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共産党・田村智子をウクライナへの軍事支援で迷走させた「ロシア非難決議」への賛成〜日本の国会にしのびよる全体主義

日本政府がウクライナ政府に対して防弾チョッキなど防衛装備品を提供するのは、これまでの停戦要請や人道支援とは別次元の「軍事支援」に踏み込むものだ。この問題をめぐって「平和」を党是に掲げる共産党が迷走した。

田村智子政策委員長が3月4日の記者会見で、ウクライナ政府への防衛装備品の提供について「人道支援としてできることは全てやるべきだ。今回、私がこの場で反対と表明するようなことは考えていない」と表明した翌日、一転して「非軍事の支援に全力を挙げるべきだ。防弾チョッキであっても防衛装備品の供与はわが党が反対してきた武器輸出にあたる。今回の決定は紛争当事国への供与になる。わが党として賛成できない」と発言を修正した(「しんぶん赤旗」参照)。

田村氏は舌鋒鋭い政権批判と親しみやすい語り口で共産党のイメージアップに貢献してきた。「ポスト志位」への期待感も高まる彼女がウクライナへの「軍事支援」をめぐってつまづいたのはなぜか。

私はれいわ新選組をのぞく圧倒的な賛成多数で国会で採択された「ロシア非難決議」(衆院本会議は3月1日)に根本原因があるとみている。共産党は自民党や日本維新の会などとともにこの国会決議に賛成したのである。

ロシア軍のウクライナ侵攻を受けた国会決議のポイントは以下の二つである。

①ロシア軍による侵略を最も強い言葉で非難する。そして、ロシアに対し、即時に攻撃を停止し、部隊をロシア国内に撤収するよう強く求める。

②改めてウクライナ及びウクライナ国民と共にあることを表明する。

ロシア軍のウクライナ侵攻は明白な国際法違反である。国際紛争を解決する手段として武力を行使することに断固反対する立場から、ロシア軍に即時撤収を強く求める①にまったく異論はない。この内容だけなら全会一致で採択することに何の問題もない。あくまでも「軍隊の撤収」と「停戦」を何よりも最優先に求めるという立場につながる内容だ。

問題は②である。「ロシア政府vsウクライナ政府」の戦争に対し、国権の最高機関である国会が「ウクライナと共にある」と表明することで、日本はウクライナ政府に全面的に味方する姿勢を国内外に向かって宣言したのだ。

これは「ロシア=悪」「ウクライナ=正義」と認定してロシア政府と交戦状態にあるウクライナ政府を全面支援することを意味し、ロシアに譲歩する形で妥協する「停戦」は受け入れられないという立場につながる危険をはらんでいる。自らは戦わずに武器を送り込むことでウクライナを盾にしてロシアの軍事的脅威を食い止めようとしている欧米諸国の安全保障上の「国益」に沿った内容だ。

私は、国会決議は①国際紛争を解決する手段として武力を行使することに断固反対し、ロシア軍の即時撤収と即時停戦を強く求める②ウクライナに暮らす人々の生命を最優先する立場から、避難民の受け入れなどの人道支援を最大限行うーーという内容にとどめるべきだったと考えている。

あくまでも平和と基本的人権を守る立場から「ウクライナに暮らす人々」(「ウクライナ国民」に限定しないことがポイント)の側に立つことが日本のとるべき懸命な立場ではないか。念を押すと、国民を総動員して武器を手に徹底抗戦し「国益」を守ろうとするウクライナのゼレンスキー政権とは一線を画し、あくまでも戦禍に苦しむ「ウクライナに暮らす人々」に寄り添う姿勢を掲げるのだ。その立場から「ロシア軍の撤収」や「停戦」の一刻も早い実現を最優先に追求するのである。

ウクライナのゼレンスキー大統領が「国益」や「政権」を守るために国民を総動員して武力でロシア軍に反撃することと、ウクライナに暮らす一人一人の「生命」や「基本的人権」を守ることは、切り離して考えるべきだ。ウクライナに暮らす人々は千差万別である。ゼレンスキー政権を支持しない人々や武器を持って戦いたくない人々の生命や基本的人権も尊重する姿勢を崩してはならない。

残念ながら国会決議はその一線を超えて、戦争当事国である「ウクライナ政府」の側に立ち、ロシア政府を敵視する姿勢を鮮明にするものとなった。これは「戦争当事者」の一方に「後方支援」ながら日本も加わる宣言といえる。ロシアにすれば欧米とともに日本から「宣戦布告」されたに等しい政治的意味を持つ。

日本はロシアとの北方領土交渉が停滞するという程度のリスクにとどまらず、日本列島の北側に広がる強大な軍事国家・ロシアから軍事的に敵視されるという恐るべき安全保障上のリスクを抱え込んでしまった。これが日本の安全保障のとるべき道なのか? 欧米が振り撒く「正義の戦い」に目が曇り、日本の安全保障を守るリアリティーを見失っていないか?

