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自民党政権の「国交省統計の二重計上を生んだ推計方法変更は民主党政権時代に決まっていた」という印象操作に加担し、スクープの価値を自ら減じる朝日新聞の迷走

国土交通省が第二次安倍政権発足直後の2013年4月から建設業の基幹統計のデータを二重計上してGDPのかさあげにつながる改竄をしていた問題で、政府・与党は「二重計上が始まる契機となった推計方法の変更は民主党政権時代から議論を始めたものである」という支離滅裂な反論を始めた。「どっちもどっち」に持ち込んで批判をかわす毎度の印象操作である。

ところが、権力監視を旨とするマスコミはこの反論のどこがおかしいのかを論理的に指摘せず、彼らの言い分を垂れ流すばかり。権力監視の役割をまったく果たしていない。

朝日新聞デジタルが12月21日に配信した記事『推計方法変更「2010年から議論」 国交省、統計書き換え』をもとに、マスコミが政府・与党の「印象操作」に加担する構図を示したい。以下に記事全文を引用する。

 国土交通省による建設業の基幹統計の書き換え問題で、国交省は20日の参院予算委員会で、受注額の二重計上が始まる契機となった推計方法の変更について、2010年1月から省内で議論が始まったことを明らかにした。二重計上が始まった時期は13年4月だったと改めて説明した。

 自民党の山下雄平氏の質問に答えた。国交省の瓦林康人・官房長は、10年1月に省内に検討会を設置して議論を始め、同年3月に結論を得たと答弁。必要な手続きや準備を経た上で、13年4月分の数値から推計方法を変更したという。ただ、変更前から行っていた書き換えによるデータの合算をやめる必要があったが、国交省が続けたため、同時期から二重計上が生じた。

 山下氏は予算委で、推計方法の変更の準備が進められたのが「(民主党政権の)菅直人内閣の時」であるのに対し、二重計上が始まったのは「第2次安倍内閣が発足(12年12月)してしばらくしたタイミング」だと言及。「我々与党も以前の与党も、こうした問題を見抜けなかった」と強調した上で、「国会として再発防止に力を合わせていかなければならない」と述べた。

 一方、野党は「政府は第三者委員会に調査を丸投げするだけでなく、国会の場でこそ明らかにすべきだ」(立憲民主党・石垣のりこ参院議員)などと国会での説明を求めている。

朝日新聞がスクープしたこの問題で、当の朝日新聞が「改竄」ではなく「書き換え」との表現にとどめていること、さらに二重計上が始まったのは第二次安倍政権が誕生した直後であったという核心部分に触れずに第一報を出したという残念な「萎縮報道」については、すでに『国交省統計の「改竄」を「書き換え」と報じた朝日新聞〜せっかくのスクープの残念な萎縮』で指摘した。きょうはその点は深入りしない。

上記の引用記事によると、国交省の官房長は二重計上の開始時期を「13年4月」と明らかにした。第二次安倍政権が発足したのは12年末。アベノミクスで経済成長を果たすことは安倍政権の至上命題だった。国交省はアベノミクスの成果をアピールしたい安倍官邸の意向を忖度して、基幹統計の改竄による「GDPのかさ上げ」を始めたのではないかーーここが今回の問題の核心部分である。

これに対し、国交省は13年4月に二重計上を始めた事実は認める一方、二重計上の契機となった推計方法の変更は安倍政権発足前の民主党政権時代である10年1月に省内に検討会を設置して議論しはじめ、同年3月に結論を得たとした上、必要な手続きや準備を経て実際に変更を始めたのが安倍政権下の13年4月分からだったと説明している。「二重計上は安倍官邸の意向を忖度したものではなく、民主党政権時代から議論を積み重ねた推計方法の変更の結果として生じたもの」と流布することで安倍政権の「関与」を薄め、自民党も民主党もどっちもどっちという印象操作を狙った詭弁としかいいようがない。

詳しく解説していこう。

国交省はもともと毎月の集計で、データの未提出業者の受注実績をゼロにせず、提出業者の平均額を受注したとみなして計上していた。国交省官房長の説明によると、推計方式を変更するための検討会を10年1月に省内に設置して同年3月に変更を決定し、実際に変更を開始したのが13年4月だということになる。

