日本政府も米国の意向に従ってロシア産原油の輸入禁止を決定した。岸田文雄首相が5月9日のG7首脳のオンライン会議でロシアを非難した上、「わが国としては大変厳しい決断だが、ロシア産石油の原則禁輸という措置を取ることとした」と表明した。
石炭輸入制限に続くエネルギー分野の制裁第2弾。日本が昨年輸入した原油のうちロシア産は約3.6%にとどまるが、ロシアは世界有数の原油輸出国のため国際的な原油高に拍車がかかり、日本国内の物価高がさらに加速するのは間違いない。
ロシア経済制裁による物価高は、生活に余裕がない人々ほどおもくのしかかる。これに対し、岸田政権はどう対応するつもりなのか。
岸田首相は禁輸について「時期は実態を踏まえ検討していく。時間をかけ、フェーズアウト(段階的禁輸)のステップを取っていく」と述べ、国民生活への影響を考慮しながら順次進めると説明。松野博一官房長官は「既に輸入(先)を他国に代替する取り組みに着手した」とし、「再生可能エネルギーや原子力の利用も含め、あらゆる手段を講じる」と語った。
ちょっと待ってよ、という感じである。170円を超えるガソリン高騰に対し、岸田政権が打ち出した対策は石油元売会社への巨額の補助金だった。巨大エネルギー企業に対して補助金を巨額の税金を投じたところで、実際にガソリン価格がどれほど下がるかは確かではない。
それよりガソリン税を廃止したほうが確実にガソリン価格は数十円下がる。国民生活を直接支援するガソリン税の廃止を見送り、石油元売会社に巨額の税金を投入するのは自公政権の「個人よりも大企業を優遇する政治」を象徴するものだ。
消費税増税にしろ、法人税減税にしろ、労働市場の規制緩和にしろ、円安株高に誘導するアベノミクスにしろ、ガソリン高騰への対策にしろ、自公政権は国民生活を二の次にして、経済界の意向に沿った経済政策ばかりに巨額の税金を注ぎ込んできた。その結果、大企業や株主、経営者はぼろ儲けし、所得や資産の少ない人々の生活はますます苦しくなり、貧富の格差は拡大する一方である。
自公政権がいかに個人を軽視し、大企業ばかりを優遇しているかは、以下の記事で詳しく解説しているのでぜひご覧いただきたい。
ガソリン価格高騰で石油元売り各社に補助金を出す「個人よりも業界」重視の自民党らしい政策
”年金受給者だけに5000円給付”の愚策を徹底批判したうえで、ひとつだけ前向きに肯定できること
4月から食品の「無添加」表示が禁止に!自民党政権の呆れる「弱肉強食」大企業優遇策
今夏の参院選の最大の焦点は本来、「大企業重視の自公政権vs国民生活重視の野党」となるべきである。
ところが野党第一党を事実上支配してきた連合は自民党や経済界に接近し、大企業で働く正社員ら「勝ち組」の代弁者としての性格を強め「国民生活重視」の勢力とは言えなくなった。立憲民主党も連合に引きずられて「批判よりも提案」に重心を置き、自公政権の大企業優遇政治への対立軸を示せていない。
立憲民主党を倒して野党第一党の座を奪うことを言明している日本維新の会に至っては、自民党以上に大企業重視の新自由主義の立場を鮮明にしている。立憲民主党と袂を分かった国民民主党はなりふり構わず与党入りをめざす始末である。
れいわ新選組を除く与野党が全会一致で「ウクライナと共にある」という国会決議に賛成し、ロシアへの経済制裁強化を訴えるゼレンスキー大統領の国会演説をスタンディングオベーションで称賛したことが、岸田政権のロシア制裁強化に対して野党が異議を唱えにくい状況をつくってしまったのではないか。
立憲民主党や共産党は参院選で国民生活を圧迫する経済制裁の強化についてどう訴えるつもりだろう。野党として自公与党と一緒に国会決議に賛成し、ゼレンスキー演説を称賛したのは、参院選戦略としても失敗だったと私は思っている。
山本太郎会見で気づいた!経済制裁は早期停戦合意を妨げ、戦争を長引かせる。ゼレンスキー演説に拍手喝采し、ロシア制裁を叫ぶ与野党国会議員たちに欠けている視点
自民、立憲、維新、公明の上位4政党がいずれも「大企業にとって都合の良い政党」と化し、弱い立場の人々の声は国会に届かなくなっている。今夏の参院選で、軽んじられた国民たちが「怒りの一票」で抗議の意思を示さなければ、その先3年間は国政選挙が予定されておらず、この「空白の3年間」に国会はますます「総与党化」して全体主義・大政翼賛政治が強まる恐れが高い。
