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こちらアイスランド(42)議会政治発祥の地の合言葉は「投票へ行こう」ではなく「投票日おめでとう!」〜小倉悠加

2021年9月25日(日)今後4年間の国民の代表を選出するアイスランドの総選挙が行われた。

今回の選挙は、アイスランド的には盛り上がらなかった。投票率も史上最低から二番目。それでも投票率は80%。民意を反映するに必要にして十分な数字だ。

どうすれば日本の投票率を上げることができるのか?

少しでもそのヒントになればと、今回の選挙は、選挙前夜の政見放送に関してを少しツイートしてみた。例えば以下のような感じ。そして、楽しいリアクションもいただいた。これとかこれとかこれ

恥を忍んで正直に書けば、私は政治に関心が薄いダメダメ底辺庶民だ。定職もない。政治を無視したつもりはないし、選挙にはできる限り足を運んでいた。けれど、落胆が続き、日本の政治にも選挙にも萎えてしまった。

政策は気になる。でも私ひとりではどうにも無力すぎるーーーそういう感じている有権者は少なくないことだろう。そんな私の心に、180度の方向転換を強いたのが。「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。」(左右社)だった。

著者の和田静香さんは、湯川れい子さんのかつてのアシスタントで、私は彼女の二代目前のアシスタントだ。彼女が対談を迫ったのは小川淳也衆議院議員で、鮫島さんの高校時代の同級生。なんちゅー突拍子もないご縁の連鎖!総人口36万人のアイスランドならまだしも、総人口1億人超の日本で、これは何かの運命かと、ジャジャジャジャーンとベートーベンが頭にこだました。

本の内容にはもっと驚いた。庶民と国会議員の対話。

それって下民と上級国民だよね?!話し合いにならなくね?!という先入観とは大違いで、両者ともに真正面から取り組んだ真剣勝負。鮫島さんの記事にもある通りの死闘だ。魂のぶつかり合いだった。

身につまされながら読んだ。庶民と議員が真摯に語り、解決策を模索するその姿勢に、心底打たれた。衝撃だった。泣いた。

個人的な感想はいろいろとあるけれど、たとえ落胆しかなくとも政治には関心を向けようと思った。期待するから落胆があるのだ。私は政治に期待している。そして何が私にできるのか?を考えた。

日本の投票率を上げたい。上げる一助になりたい。

私にできるのは、アイスランドではどうなのか?を伝えることだ。アイスランドを手放しで礼賛している訳ではない。けれど、学ぶべきヒントはあるだろう、と。

その手始めに、選挙前日の政見放送のことをツイートした。政策内容ではなく、ルッキズムで申し訳ないとは思いつつ、首相のワンピースや野党の女性党首のことを書いた。それが冒頭のツイートだ。

それを面白いと思った鮫島さんが、すかさず以下の記事を出してきた。これまたびっくり。さすが先鋭ジャーナリスト、温かそうな湯気がたつうちに料理して出してくる。

それにしても「お祭り」の「仮装行列」とは突拍子もない!

でもまぁ、核心はそういうことだ。日本では不謹慎と言われることも、所変わればで、アイスランドでは特に問題ではないし、選挙を盛り上げようという試行は歓迎される。小中学校や高校では、擬似投票も行われる。

ツイートにも書いたとおり、アイスランドの選挙日には「なんとなくいい雰囲気」「参加しなくちゃという空気」が漂う。本当にそうなんですよ、これが。

選挙前は各政党ともに「仕事帰りにビールで語り合いませんか?」と政党本部に人を集め、気軽に政治家と話ができる場を作る。ビールに加えて「ワッフルやコーヒーをご用意してお待ちしてます」という政党も。子供連れも大歓迎。上から目線での「演説」はない。あくまでも対等に話をすることが目的だ。

さて、ここで問題です。以下の3件のツイートに共通して出てくる言葉は?ちなみに最初のツイートはレイキャビク市長、二番目は作家(精神科医)、三番目は20代のサッカーファン。

正解は「Gleðilegan kjördag」。

そう言われてもなんのこっちゃですがぁ、これを日本語に訳すと「投票日、おめでとう」

「gleði = happy = おめでとう」で、「kjör=投票 dag=日」。gleðiの後に続く文字は、格の変化なので、意味はどれも同じ。

「gleði(グレイディ)」という言葉の響きを、以下の例で少しはわかってもらえるだろうか。

gleðilegt nýtt ár(新年おめでとう)
gleðileg jól(クリスマス、おめでとう)
gleðilega páska(イースター、おめでとう)
日本の「新年おめでとう」のニュアンスが投票日に入っていると思って間違いない。

「投票日、おめでとう!」

なんか投票行きたい気分にならない?なるよね!

「おめでとう」の言葉。「よかった」というニュアンスがある。おごそかな喜びを秘める。投票日はおごそかでありながら、喜びの華やぎがあり、誰もが祝うべき日なのだ。

私は適切な日本語の存在を無視して使うカタカナ英語や、「GO TO」などの横文字標語が大嫌いだ。選挙に関しては「GO VOTE 」ではなく、「投票日おめでとう」を強く推薦する。

改めて考えれば、投票は権利だ。それも権力者だけが社会を司るのではなく、個人個人、ひとりひとりの意見を汲み上げるために、先人が苦労して勝ち取ったシステムだ。特に女性の参政権は、日本では75年前にやっと実現した。

政治は、政策は、みんなで参加するものだ。この基本中の基本を、私は和田ちゃんの本で改めて認識した。政治を心から遠ざけてはいけない。自ら近づき、自ら動かそうと心がければ、必ず動くようにできている。それが投票という行為。

ちなみにアイスランドは議会政治発祥の地だ。地球の割れ目として有名なシングヴェトリル国立公園は、議会政治発祥の地として世界文化遺産に指定されている。現在、世界的に議会政治が広まり、私たちが投票の権利を持つのも、ぜ〜んぶアイスランドが先陣を切ったおかげだ、ありがとう!って持ち上げ過ぎ?


アイスランド総選挙、9月25日の投票日。投票所は夜の10時に閉められ(一部もっと早く閉まるところもある)、即日開票となる。

その結果、国会63議席中、33席を女性が、残りの30席が男性が選出され、ヨーロッパ初の女性議員が過半数を閉める議会の登場となった。これはアイスランド国民の多くが拍手を送ったと思う。そして、移民の子弟である21歳の女性が最年少で当選。これもとてもうれしいニュースだ。

アイスランド大統領のグズニもそのことを早々と、高々と世界に発信した。

なのに、なのに、6地区に分割されている選挙区のひとつ、北西地区の選挙管理員が、請求されてもいない再集計を行った結果、男女比が逆転。議会は男性33席、女性30席。そして最年少議員も落選。

どーも納得がいかない!と、各政党がレイキャビクを含む南部選挙区の再開票を請求。北西地区の再集計を行なった選挙管理委員には違法性が指摘され、落選した議員のひとりが警察に調査を要請。白紙だった票に政党が突然書かれていたり、存在しなかったはずの票が出てきたりーーーうわ〜、グシャグシャだぁ。残念ながらそういうのはどこの国も同じのようだ。

小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら

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