推計方法の変更を受けて、国交省は「業者が提出期限に間に合わず数ヶ月分をまとめて提出した場合、この数ヶ月分の合計を最新の1ヶ月の受注実績として書き直す」ことを都道府県に指示したのだが、本来はこの変更にあわせて従来から実施してきた「未提出業者は提出業者の平均額を受注したとみなして合算する」という措置をとりやめなければならなかったにもかかわらず、それを怠った(または忘れた)ため、結果的に「二重計上」が生じてしまったーーこれが国交省の言い分のようだ。

故意に改竄したわけではなく、あくまでも「行政上のミス」と整理することで行政責任を軽減しようとする、エリート官僚らしい毎度の巧妙な言い逃れロジックである。この国の官僚たちは自分たちの責任回避の術だけはものの見事に身につけていると感心するばかりだ。

かりに国交省の説明が正しいとしても、13年4月に推計方法の変更を実施した際に、従来から行なってきた合算措置をやめなかったのはなぜかという疑問が残る。単なる「ミス」とは思えない。アベノミクスの成果をアピールしたい安倍官邸への忖度から故意に二重計上したのではないかという疑念は、まったく解消されていないのだ。

つまり、民主党政権時代に推計方法の変更方針が決まったとしても、実際に変更を実施する13年4月に従来の合算措置を中止するという「当たり前の措置」を当たり前に実施していれば、二重計上は生じなかった。民主党政権時代の話は今回の改竄には直接関係ないのである。

にもかかわらず民主党政権の話をことさら取り上げて、安倍政権下で二重計上が始まったという事実を薄める国交省の姿勢は、相当悪質な「印象操作」というほかない。権力監視を旨とするマスコミは、本来なら国交省の「詭弁の答弁」を追及すべき立場にあるのだ。

ところが上記朝日新聞デジタルの記事は、国交省の「印象操作」にそのままのっかり、そのロジックのおかしさを指摘することなく、彼らの言い分をそのまま垂れ流し、さらにはタイトルにまで掲載して「印象操作」に加担しているのである。自らが放ったスクープの余波を抑えようとする権力側の印象操作に加担し、自らスクープの効果を自ら打ち消そうとする、実に滑稽な姿をさらけ出しているのだ。

どこまでも権力に睨まれたくない人々なのである。

参院予算委で国交省官房長の答弁を引き出したのは、自民党の山下雄平氏であった。

山下氏は国交省の答弁を受けて、推計方法の変更が行われたのは民主党政権の「菅直人内閣の時」であり、二重計上が始まったのは「第2次安倍内閣が発足してしばらくしたタイミング」と総括。「我々与党も以前の与党も、こうした問題を見抜けなかった。国会として再発防止に力を合わせていかなければならない」と述べ、どっちもどっちという「印象操作」を展開したのである。国交省と入念に打ち合わせしたうえでの質疑であろう。

民主党政権下の「推計方法変更の決定」と、安倍政権下の「二重計上の開始」が直接関係ないことは先に述べた通りである。それをごちゃまぜにして「安倍政権の関与」の印象を薄めるのは詭弁そのものだ。

さらに驚くべきは、上記の朝日新聞記事が山下氏の答弁をそのまま垂れ流し、論理矛盾を指摘することなく、「安倍政権の関与」を薄める印象操作に加担してしまっていることである。

立憲民主党の石垣のりこ参院議員が政府に対して国会での説明を求める記事末尾のコメントは、国交省や自民党の論理矛盾を真正面からただす内容ではなく、いかにも取ってつけた「野党コメント」にすぎず、批判のアリバイ作りのたぐいであろう。

権力者の言い分の「垂れ流し」はふだんの政治報道の随所にみられる。権力者のウソをそのまま垂れ流していることも少なくない。だが、今回の朝日新聞記事がさらに衝撃なのは、自らのスクープの価値を減じる権力側の印象操作までそのまま垂れ流していることだ。その姿は報道機関が率先して国家権力のしもべになろうとしているように映る。

権力と対峙する意思も覚悟も感じることはできない。これでは権力者が新聞社をなめてかかるのもうなづける。

 

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