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衆院解散を菅首相に進言すると言った二階幹事長の誤算〜「二階外し」が強まる自民党

自民党の二階俊博幹事長は「野党が内閣不信任案を提出したら衆院を解散する」と公言してきたが、そうはならなかった。野党は6月15日、菅義偉内閣への不信任案を提出したが、菅首相は衆院解散に踏み込まず、与党は粛々と否決したのだった。

コロナ感染拡大のなかで解散総選挙などできるはずがない。それは内閣不信任案を提出した立憲民主党の枝野幸男代表も、不信任案を受けた菅首相も、さらには「不信任案提出なら衆院解散」と明言していた二階幹事長も、当然理解しているはずであった。それでも二階氏が「衆院解散」と言い放ってきたのは「野党は不信任案を出さないだろう」という読みがあってのことだったに違いない。

もし野党が不信任案を出さなかったら、「二階氏が野党を抑え込んだ」との見方が政界に広がり、「二階株」は上昇しただろう。だが、二階氏の読みは外れた。野党が「二階氏の顔を立てなかった」と言えるかもしれない。

今回の「不信任案政局」を機に二階氏の自民党内での影響力は急速に下降していくと私はみている。

きのうの記事で、二階氏の「衆院解散」発言は、安倍晋三前首相、麻生太郎副総理、甘利明税調会長の「3A」が「二階外し」を画策するのに対抗して、「俺は菅首相に衆院解散を進言できるんだぞ」と親密ぶりをアピールすることで自民党内の求心力維持を狙ったものであると解説した。

しかし、野党は結果として不信任案を提出し、菅首相は衆院解散を断行しなかった。二階氏の思惑とは裏腹に、二階氏の影響力低下を浮き彫りにする結果に終わったのだ。

きょうは二階氏の「誤算」について解説することにしよう。

二階氏は1990年代の政界再編で小沢一郎氏とともに自民党を飛び出し、新進党や自由党を渡り歩いた。その後、小沢氏と決別して自民党に復帰し、安倍政権の途中で幹事長に就任し「歴代最長の自民党幹事長」になったのである。その政界遊泳術はいまの永田町で随一であろう。与野党全般にわたる政界人脈の分厚さは群を抜いている。

それでも自民党内の「数の力」では安倍氏や麻生氏に大きく水を開けられている。「数の劣勢」を跳ね返して菅政権を誕生させ幹事長の座を死守したのが、二階氏の凄まじところだ。

安倍氏や麻生氏に自民党内の「数」で太刀打ちできない二階氏が影響力を維持してきた秘訣は「野党との連携」をちらつかせることだった。「俺を外すといつでも造反して野党を組むぞ」と安倍氏や麻生氏に暗黙のプレッシャーをかけてきたのだ。

二階氏が昨年の自民党総裁選で、安倍氏や麻生氏が本命視していて岸田文雄政調会長(当時)を抑え、菅官房長官(同)を勝利に導いたのも、安倍氏が毛嫌いする石破茂元幹事長を擁立するフリを見せて「石破政権になるくらいなら菅政権のほうがマシだろ」と安倍氏らに妥協を迫ったからだった。「安倍氏らの政敵」である石破氏との連携をちらつかせて自民党内の多数派を押さえ込む二階氏の真骨頂を発揮した政局であった。

二階氏は安倍、麻生、甘利の3Aが「二階外し」を画策する目下の政局でも同様の手法で対抗するのが基本戦略である。石破カードはもはや錆び付いて使えず、ここは野党を利用するしかない。そのために腹心の森山裕・自民党国対委員長を通じて立憲民主党の安住淳国対委員長らと水面下で連携をとり、「俺を外せば野党との大連立を仕掛けるぞ」というメッセージを安倍氏や麻生氏に送ってきたのであった。(この構図を立憲民主党の安住氏からの視点で解説した記事として以下の『国民投票法「自民・立憲合意」の正しい読み方〜影の主役は共産党〜安住国対委員長の真意とは?』を参照いただきたい)

