立憲民主党から番組制作費として1000万円以上の資金提供を受けていたとして津田大介氏ら出演者有志5人から抗議されていたインターネットメディア「Choose Life Project」(CLP)の佐治洋・共同代表が1月6日夜、経緯を説明する文書を公開した。
「Choose Life Projectのあり方に対する抗議」へのご説明
佐治氏はCLP立ち上げ当初にスポンサー探しをしている際、立憲民主党の福山哲郎幹事長(当時)と会って資金提供を受けることになったことを認めたうえで、そうした経緯を説明しないまま配信活動や寄付募集を行ってきたことは「視聴者や出演者の皆さまに対する裏切りであり、モラルを著しく欠いた」と陳謝した。この件の説明責任を果たした後、速やかに共同代表を辞任するとしている。CLPは解散を含めて今後のあり方を検討していくという。
私は津田氏らが5日に抗議文を公表したことを受け、『津田大介氏らCLP出演者有志からCLPへの抗議文を読み解く〜テレビ局や新聞社とどこが違うのか?』という記事を公開し、CLPに限らず、テレビ局や新聞社が政府や政党から事業を受注することで報道が歪んでいることへ警鐘を鳴らした。CLPの資金提供については詳細が不明な部分もあったため、佐治氏の見解を待って判断するとしていたが、佐治氏の経緯説明によると、CLPは立憲民主党から単に資金提供を受けたにとどまらず、立憲民主党の資金で誕生したというのが実態だ。もはや釈明の余地はなく、CLPの解散は免れないだろう。とても残念だ。
以下、佐治氏の経緯説明を紹介しつつ、どこに問題があったのかを考察したい。
佐治氏はテレビ制作会社で働きながら仲間とともにCLPを立ち上げ、2016年〜2019年は選挙時に投票を呼びかける動画を自費で制作していた。当初は「明確な理念をもてておらず、制作しているコンテンツの方向性や内容についても試行錯誤が続いていた」という。しだいに「手弁当で制作を続けていくことは困難な状況に陥った」という。
佐治氏は番組制作を継続していく資金を得るためスポンサーを探している時期に、立憲民主党の福山幹事長に「CLPの話をさせていただく機会」を得た。福山氏は「フェイクニュースやあまりに不公正な差別が横行する状況に対抗するための新しいメディアを作りたい」という佐治氏の理念に共感し、広告代理店や制作会社を通じて番組制作一般を支援することを決めたという。
CLPは2020年3月以降、クラウドファンディングで資金調達できるまでの間、立憲民主党から番組制作費として約1500万円(1動画あたり平均5万円・1番組あたり平均12万円程度)を受け取った。佐治氏は2020年3月にテレビ制作会社を退社した。
CLPは2020年7月に「公共メディアを作る」という理念をまとめて法人化し、クラウドファンディングを開始。2021年1月には市民が継続的にメディアを支えるサポーター制を導入した。この間、立憲民主党から立ち上げ当初の資金提供を受けた経緯は伏せてきた。
佐治氏は「本来ならば『公共メディア』を掲げるにあたり、この文書で書いたような制作の実態(筆者注:立憲民主党から番組制作費の提供を受けている実態)を明らかにし、公党の資金によらない『公共メディア』を立ち上げる旨を公表した上で、クラウドファンディングへのご支援をお願いすべきでした」と反省。「テレビや新聞などのマスメディアと異なり、ネットメディアについてそれほど厳密な放送倫理の規定が適用されるわけではなく、政党や企業や団体からの資金の提供についてマスメディアであれば抵触するであろう各種法令は適応外であろうという認識でいました」という。さらに「クラウドファンディングを行いサポーター制度の確立をしたことで、私たちの中では当初、この時点から、自立・独立した形でのメディア運営が開始されたという認識だった」としている。
佐治氏は以上の経緯を説明したうえで自分たちの認識はまったく間違っており、「過去の資金提供について出演者やサポーター、視聴者の皆さまにお伝えしてこなかったことはただの甘えで、視聴者や出演者の皆さまに対する裏切りであり、モラルを著しく欠いた態度であった」と総括している。
