の取材現場の記者たちの劣化は甚だしいことだろう。先輩として恥ずかしい限りだ。

そして、このNHK日曜討論をみていた与党キャップ・サブ、デスク、部長らが誰も幹事長番記者に「ただちに茂木氏に取材して発言の根拠をただせ」と指示していなかったとしたら(おそらくその可能性は極めて高い)、朝日新聞政治部はもう滅んだ組織といってよい。ほんとうに情けない。


政治報道の現場について詳しく知りたい方は、私の新刊『朝日新聞政治部』をお読みください。政治関連本としては異例の4.8万部突破!大好評発売中です。

マスコミ裏話の最新記事8件