自公を倒すために野党に投票するーーそれだけで本当に自公を倒すことにつながるのか。野党戦線が崩壊し、有権者がそこまで心配しなくてはならないという、歪んだ政治情勢が出現してしまった。
維新や国民民主はもはや「野党」と呼ぶに値しない。
それでは立憲民主はどうか。自公与党の大企業優遇政治に真に対抗する人々と、連合に依存して大企業優遇政治に引きずられていく人々が混在しているのが現状だ。
立憲民主については党名で判断するのではなく、候補者個人をよく見極めることが肝要だ。では、どのようにして見極めたらよいか。答えは簡単である。連合とべったりか、連合と決別する覚悟があるかどうかで見極めればよい。
ぜひ、街頭演説や対話集会で「あなたは連合と決別する覚悟がありますか?」と尋ねてみることをオススメしたい。そこで口籠れば連合に依存している証拠である。そのような政治家は最後は連合に追従して「国民生活よりも大企業優遇」を踏襲するに違いない。
参院選が終われば、国民が国会への抗議を投票で示す機会は3年間ない可能性が高い。国会が与党一色に染まる全体主義に本当に抗うのはだれかという視点で投票先を選ぶことが必要であろう。
さいごに岸田政権が推し進める経済制裁について改めて一言。
米国のバイデン政権が、ウクライナの人々の命を救うために一刻も早く停戦することではなく、それとは正反対に戦争をできる限り長引かせ、ロシアへの経済制裁を長期的に継続させることによってプーチン政権を転覆させることを最優先にしていることは、もはや疑いのない事実である。
バイデン政権がウクライナを盾にして米国の国益と自らの政権浮揚を最優先に狙う「ロシアとの経済戦争」に欧州も日本も全面的に加担し、それと距離を置く中国やインド、東南アジア、中南米、中近東アフリカの大多数の国々と世界経済を二分するブロック化が進んでいる事実もまた直視しなければならない。
日本マスコミは欧米政府のプロパガンダを垂れ流し、「国際社会はロシアを包囲している」「ロシアは孤立している」と一方的に伝えているが、これは事実に反する。ロシアのウクライナ侵攻が暴挙だとしても、ロシアは国際社会で孤立しておらず、「ロシア経済制裁に参加した欧米日」と「ロシア経済制裁に参加しないその他大多数の国々」に二分化されたというのが事実だ。
「欧米=国際社会」と考えるのも事実に反する。経済制裁に参加した国々は、人口ベースでは2割以下で圧倒的に少数派であり、GDP規模でも5〜6割程度で圧倒的多数にはほど遠い。この現実に目をつむり、欧米=国際社会という視点でウクライナ情勢を垂れ流す日本マスコミのニュースこそ、フェイクニュースと言われても仕方がない。
「ロシア追放」に賛成したのは国連加盟国の48%!台頭する第三世界は「欧米=国際社会」へ静かに抵抗している
これはロシアの軍事侵攻を支持するか支持しないかというイデオロギーの問題ではなく、世界政治・経済の現実である。私は朝日新聞社に政治部を中心に27年在籍したが、朝日新聞をはじめ日本マスコミがここまで欧米目線のプロパガンダに染まり、現実政治・現実経済を直視しないことになるとは思いもしなかった。
欧米メディアの外電を垂れ流すばかりの国際報道は目を覆いたくなるばかりだ。日本マスコミの国際報道は米国の視点でしか世界を捉えていない。国際報道記者の大多数は米国に留学して英語を身につけ、もっぱら米国の視点で世界を学び、もっぱら米国の視点で世界を報じているのである。彼らは「米国通」こそ「国際通」だと勘違いしている。これでは対極化する世界の現実をとてもつかみきれない。もはや米国は世界の一強ではないのだ。
ロシアの軍事侵攻を非難するのは当たり前である。だが、それで「善悪二元論」に染まり、マスコミが国際政治・経済の現実を伝えずロシア批判を撒き散らして「ロシアはひどいよね」と日本国内で盛り上がっているようでは、この国は厳しい国際政治の荒波を乗り越えていけないだろう。
世界はもっとしたたかだ。日本政府は日本で暮らす人々のくらしを守ることを最優先し、欧米主導の経済戦争にどう対処するかを考えなければならない。どうしても安全保障上の立場から米国に追従して長期間に及ぶ経済制裁に加担するしかないのなら、そのしわ寄せが立場の弱い庶民にこないように、大胆な財政出動で国民生活を守るべきである。そこまでして米国に追従する価値があるのかを天秤にかけて見極めるのが政治というものだ。
国民生活を守るという政治の最大の責務を放置したまま、米国の機嫌をとって経済制裁に加わるのは、本末転倒である。