だからこそ、今回の不信任案政局で、野党が二階氏の顔をたてて不信任案提出を見送ることを、二階氏は期待したに違いない。立憲民主党の枝野代表は今秋の総選挙でいきなり過半数を得て政権を獲得できるとは考えていないだろう、総選挙後に与野党が伯仲すれば立憲民主党と自民党二階派が連携する政権(安倍氏や麻生氏を外す政権)を樹立する選択肢を残すため枝野氏は俺の顔を立てるのではないかーー二階氏はそんな読みであったと思う。

だが、枝野代表に「不信任案提出見送り」の選択肢はなかった。総選挙を目前に弱腰姿勢をみせれば野党共闘内の求心力を失うからだ。野党第一党の党首として総選挙に挑む枝野氏に、総選挙後の政局を見据えて二階氏の顔を立てる余裕はなかったのである。

いずれにしろ、枝野氏が不信任案提出に踏み切ったことで、「枝野・二階ライン」(安住・森山ライン)が連携して総選挙後の政局を動かすという機運は萎んだ。二階氏の「神通力」は陰り、安倍氏ら3Aの「二階外し」が勢いを増すのは間違いない。

二階氏のもうひとつの誤算は、安倍氏らに対抗する「ポスト菅」の切り札として想定していた小池百合子・東京都知事の人気が失速してきたことだ。「いざとなれば小池を担ぐ」という脅しが二階氏の権力の源泉のひとつであった。2017年の総選挙で二階氏が新進党で同じ窯の飯を食った小池氏と二階氏が野党から引き剥がした細野豪志氏が主導するかたちで発足した「希望の党」は、選挙戦の途中で空中分解したものの、その背後にある二階氏の影を感じて安倍氏らは怯えたのだった。

だが、コロナ対策と東京五輪の迷走で小池氏にかつての勢いはない。「立憲民主党カード」に続いて「小池カード」も切りにくい現状は、二階氏の手詰まり感を映し出している。

したたかな二階氏がもうひとつ用意したカードは、自民党幹事長代行に起用した野田聖子氏だった。野田氏は党内基盤が弱く、これまで自民党総裁選への出馬を繰り返し模索しながらも推薦人を集められずにきた。その野田氏を自らの直属である幹事長代行に抜擢して「ポスト菅」に引き立て、安倍氏らに対抗するカードに仕立てようとしたのである。

だが、野田氏の「売り」は今のところ「初の女性首相を目指す」という点にとどまり、自民党内で支持は広がっていない。安倍氏は子飼いの稲田朋美元防衛相を引き立て「野田カード」を牽制しており、二階氏の思惑通りに進んでいないのが現状だ。

二階氏にとって手痛いのは、菅首相が安倍氏や麻生氏を牽制する狙いで閣内に取り込んでいる河野太郎氏や小泉進次郎氏と利害が重ならないことである。河野氏や小泉氏は再生エネルギー推進派で「脱原発」を旗印に首相の座を狙うことを構想しているが、二階氏は電力会社と親密なゴリゴリの原発推進派なのだ。このため河野氏や小泉氏と連携して安倍氏や麻生氏に対抗する選択肢を選べないことは大きな足枷といっていい。

自民党内の「二階外し」が加速すれば、菅首相が今秋の自民党総裁選で「二階外し」を受け入れることと引き換えに安倍氏や麻生氏の支持を取り付けて再選をめざす可能性が現実味を増してくる。「政界随一の政局力」を誇る二階氏はどう反撃に出るか。立憲民主党、小池都知事、野田幹事長代行に代わるカードはあるのか。

これから目を話せないが、二階氏もすでに82歳。子息への円滑な代替わりと最低限の影響力保持を優先して安倍氏らとの激突を避け、総選挙目前にスパッと政界引退する幕引きもあるのではないかと私はみている。


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