この「国会決議」に対する私見は以下の記事で詳報したのでご覧いただきたい。

ウクライナへの防弾装備品提供で日本は「対ロシア戦争」に加わった!〜国会決議「ウクライナと共にある」の帰結

この国会決議は、衆院3人・参院2人と少数政党であるれいわ新選組を除く「全会一致」で可決された。共産党はウクライナ危機に同調して日本国内への核兵器配備を提起する自民党や日本維新の会とともにこの国会決議に賛成したのである。

一方、唯一反対したれいわ新選組は国内世論から「ロシアに味方するのか」という激しいバッシングを受け、上昇気流にあった政党支持率が一気に反転した。

私は、ロシア軍のウクライナ侵攻に至る国際政治の複雑な経緯に目をつぶり、欧米政権と欧米メディアが振り撒く「プーチン大統領=悪、ゼレンスキー大統領=正義」という善悪二元論の一色に染まる日本の国会に、大政翼賛会的な「全体主義」が忍び寄る恐怖を感じずにはいられなかった。

そして、「全会一致」に唯一抗ったのが、これまで「たしかな野党」としての立場を築いてきた共産党ではなく、衆院に進出したばかりのれいわ新選組だったことに、衝撃を受けたのである。

この国の国会のありようが地殻変動を起こしているのではないか?

共産党が国会決議に賛成した背景には、「ロシア=悪」「ウクライナ=正義」の善悪二元論が日本列島を席巻するなかで、国会決議に反対すれば今夏の参院選に向けて大きな打撃になるという政治的な打算があるのは間違いない。新興勢力のれいわと比べて政治的にしたたかな立ち回りをしたといえよう。

さらに昨年の衆院選で立憲民主党との「野党共闘」を進め、「限定的な閣外協力」を掲げて政権交代を目指すという歴史的な一歩を踏み出したため、安全保障論で「反対」を表明することにためらいがあったという事情もあろう。衆院選で「共産党バッシング」を受け、立憲民主党の「共産離れ」を招いたトラウマがあったのかもしれない。共産党としては「ロシアの味方」とレッテルを貼られることを人一倍恐れる気持ちも理解できる。

しかし、その代償として、武器を手にロシア軍と戦うゼレンスキー政権に対して「できることは全てやるべきだ」(田村氏)という政治感覚が持ち上がってきた。欧米のようにミサイルを供与するのではなく、防弾チョッキなら許されるのではないかーーそのあたりの境界線が緩くなったという事実は見逃せない。それが田村氏の当初の発言として表面化したのだ。

共産党は国会決議に賛成したことによって自らの手足を縛ったというのが私の見解である。田村氏の当初の発言に対して「防衛装備品といえども武器に変わりはない」という異論が党内から噴出したのだろう。1日で発言を軌道修正したことで共産党がギリギリ踏みとどまったことは評価したい。

だが、国会決議に賛成した事実は残る。強力な組織政党である共産党はトップの志位和夫委員長を含む機関決定を覆すことが相当難しい。これからロシア、ウクライナ、欧米の国益が激しくぶつかりあい、戦争が泥沼化する恐れがあるなかで、「たしかな野党」として「ロシアの味方をするのか」という世論の批判に抗し、対ロシア戦争への「軍事支援」に激しく抵抗していけるのか。一抹の不安が残る。

国会決議に賛成した立憲民主党の泉健太執行部は、自民や維新が提起する「非核三原則見直し」に反対しているものの、防衛装備品の支援など「軍事支援」に断固反対する姿勢は見えない。同党の安住淳前国会対策委員長は「緊急事態だから、殺傷兵器でない限り個人的に理解はできる。問題を指摘する人もいるかもしれないが(政府は)ぎりぎりやれる部分を探したのだろう」と賛意を示している。もはや立憲は歯止め役を果たせないだろう。

れいわだけを「ロシアの味方」として切り捨てるのか。立憲民主党とともに政権交代を目指す「歴史的な一歩」に昨年踏み出した共産党は、ウクライナ情勢をふまえ、立憲との協調体制を引き続き模索するのか、れいわとの連携強化に軸足を移すのか、今夏の参院選にむけて重大な政党戦略の岐路に立っているといえるのではないか。

れいわ新選組が「ロシア非難決議」に反対した理由〜国会の既存政党すべてに挑む姿勢を鮮明に

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