簗和生農林水産相が、地元自治体の道路予算をめぐる自身の発言を撤回し、謝罪した。高市早苗首相は官邸を訪れた簗氏に「引き続き全力で仕事をせよ」と指示し、簗氏も辞任を否定している。ひとまず高市官邸は「続投」で決着させる構えである。
しかし、問題はこれで終わったわけではない。
むしろ重要なのは、簗氏が5日の会見で「私の意向で予算が左右できるかのような発言は極めて不適切だった」と謝罪する一方、「私が担当省庁に予算削減を働きかけたという事実はない」と明確に否定したことである。
ここには二つの論点がある。
一つは、簗氏の発言通り、実際に道路予算の削減を国土交通省に働きかけたのか。もう一つは、その働きかけによって行政の予算配分が歪められたのか、である。
この二つは分けて検証しなければならない。
毎日新聞の報道では、簗氏が選挙で応援した首長の自治体で道路予算が増額されていたことも判明した。簗氏は6日、「私から働きかけをしたことはない」と説明している。
国土交通省は、簗氏から地元自治体の予算配分について問い合わせを受けて回答したものの、予算削減の働きかけや圧力を受けた認識はないという調査内容を発表した。
しかし、これは国交省の「建前の説明」でしかない。普段から国交省には自民党議員から「問い合わせ」が殺到しており、それを「働きかけや圧力ではない」と整理して正当化しているだけだ。
この説明では、簗氏の疑惑はとても晴れない。
そして、ここで浮かび上がるのが高市政権の人事問題である。
簗氏は47歳、当選6回で今回が初入閣。高市首相が重用してきた議員の一人である。一方、旧安倍派など党内には、今回の人事をめぐる不満があるとの見方も出ている。
その象徴的な存在が萩生田光一幹事長代行である。萩生田氏は6日、「おごりであって決して許されるものではない」と簗氏の発言を厳しく批判し、説明責任を果たすよう求めた。
これは単なる簗氏個人への批判なのか。それとも、高市首相の人事に対する党内の異論が表面化したものなのか。ここは今後の政局を見るうえで重要なポイントである。
さらに見逃せないのが、国土交通省をめぐる政治力学だ。簗氏の問題を調査する井林国交相は麻生派に属する。今後、新たな調査結果がいつ出てきてもおかしくはないのだ。
つまり、簗氏の進退をめぐる材料を握るのは、必ずしも高市官邸だけではない。
高市首相は「続投」を指示した。しかし、今後の調査で新たな事実が出てくれば、その判断を維持できるとは限らない。逆に調査で問題が限定されれば、簗氏を続投させる根拠にもなる。
その意味で、簗氏の進退問題は「高市首相が守れるか」だけではなく、「誰が事実関係を握り、誰が最終判断するのか」という権力問題になっている。
臨時国会では野党の追及も強まる。国民民主党は行政の中立性・客観性が歪められた可能性を問題視し、中道改革連合や立憲民主党も高市首相の任命責任を追及する構えだ。
簗氏の謝罪によって、ひとつの危機対応は終わった。しかし、政治的にはむしろこれからである。
高市首相が簗氏を守り切れるのか。それとも、調査結果を前に進退判断を迫られるのか。そして、その判断をめぐって麻生太郎副総裁ら党内の力学がどう動くのか。
「謝罪・撤回」で幕を閉じるはずだった問題は、いまや高市政権の人事権と党内権力を映す鏡になりつつある。