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総額15億円「スマイル商品券」の謎〜港区のコロナ目玉政策を追え!【1】落選

東京都港区にある私の住まいに「港区商店街連合会からの重要なお知らせです」と赤字で書かれたハガキが届いたのは1月31日のこと。妻に宛てたものだった。

裏側には「スマイル商品券 港区内共通商品券 合計15億円分発行」の文字が踊っている。

シールをはがすと「紙商品券当選はがき」と書かれていた。「抽選の結果、以下の通り当選されました」として、郵便局に現金5万円を持参し、6万5000円分の商品券と引き換える手続きが記載されている。

現金5万円が6万5000円分の商品券に化ける「プレミアム率30%」のスマイル商品券。私たちの税金を投入した港区の目玉事業だ。

商品券を購入できるのは港区民・港区在勤者だけ、商品券を使用できるのは港区内の一部店舗だけ。今回は紙商品券(発行総額5億円)とデジタル商品券(発行総額10億円)をあわせて総額15億円分を発行するのだという。

私は妻宛てのハガキを取り出した後、郵便受けを物色した。そこはガランとしている。私宛のハガキはない。

私は妻とともにスマホからこの「スマイル商品券」に応募していた。抽選の結果、妻は「当選」し、私はあえなく「落選」したようだった。

私は朝日新聞社を退職するまで自分が暮らす港区の政策にはほとんど関心がなかった。のちほど確認したのだが、港区の「商品券」は私が港区に暮らし始める前年の1998年以降、毎年1〜2回は発行されてきたのだという。

私は長年、その存在自体に気づいていなかった。会社を辞めた後、近所の商店街で「スマイル商品券」の募集をたまたま目にした時、プレミアム率30%という破格の「利回り」に驚いた。

税金をこんな使い方しているんだ…これで救われるの、ごくごく限られた人でしょ。このコロナ禍、もっと違う税金の使い方があるんじゃないの?

最初に湧き上がったのは、そんな疑問である。

だが待てよ。どんなに怒っても私が納めてきた税金は戻ってこない。コロナ禍でさまざまな「大盤振る舞い政策」が全国各地で繰り広げられている。この商品券も、その存在を知る一部の区民だけが恩恵を受けるのはおかしいじゃないか。私も会社を辞めたことだし、これまで納税した分を取り戻してもバチは当たらないだろうーーそう思い直し、妻とともに「スマイル商品券」に応募することにしたのである。

スマホに「港区スマイル商品券」と入力すると、応募方法が出てきた。いきなり「デジタル商品券」は抵抗があるな(ちょっと情けない…)。私たちは「紙商品券」を選択して応募した。予算枠を超えた場合は抽選になるとも記されている。当選したら自宅にハガキが届き、落選したら何の連絡もないということも…。

そしてついに当選発表の時が来た。結果は先に述べた通りである。

二人とも当たったらあわせて13万円分のスマイル商品券を10万円で手に入れていたことになる。有効期間は半年。利用可能な店舗一覧を確認したが、私が利用したことのある店舗は二つ三つしかなかった。

まあ、落選したほうが無駄遣いしなくて済んだかもしれないな…そう思いつつ、やはりしっくりこない。

同じ区民でも「スマイル商品券」を知っている人と知らない人がいる。

知っていても現金をすぐに用意できる人と用意できない人がいる。

応募しても当選する人と当選しない人がいる。

抽選に当たってスマイル商品券を手に入れた人は1万5000円分の利益を労なく手に入れる。

そして、その商品券で潤う店舗はごくごく一部である。

この政策、この税金の使い方、ちょっとおかしくない!?

港区の人口は約26万人。このうち何人が応募し、何人が「当選」したのだろう。抽選は公正に行われたのだろうか。もしかして「区長枠」や「区議会議員枠」とか「商店街枠」があったりして…。

首相が税金を投じる政府公式行事「桜を見る会」に地元の有権者を特別に招待する時代である。何があってもおかしくはない。そもそもこの「スマイル商品券」にはどのくらいの税金が投入されているのだろうか。

自分が「落選」した無念を割り引いても、納税者としての疑問は次々に湧いてくる。新聞記者として「隠された事実」を掘り起こす調査報道に携わってきた経験からも、この事業には「ある種の匂い」を感じた。気になりはじめると放置できない。いろいろ忙しいのだが、仕方あるまい。ちょっと聞いてみようか。

私は妻の「当選ハガキ」をくまなく読み、問い合わせ先を探した。そして見つけた。「プレミアム付き区内共通商品券(スマイル商品券)コールセンター」の電話番号を。

それはフリーダイヤルだった。このコールセンター業務も港区が私たちの税金を使ってどこかに委託しているのかな? そんなことを思いつつ、さっそく電話した。「ただいま電話が混み合っています」のコールが流れてきた。夕方まで何度か電話したが、ずっと同じコールのままだった。

当選ハガキが届く日である。ハガキが届かない「落選者」から電話が殺到しているのだろう…おっと、私もその一人だった!

