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18歳少女のピューリッツァー賞受賞が告げる「動画の時代」〜ジャーナリズムの地殻変動

米ミネアポリスで白人警官が黒人男性ジョージ・フロイドさんを押さえつけて死亡させた事件の現場に居合せ、その様子をスマホで撮影した18歳の少女が、米国で最も権威のあるジャーナリズムの賞「ピューリッツァー賞」の特別賞に輝いた(BBCニュース参照)。

彼女が撮影してSNSに投稿した動画は世界中で視聴され、全米で大規模な抗議活動を呼び起こし、人種差別を見直す動きにつながった。そのインパクトからして堂々たる受賞である。プロのジャーナリストではなく一般の少女が撮影・投稿した動画が世界を大きく動かしたという意味で、誰もが発信できるデジタル化時代の到来を物語る出来事といえよう。ジャーナリズム界の地殻変動は止まりそうにない。

27年前に新聞記者になった時、「とにかく現場へ」「まずは写真を撮れ」と口すっぱく指導されたが、いまや現場に行くだけではプロのジャーナリストとしては通用しない。どんな戦地からも兵士や被災者ら当事者が撮影した生々しい動画が瞬時に世界を駆け巡るのである。「プロのジャーナリストしかできないこととは何か」を改めて問いかける受賞である。

同時に報道界において「写真」を遥かに超える「動画」の力を再認識させられる受賞でもあった。新聞記者の取材現場はなお写真撮影が中心だが、まずは動画をまわすという意識改革が不可欠であろう。

私は新聞社ではかなり早くから調査報道に「動画」を取り入れた記者である。

朝日新聞が調査報道専門の特別報道チームを発足させた2006年、初代メンバーとして加わった。スケート連盟の金銭スキャンダルやパナソニックなど大企業の違法な労働形態(偽装請負)を暴くキャンペーンを手がけた後、1年間の特別報道チームの任期の最後に入手したのが、「台湾の政府系機関が日本の修学旅行を誘致するため校長や教師ら教育関係者を台湾旅行に招待し接待している」という情報であった。

当時、台湾への修学旅行は急増していた。その背景に、台湾の当局による「接待旅行」があったのだ。

私たち取材班は台湾旅行の日程を入手し、現地に入って温泉ホテルや観光地、歓楽街を観光バスで巡る一行を追尾したのだった。そこで活用したのが動画撮影である。日本からの参加者が歓楽街で飲食費を支払ってもらう場面から風俗店に案内される場面まで一部終始を「証拠」として撮影したのだ。今でいう「文春砲」の先駆けのような取材である。当時としては極めて異例な取材手法であった。

帰国して待ち受けていたのは、編集局内での大論争だった。それら動画はあまりに生々しくインパクトが強すぎたのだ。「政治家の公費旅行を追及するのならまだしも、一般の校長や教師たちの旅行を隠し撮りして報道することが許されるのか」という根本的な疑問を突きつけられたのである。もちろん、台湾取材に行く前に「隠し撮り」取材の問題点について十分に精査し社内の決済も得ていたのだが、いざ撮影した動画の数々を目の当たりにして、当時の編集局幹部たちもさすがに慎重になったのだろう。記事は朝刊一面に掲載されたが、「証拠」である動画や写真の数々は「お蔵入り」となったのであった。

私たち取材班は多大なと労力を重ねて撮影した動画だっただけに残念でならなかった。私も当時は30代半ば。まだ若かった。編集局幹部の判断に反発したものだ(今思うとさすがにあの動画をそのまま報道するのはハードルが高いと思う)。この台湾動画取材の「敗北」は、私のなかで、いつか再びこの取材手法に挑戦しようという強い決意を残したのだった。

時は巡り、2012年冬。私は福島原発事故で政府発表を垂れ流すしかできなかった政治報道に限界を感じ、政治部デスクから特別報道部デスクへ移っていた。

特別報道部には福島の現場に通い、原発作業員や被災者らへの粘り強い取材を続ける記者たちがいた。その一人が「除染作業員たちが汚染された木々などを回収した後、それを山中に不法投棄している」という情報を入手したきたのである。さっそく取材班を編成して取材を進めると、不法投棄を認める作業員たちの数多くの証言が集まった。

ここで、デスクとして私の判断が問われた。これら証言だけをもとに「手抜き除染が横行している」という記事を出すこともできるかもしれない。だが、政府や除染業者は強く否定してくるだろう。作業員たちにあの手この手で口止めすることも予想される。作業員たちが「証言」を覆した場合、記事の正当性を証明できるだろうか。

私が思い出したのが、台湾動画取材の「敗北」だった。今こそあの手法を使う時だ。除染現場の不法投棄の現場を「動画」で撮影して証拠とするしかない!

取材班は真冬の福島の山中に潜伏し、カメラを構え、待ち続けた。そして汚染された木々を川へ投棄する場面や、汚染された水を投棄する場面を次々に動画や写真に収めたのである。記者がとっさにスマホで隠し撮りした動画もあった。天地がひっくり返るほどの激しい手振れであっても、臨場感あふれる迫力の映像だった。

これらの生々しい動画は2013年1月、「手抜き除染 横行」のキャンペーンを展開したときに「重要な証拠」として報道を支えるとともに、インターネットを通じて多くの読者の関心をこのニュースに引き寄せるのに大きく貢献した。

この「手抜き除染」報道は2013年度新聞協会賞を受賞した。私は取材班代表として受賞式に出席したが、受賞理由として最も高く評価されたのが「新聞の調査報道に動画を取り入れたこと」だった。

あれから8年。文春砲をはじめ調査報道に動画を使うことはいまや常識となった。政治家のスキャンダルを記者が本人に直接ぶつける瞬間は一度しかない。いきなり疑惑を問われてウソをつく政治家の顔は一度しか撮影できない。どんなにウソをついても表情は何かを物語る。ジャーナリズムにおける「動画」の威力は今後さらに増していくだろう。

それは調査報道に限らない。政治解説やメデイア論でも動画は有力なツールだ。YouTubeがジャーナリズムの主戦場となる日は遠くない。

メディアは技術も理念もアイデアも時代の最先端を走っていなければならない。新聞凋落の原因は時代の最先端どころか最後尾を走ってしまったからだ。サメタイは「小さなメディア」でも「ジャーナリズムの最先端」を走りたいと思う。

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