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台風接近下で決行された「阿波おどり」〜徳島市長の中止要請を実行委員会が拒否した異例の事態から見えてくる様々なこと

四国・徳島の夏の風物詩である阿波おどりは今夏、コロナ規制が解けて4年ぶりに本格開催されたが、話題満載となった。なかでも目を引いたのは、台風が接近するなか、徳島市の内藤佐和子市長が実行委員会に8月14日の中止を要請したにもかかわらず、実行委員会が多数決で14日開催を決定し、市長の要請を拒否したことである(NHKニュース参照)。

今夏の阿波おどりは8月12日に開幕し、15日まで4日間の日程が組まれた。全国のお祭りや花火大会で有料席の設置が進むなか、阿波おどりも一席20万円の「プレミアム桟敷席」がマスコミ報道などで話題となっていた。台風の接近が報じられるなか、12〜13日は夜に行われる有料演舞場での公演を中心に徳島市内は国内外からの観光客で溢れかえっていた。

内藤市長も14日に日付が変わった直後の時点では、X(旧ツイッター)に「昨日の開幕から今までたくさんの笑顔が街に溢れていて、それを見ているだけで泣ける」「朝から晩まで走り回り、天気が心配だなとか、来年の協賛の仕込みしなきゃとか、色々考えながら、いろんな人と話し、笑い、幸せをお裾分けしてもらった2日間」と写真付きで投稿。「 あと2日。ここからの天気が心配。 たくさん動いて、今日も疲れたので寝ます。おやすみなさい。みなさんもご無理なさらず」とも発信していた。

事態が急変したのは14日午後である。台風が徳島にも接近するとの予測が強まり、内藤市長は午後3時の投稿で、実行委員会に対して中止を要請したものの、実行委員会は開催を決定したことを明らかにしたのだ。

読売新聞によると、実行委員会は内藤市長からの中止要請を受けて対応を協議。委員から「雨でもこの程度であれば大丈夫」「警報の発表は予想されていない」との意見が出て、委員長代理を除いて多数決を採ったところ9対7で屋外演舞場での踊りを予定通り実施することが決まったという。

市長の中止要請を実行委員会が拒否して阿波おどりを決行するというのは、もはや尋常ではない。異例の事態はなぜ起きたのか。そもそも実行委員会とは何者なのか。どう考えてもこれは「民主主義」や「行政のあり方」を考える格好の題材である。

内藤市長は東大在学中に難病を発症した体験をつづった本が話題を集め、卒業後は地元・徳島でまちづくり団体代表として活動してきた。36歳だった2020年の徳島市長選で2期目を目指した現職を破って初当選し、全国史上最年少の女性市長として脚光を浴びた。

徳島では「自民分裂」の政治状況が続いている。今年4月の徳島県知事選も5期20年務めた現職の飯泉嘉門氏に自民党衆院議員だった後藤田正純氏や自民党参院議員だった三木亨氏が挑む「保守分裂」の大混戦となり、後藤田氏が競り勝った。内藤市長が当選した2020年の徳島市長選も「保守分裂」の大激戦となり、内藤市長が1999票で現職を倒していた。

内藤市長がこの市長選の目玉公約に掲げたのが「阿波おどり実行委員会の委員長に自らが就任して改革を断行する」ことだったのだ。

阿波おどりはそれまで徳島市の観光協会と徳島新聞社が共催してきたが、2017年に4億2400万円の累積赤字が発覚し、徳島市の前市長が同協会への補助金打ち切りを表明した。徳島市と徳島新聞社を中心とする新たな実行委員会が発足したものの、有料観覧席が売れずに赤字が続き、半世紀近く主催してきた徳島新聞社が実行委員会から離脱し、徳島市の前市長も実行委員長から退任。運営をめぐる混乱が続いていた。

内藤市長は当選後、公約通りに実行委員長に就任したが、混乱は収まらず、2021年には実行委員会が解散する事態に。市政をめぐる対立も収まらず、内藤市長が公約に掲げた「給与50%カット」を破ったことへの批判も高まり、内藤市長に対するリコール(解職請求)の動きに発展した。市選挙管理委員会は住民投票に必要な法定数を下回ったと公表し、徳島県警が署名偽造容疑で市役所の選管事務局を捜索するなど混乱が続いてきた。来年予定される徳島市長選に向けて対立は激化していくに違いない。

2022年に仕切り直しで発足された阿波おどり実行委員会の名簿をみると、県や市の観光団体、JR四国や商工会議所など地元経済界、阿波おどり団体、市民団体などの代表者に加え、市の当局者(経済部、消防局、都市建設部)も名を連ねている。有料席の是非など運営方法をめぐる対立はなお続いているようだ。

地元民でも追いきれないような徳島市政と阿波おどりをめぐる紆余曲折の大混乱を経て、今夏、阿波おどりは4年ぶりに本格開催された。市長と実行委員会の確執が深まり大迷走するなかでも、急速な円安とコロナ規制の終了で海外観光客が阿波おどりに殺到し、1席20万円の「プレミアム桟敷席」が飛ぶように売れたのは皮肉としかいいようがない。実行委員会が市長の要請を振り切って開催したのも「有料化」と無縁ではなかろう。

阿波おどりの舞台裏を垣間見て陰鬱な気持ちになる中、心を動かされるニュースもあった。

ANN「グッド!モーニング」によると、これまでメインの会場で観客を沸かせてきた老舗の踊り手グループが、今回は出演を認められない事態となった。159グループのうち4グループだけが選考から漏れたのだという。

そのうちのひとつが、1977年に誕生した「本家大名連」だ。60人の大所帯で、殿様や姫、忍者などに扮したユニークな踊りで知られる人気グループで、有料演舞場への出演を数十年間続けてきた。

突然の選考漏れに対し、グループのリーダーである清水理さん(75)は「過去に座席の有料化について、疑問を呈したことも影響しているのではないか」と話しており、事態は穏やかではない。市政や実行委員会をめぐる対立がこのような形で現場にも影を落としているとみてよいだろう。

清水さんら一行が阿波おどり当日にとった行動が軽快だった。有料演舞の会場から1キロほど離れた薄暗い公園に集まり、そこで踊り始めたのだ。

清水さんは「本当の阿波おどりというのは、皆さん方と踊るのが阿波おどりでございます。ただいまからは皆様方と一緒に踊ります」と切り出すと、観客が自然発生的に続々と集まり、、薄暗い公園にあふれんばかりに膨れ上がったのである。「やっぱり楽しいね。本当に今回の阿波おどりだけは、心を打ちましたよ。50年やってきたなかで、一番印象に残りました」という清水さんの言葉が胸に響く。

日本の国力低下による円安が進行し、政府が国策で「観光立国」を進めるなかで、阿波おどりをはじめとする伝統行事は「夏の風物詩」から「観光ビジネスの目玉イベント」に変貌している。そこへ巨額の補助金や外需が流れ込み、「お祭り」はますます地元経済界の「巨大利権」と化す可能性がある。

そのなかで「実行委員会」の透明性がこれまで以上に求められるのは間違いない。さらに「実行委員会に参画した一部の人々」だけが潤い、多くの地元住民が参加しにくいビジネスイベントに成り果てたら、もはや何のための、誰のためのお祭りなのか、存在意義そのものが揺らいでくる。

全国各地で「有料化」が相次ぎ花火大会に続いて、日本社会の変貌を考えさせられる夏の風物詩・阿波おどりであった。

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