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国交省の世論操作に加担した朝日新聞「統計不正2000年以前から継続」の“大誤報”〜「書き換え」が不正ではない。安倍政権発足直後の2013年に始まった「二重計上」が不正なのだ

国土交通省がGDP算定のもとになる「建設工事受注動態統計」を不正に操作していた問題で、元検事や学者ら第三者による検証委員会が調査報告書を斉藤徹夫国交相に提出した。統計不正をスクープした朝日新聞はこの動きを『国交省の統計不正「2000年以前から継続」 検証委が報告書』というタイトルで報じた。

ええっ!

統計不正が始まったのは安倍政権が発足した直後の2013年だったんじゃなかったの?

アベノミクスの成果を強調するためにGDPの数字をかさ上げすることが目的じゃなかったの?

そう感じた読者も少なくないのではないか。統計不正が「2000年以前から継続」してきたのであれば、安倍政権ともアベノミクスとも直接的な関係はないことになる。アベノミクスの成果を強調するための「かさ上げ説」も否定されることになろう。

だけど、それって、ホント?

のちほど詳しく解説するが、これは朝日新聞が国交省の「世論操作」に乗って(乗せられて?)報じた記事である。自分たちのスクープの価値を国交省の「世論操作」に加担して減じる記事を発信しているのだから、呆れ返るほかない。

他のマスコミ各社もおおむね「2000年以前から継続」ということをメインに報じている。いわば横並び報道だ。

これは国土交通省記者クラブに所属する大手マスコミの経済部記者たちが国交省の官僚のブリーフをそのまま記事にした可能性が高い。いわば国交省記者クラブが丸ごと国交省の言うがままに世論を間違った方向へ誘導する「手先機関」と化しているのだ。

私は朝日新聞をはじめ報道各社がこの統計不正を「改竄」と表記せず「書き換え」と表記し、「不正」のイメージを減じる世論操作に加担しているとして、『自民党政権の「国交省統計の二重計上を生んだ推計方法変更は民主党政権時代に決まっていた」という印象操作に加担し、スクープの価値を自ら減じる朝日新聞の迷走』(2021年12月22日)などで強く抗議してきた。今回の報道はそれに続く大失態である。詳しく解説していこう。

まずは国交省が検証委の報告書を受けてホームページに発表した資料をみてみよう。国交省はこの「不適切な処理等の一覧」という資料をもとに記者クラブの記者たちに「説明」したとみられる。

この資料自体が非常に難解だ。わざと論点をぼかして責任追及をかわそうとする国交省の姿勢がありありである。記者クラブの経済部記者たちは国交省の説明を信じ込んでしまったのか、薄々おかしいと気づきながら忖度して垂れ流したのか、どちらかはわからない。前者とすれば記者としての著しい能力不足であり、後者とすれば記者倫理に反する行為だ。いずれにしろジャーナリスト失格というほかない。

いずれにせよ、本文はあえて難解に記述されているので、国交省資料の図をもとに、できるだけ簡潔に解説していく。(表は国交省ホームページより。赤字部分はSAMEJIMA TIMESが付記)

国交省はこの統計を作成するにあたり、全国から約1万2000社を抽出し、都道府県を通じて毎月の受注実績データを「調査票」のかたちで提出させている。だが、提出しなかったり、提出が遅れたりする業者は少なくない。そこで、これら業者の受注実績をどう推計するかという統計処理上の問題が発生する(これら業者の受注実績をゼロとすると実態とかけはなれてしまうからだ)。

上記表の①にある「過去月分を合算(調査票を書き換え)」は、期限を過ぎて提出してきた業者のデータについて、提出月の受注額に過去月分を合算した数値に調査票を書き換えるよう都道府県に指示してきたことを意味するのであろう。国交省はこの統計上の処理を「不適切な処理等」と認定し、それが「2000年(H12年)には始まっていた」と説明しているのである。マスコミ各社は国交省の説明を鵜呑みにして「統計不正 2000年以前から継続」と報じたのだ(統計不正をスクープした朝日新聞を含む)。

しかし、この①はほんとうに「統計不正」なのだろうか。今回の一連の問題で問われるべき「不正の核心」なのだろうか。

未提出や提出遅れの業者の受注実績を統計上どう処理すべきかについては、さまざまな学術的な考え方があるだろう。私は統計学の専門家ではないし、そこに深くは踏み込まないが、さまざまな推計方法の是非について多様な学説があるに違いない。

①の「過去月分を合算(調査票を書き換え)」という統計上の処理の仕方が適切か不適切かという学術的な判断は割れるのかもしれない。しかし、そうだとしても少なくとも長年続いてきたこの統計上の処理方法を「不正」とは言えないだろう。「過去月分を合算」するという統計上の処理の考え方に基づいて「調査票を書き換え」たという行為は、単なる「実務処理」であって、故意または過失により統計を歪めた「不正」ではない。

