日本維新の会が統一地方選前半戦（都道府県と政令市）に圧勝したことで、後半戦と同時に４月２３日に投開票される衆参５補選（参院大分、衆院千葉５区、和歌山１区、山口２区、山口４区）でも「維新」が大きな焦点になってきた。維新旋風が止まらなければ、自民党内で野党第一党の立憲民主党よりも野党第二党の維新に対する警戒感が強まり、広島サミット後解散の機運がしぼむ可能性もある。
岸田首相は内閣支持率の回復を受け、衆参５補選で全勝（あるいは４勝）すれば５月の広島サミット後の衆院解散に踏み切るのではないか。一方で３勝以下にとどまった場合は、内閣支持率の回復で沈静化していた菅義偉前首相らによる「岸田降ろし」が再燃する可能性もあるーー永田町ではそう分析されてきた。
衆参５補選の結果は今後の政局を大きく左右するのは間違いなく、後半戦最大の見どころである。
この５補選を従来通り「与党第一党の自民党vs野党第一党の立憲民主党」の構図で分析した場合、自民全勝あるいは４勝１敗の可能性はかなり高いとみられてきた。
安倍晋三元首相の急逝に伴う衆院山口４区と、安倍氏の弟・岸信夫前防衛相の辞職に伴って長男信千世氏が出馬する衆院山口２区はいずれも保守地盤が強い。立憲は山口４区に旧統一教会問題を追及してきたジャーナリストで元参院議員の有田芳生氏、山口２区には法相経験者である平岡秀夫元衆院議員を擁立し、与野党一騎打ちの構図をつくったが、強固な保守地盤を崩すのは簡単ではないとみられている。
参院大分補選は、２０１９年参院選に野党共闘で当選した安達澄氏が大分県知事選に出馬するため辞職したことに伴うもの（安達氏は４月９日投開票の知事選で敗北）で、立憲は前参院議員の吉田忠智氏（元社民党党首）を擁立し、共産、社民、国民民主の支援も受けて自公擁立の新人と一騎打ちの構図をつくった。事前の情勢調査では吉田氏が一歩リードしており、５補選では野党が勝てる可能性が最も高いとみられ、立憲の泉健太代表も地元入りして最重視している。
しかし前半戦で行われた大分知事選では、立憲は自公が擁立した元大分市長と安達氏のいずれを推すかで意見が割れ、自主投票となった。この影響が参院補選に残る恐れもあり、今後の情勢は予断を許さない。
衆院千葉５区は自民現職が政治資金問題で辞職したことに伴うもので、本来なら野党有利の選挙戦となるはずだった。ところが立憲、維新、国民、共産がそれぞれ新人を擁立して譲らず、「共倒れ」に終わって自民新人の当選を許せば「野党共闘崩壊の象徴区」となりそうだ。
現職の知事転身に伴う衆院和歌山１区は、自民党の二階俊博元幹事長と世耕弘成参院幹事長の深い確執を受けて自民党内での公認争いが注目されてきた。最後は二階氏がさまざまな思惑から世耕氏が推す候補に譲った格好になったが、ここにきて維新が対抗馬として擁立する新人が勢いを増している。維新が大阪の東隣の奈良県知事選に続いて南隣の衆院和歌山１区補選で勝利することになれば、「維新拡張」のシンボルとなるだけに、一挙に注目を集めそうだ。
自民党は立憲民主党が相手なら衆参５補選は「楽勝ムード」に包まれていたが、統一地方選前半戦の維新躍進を目の当たりにし、立憲よりも維新を警戒する空気が強まってきた。
維新が千葉５区に擁立した新人は２８歳男性、和歌山１区に擁立した新人は４１歳女性。ともに知名度は高くないものの、維新躍進の勢いで支持を広げる可能性は否定できない。
自民党が衆参５補選を全勝あるいは４勝１敗で終えたとしても、維新が千葉５区や和歌山１区で得票を大きく伸ばして勢いを見せつければ、衆院解散に踏み切った場合に「維新旋風」が吹き荒れることへの警戒感が自民党内でさらに強まり、広島サミット後解散の機運がしぼむ可能性は十分にある。
維新の馬場伸幸代表が大阪府議会・市議会の過半数を獲得したことを受けて「公明党との関係は一度リセットさせていただく」と明言し、公明現職がいる大阪の衆院小選挙区に維新候補の擁立を見送ってきた協力関係を見直す姿勢を見せたことで、公明党内にも警戒感が急速に広がっており、これも解散先送り論を後押しする要因となりそうだ。
自公与党から警戒される対象としても、維新は立憲より大きな存在となっている。政治的影響力という観点でいえばもはや野党第一党の座を実質的に奪ったともいえるかもしれない。
自民党内の空気が「立憲が低迷している今こそ解散」から「維新に勢いがある今は解散先送り」へ大きく変化するのか、衆参５補選の大きな注目点である。
統一地方選前半戦の結果と今後の政局展望について、ユーチューブ動画をつくりました。
最後に明石市の泉房穂市長が率いる「明石市民の会」の統一地方選の戦いを紹介したうえ、泉房穂✖️鮫島浩『政治はケンカだ！明石市長の12年』（講談社）の予告編も公開しています。ぜひご覧ください。