さて、佐治氏の経緯説明に対する私の見解を述べることにしよう。
結論からいうと、これは単に「CLPは立憲民主党から資金提供を受けていた」という問題ではない。「CLPの生みの親は立憲民主党だった」という方がピッタリくる。新法人を立ち上げるまでの最も苦しい時期を支えたのは立憲民主党の資金だった。立憲民主党の資金なくしてCLPは誕生しなかった。はじめから立憲マネーをあてにしてCLPを立ち上げたといっていい。
私はCLPが報道番組制作の運営が安定するまでの間、立憲民主党から報道番組とは別に広報動画などを受注し、運営資金の一部にあてていた可能性があると考えていた。それでも報道番組制作に公党の影響を受ける恐れがあり、好ましくないことではあるのだが、政府や公党から番組制作事業を受注したり広告を掲載したりして資金を得ることはテレビ局や新聞社(子会社を含む)も「経営と報道は別」という口実で実施しており、CLPだけを問題視するのはバランスを欠くと思っていた。
だが佐治氏の説明によると、CLPは広報動画制作などの対価として立憲民主党から資金を得ていたのではなく、運営資金そのものを支援してもらっていたのである。CLPは独り立ちするまで立憲民主党の「丸抱え」だったと言うほかない。立憲民主党の支援によってCLPは視聴者を増やし、クラウドファンデングで成功を収めることができたのだ。
佐治氏は「資金提供期間に特定政党を利するための番組作りはしていません」「立憲民主党からCLPや番組内容への要求・介入はありませんでした」としているが、立憲民主党の資金提供なくしてCLPが運営できない以上、CLPは立憲民主党に依存した「傘下の報道機関」というべき存在だった。佐治氏の主張は説得力を欠く。立憲民主党から資金提供が終了した後にいきなり「公共メディア」を名乗るのはご都合主義としか言いようがない。
佐治氏は「過去の資金提供についてお伝えしなかったこと」を陳謝している。だが、それ以上に問題なのは「立憲民主党の丸抱え」であることを伏せながら報道番組を制作し配信していたことだ。
佐治氏は「テレビや新聞などのマスメディアと異なり、ネットメディアについてそれほど厳密な放送倫理の規定が適用されるわけではなく、政党や企業や団体からの資金の提供についてマスメディアであれば抵触するであろう各種法令は適応外であろうという認識でいました」と語っている。率直な思いなのだろう。
だが、同じくネットメディアに身を置く立場としてこの言葉はとくに残念だった。たしかにネットメディアはテレビと違って放送法の制約を受けない。しかし「放送法に基づく放送倫理」と「ジャーナリストとしての報道倫理」は別物だ。テレビ新聞とネットメディアの間に「報道倫理」の差はない。
CLPの佐治氏が全面謝罪したことで、この問題の焦点は、立憲民主党の対応へ移るだろう。ネット上の報道機関であるCLPの立ち上げ支援に資金を投じた当時の福山幹事長の対応に問題はなかったのか。
福山氏は1月6日にコメントを発表し、「フェイクニュースに対抗するメディアの理念に共感したため、広告代理店と制作会社を通じて番組制作を支援した。自立できるまでの期間だけ番組制作を支援することとし、その後自立でき支援の必要がなくなったとして先方から申し出をうけ、支援は終了した。理念に共感して、自立までの間の番組制作一般を支援したもので、番組内容などについて関与したものでない」と経緯を説明した。
福山氏の見解にはいくつか問題点がある。①政党が特定の報道機関の立ち上げにあたり資金援助すること自体の是非②報道機関の立ち上げにあたり資金援助した事実を公表せず伏せていたことの是非③CLPに資金を直接提供せずに広告代理店と制作会社を経由した理由(CLPへの資金提供の事実を隠そうとしたのか?)④立憲民主党の資金提供が報道番組の内容に影響を与えた可能性ーーなどだ。
自民党によるネット世論工作が社会問題化し、立憲民主党も追及の動きをみせていただけに、泉健太代表以下の執行部は明確な説明責任を迫られることになる。支持率が伸び悩む立憲民主党は「新たな火種」を抱えたといえるだろう。