乗りかけた船である。私は港区役所の代表電話にかけてみた。受付の人に「スマイル商品券の担当課につないでください」というと、産業振興課にあっさりつないでくれた。電話口の職員に「スマイル商品券に応募したのですが、私の当落を確認したいんです。そして、この商品券事業についても詳しく教えてほしいんです」と伝えると、担当者から折り返し電話させるという。

ほどなく担当者から電話がかかってきた。私は「スマイル商品券のコールセンターが昼間からずっとつながりません。私は応募したのですが、当選したのでしょうか」というと、彼は「当選した人だけにハガキが届きます。本日ハガキが届いていないということはおそらく…」と言う。

私は食い下がってみた。「そうは言っても、最近、届くべきものが届かないことがあるんです。アベノマスクもうちのマンションだけはなぜか届かなかったんですよ(これは本当の話)。だからコールセンターに念のため問い合わせたのですが、まったくつながりません。そちらでは私の当落はわかりますか」

残念ながらすぐにはわからないという。私はついでに聞いてみた。「このスマイル商品券には何人が応募して、何人が当選したのですか?」

彼の答えは「それもまだわからない」だった。ええっ! スマイル商品券事業を策定した港区の担当者が応募総数と当選者数も知らないうちに当選者が決まり、当選ハガキが発送されたのか? そんなこと、あるのだろうか。

私の質問は核心に移った。「今回のスマイル商品券にはいくら税金が使われていますか」。彼は今度はあっさり答えた。「15億円分の商品券のうち、プレミアム分は3.1億円です。それに加えて事務費が1.5億円です」。総額4.6億円を投じた事業ということだ。彼は予算管理をしているのだろう。区議会でも区執行部はこのくらい答弁しているのかもしれない。

さらに聞いた。「1.5億円はだれに支出しているのですか」。「港区商店街連合会です」。「連合会はその1.5億円をどう使ったのですか。どこかに事業を委託したのですか」「それは公表していません」「なぜ公表しないのですか」「個人情報だからです」「個人情報?税金を使った事業の委託先は個人情報ですか?」…押し問答が続いた。彼は電話を保留した。上司に相談しているに違いない。彼はほどなく帰ってきて、私にこう伝えたのだった。

「紙商品券はリクルートに委託しています。デジタル商品券はみずほ銀行です。商品券の印刷は区内の○○印刷に発注しています」

大企業の名前が飛び出して、私はちょっと驚いた。リクルートやみずほ銀行のような超有名企業が我が街・港区のスマイル商品券事業を受注しているのか。大企業はコロナ対策で予算が膨れ上がった自治体発注の事業に目をつけてしのぎを削っているのだろうか。

「で、リクルートとみずほ銀行はそれぞれ、港区商店街連合会からいくらで受注しているのでしょうか?」

彼は「それは非公開です。港区には港区商店街連合会の事業費の内訳を公開する権限がありません」とキッパリ言った。ちょっと待ってよ。それじゃ、この税金が適正に使われたのか、「中抜き」されていないのか、チェックできないじゃない!?

区の情報は本来、区民のものである。税金の使途も原則公開すべきである。非公開にする以上、その理由を合理的に説明する責任が区にはある。明確に説明できないようでは税金の使途について疑念を抱かれても仕方がない。税金を投じるスマイル商品券事業をリクルートとみずほ銀行に発注した金額が「個人情報」にあたるとはどうしても思えなかった。

港区商店街連合会に支出された1.5億円からリクルートとみずほ銀行にいくら支出されたのかを公開できない理由を明確に示してほしいーー。

私がそう伝えると、彼は上司と相談し、明日回答すると言った。

ふとしたことから浮かんだ自分の街の商品券事業への疑問。新聞記者時代は恥ずかしながら自分の街への関心が薄かった。これはよくなかった。せっかくの機会である。総額15億円の「港区スマイル商品券」について、徹底的に掘り下げてみよう。

私はそう決意し、翌日の電話を待つことにした。(つづく)

私は新聞社で政治報道に加え、調査報道に携わってきました。

マスコミの調査報道は通常、取材で「不正」を確認した事柄だけを記事にします。多くの取材データは日の目を見ないままお蔵入りとなります。そこには「不正」や「違法」に至らなくても「不公正」だったり「不条理」だったり世の中に問うべき「社会的問題」の断片が溢れています。ああ、もったいないーー常々、そう思ってきました。

自分の身の回りの疑問を徹底的に追いかけていくと、この社会の大きな矛盾や「隠された事実」にたどり着くことは少なくありません。今回はコロナ禍において大々的に実施される総額15億円の「港区スマイル商品券」でそれを実践してみます。

どこへ到着するのかわかりません。私が抱いた疑問点を読者にさらけ出し、この「調査報道」を同時進行的に紹介していきたいと思います。ちょっと実験的ですね。

これはシナリオなき「公開取材」です。新事実が何も出てこなかったらゴメンなさい。それでもきっと「不公正」で「不条理」な税金の使い方が浮かんでくるような予感がします。

日々の執筆活動の合間で取材を進めます。記事掲載は不定期になると思いますが、それもご容赦を。

次回は明日。港区産業振興課の返信から始まります。乞うご期待!


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