つまり、2000年以降継続されてきたのは「過去月分を合算」するという統計処理の仕方であり、「不正」が続いてきたわけではないのだ。朝日新聞の「統計不正 2000年以前からの継続」というタイトルは“大誤報”ではないかと私は思う。

その「大誤報」はなぜ生じたかというと、国交省が記者クラブに対して「過去月分を合算した調査票の書き換え」こそが「不適切な処理等」の中核であるとミスリードし、「不正の本丸」を隠す印象操作をしているからだろう。

では、国交省は何を隠そうとしているのか。

統計不正は、統計が不正に歪められたからこそ「不正」なのだ。ミスによって結果的に統計が歪んでしまったのなら「ずさん」「間違い」「誤り」として行政責任を問われるべき問題であるし、意図的に統計データを歪めたのであれば「改竄」「捏造」として厳しく処分されるべき問題となる。

その意味で今回の統計不正が発生したのは、安倍政権が発足した直後の2013年(H25年)、③の「二重計上」が始まった年なのだ。二重計上によって受注実績は不正にかさ上げされる形で歪められ、GDPも不正にかさ上げる形で歪められたのだから。

なぜ「二重計上」が発生したのか。国交省の説明では、2013年4月に①の「過去月分を合算(調査票を書き換え)」する統計上の処理方法を見直し、未提出業者について②の推計方法を導入したのだが、その際、なぜか①の「過去月分を合算(調査票を書き換え)」の統計上の処理も維持したのだ。

①と②が統計学上、どちらが「適切」な処理なのかは、ここでは重要な問題ではない。①と②を両方採用した結果、③の「二重計上」が発生した。それが重大な不正なのだ。この「二重計上」が発生したのが、安倍政権発足直後、アベノミクスが本格稼働した2013年だったのである。

②の推計方法を導入する以上、①の「過去月分を合算(調査票の書き換え)」は停止しなければならなかった。それを続けたのは、単なるミスか、それとも意図的なのか。ここが最大の問題だ。単なるミスなら「不適切」「ずさん」の類である。それはそれで国交省の行政能力の劣化を映し出す重大な失態であろう。

一方で、①と②を併存させたのが意図的であるならば、それは受注実績のかさ上げを狙った「改竄」「捏造」になる。この場合、不正の度合いはいっそう増し、その動機が厳しく問われるのは当然だ。

当時の安倍政権は、アベノミクスの成果を強調するためGDPの数値に神経質になっていた。国交省が安倍官邸の意向を忖度し、あるいは官邸側から命じられて、統計データを意図的に「二重計上」することによって改竄したのではないかーーここにこそ、今回の統計不正問題の核心がある(森友学園事件への安倍夫妻の関与を隠蔽するため財務省が公文書を改竄したのとまったく同じ構図である)。

元検事らの第三者委も記者クラブ加盟の報道各社も、本来、最も追及するべきはこの点にある。ところが第三者委の報告書も報道各社の記事もスルーしている。どちらも国交省の「お抱え組織」ということであろう。

国交省はあえて③の「二重計上」の不正から目を分散させるために、①〜⑥全体を「不適切な処理等」として争点を拡散させている。すべては不正の起点が「安倍政権発足直後の2013年」であることをぼやかすためだ。不正の動機が「アベノミクスの成果のかさ上げ」であることを覆い隠す狙いもあるかもしれない。

報道各社は2013年4月に始まった「二重計上」に照準を絞って不正を追及し、報道すべきである。①の「過去月分を合算(調査票を書き換え)」が2000年以降から続いていたことは、本筋からまったくかけ離れた「めくらまし」なのだ。

国交省が「改竄」という言葉を使うのを避け、「書き換え」という言葉を多用するのも、不正を矮小化させる狙いがあることに加え、①の「過去月分を合算(調査票を書き換え)」に世論の目を引き寄せ、③の「二重計上」から目を逸らす巧妙な(悪質な)印象操作であろう。それに歩調をあわせて「改竄」ではなく「書き換え」と報じ続ける報道各社は、今回の統計不正の核心が「二重計上」にあることに気づいていないのか、気づかぬフリをしているのか、まったくもって理解し難い。

本来は権力監視を旨とする報道機関はこのカラクリにいち早く気づき、その矛盾を追及すべきである。ところが国交省クラブ加盟の報道各社の経済部記者たちは国交省の言いなりだ。国交省の言い分を垂れ流すばかりだ。権力監視どころか権力の世論操作に加担しているのである。

これは記者たちの能力欠如によって国交省に信じ込まされた結果なのか、それとも権力側の意向を忖度して意図的に世論操作に加担しているのか。どちらにしろ、事態は深刻である。記者クラブ中心の取材にどっぷり浸かった報道各社のジャーナリズムは、今や修復不能なほどにまで壊れ切っている。

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