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総額15億円「スマイル商品券」の謎〜港区のコロナ目玉政策を追え!【4】区議会議員を活用しよう

お待たせしました。東京都港区の総額15億円「スマイル商品券」の税金の使途を追う「公開取材」の4回目です。

これまでの3回でスマイル商品券の全体像と課題が浮かんできました。詳しくは過去3回の記事をご覧ください。

総額15億円「スマイル商品券」の謎〜港区のコロナ目玉政策を追え!【1】落選

総額15億円「スマイル商品券」の謎〜港区のコロナ目玉政策を追え!【2】コロナバブル

総額15億円「スマイル商品券」の謎〜港区のコロナ目玉政策を追え!【3】読者から届いた“新疑惑”

港区産業振興課の係長は前回までの私の電話取材に対し、「スマイル商品券」事業をめぐって税金は透明で公正に使われているのかという疑念を区民から受けたことを真摯に受け止め、どのように改善すれば疑念を招かないかを検討すると約束してくれた。これは一歩前進である。

私は今後の改善策について、港区としての正式見解を部長名で示してほしいと要請した。できれば部長に面会してお話をうかがいたいと申し入れた。

そのうえで、これまで電話で聞いた内容のもととなる資料を提供してほしいと要請した。税金を支出した以上、港区としてその適切さをチェックした内部文書は必ず存在する。その提供を求めたのである。

係長は当初、情報公開請求をすれば開示できると主張したが、それではお金も時間もかかる。私は「情報公開請求は行政と区民が対立した時の最後の手段。税金の使い方にやましいことがないのなら率先して文書を開示することができるはず」と主張した。

以上について係長は部内で検討し、2月16日までに回答すると約束した。そしてその日に連絡はあった。

部長への取材はお受けしたいが、ただいま区議会開催中で慌ただしく、時間調整したいとのこと。これは仕方がない。たしかに部長は区議会対応に追われる。一区民の私よりも選挙で有権者に支持を集めた区議会議員を優先するのは理にかなっている。だが、部長への取材は必ず実現してもらいたい。調査報道は粘り強く追及することが肝要だ。

もうひとつの論点「文書の開示」は応じてくれた。これは大きな前進である。

口頭の取材だけでは、嘘はつかれなくても不都合な部分を隠される恐れがある。できる限り行政文書を入手することが取材の鉄則だ。

事業予算を請求するために使った資料や決算を通すために使った資料の提出を求めるのがいい。公務員が業務中に作成した文書は原則として公文書である。それは区役所のものではない。区民の財産だ。堂々と提出を求めれば良い。拒否されたら「なぜ提供できないのか」を論理的に徹底追及する。役人は「保身」のためにも「論理」だけは整えようとすることはすでに触れた。役所取材は理屈で押すのが王道だ。

私は今回入手した文書を時間があるときに読み込んで、疑問点がないか精査したい。それに先立ち、この記事の末尾に入手した文書を公開するので、ご関心の方はつぶさにチェックしてほしい。新たな課題がみつかるかもしれない。

ひとりでも多くの人の目で税金の使い方をチェックするのは民主社会のあるべき姿である。衆人環視こそ、もっとも強力な不正防止なのだ。

ここまでの取材はすべて電話だった。取材相手はすべて区役所の職員だった。基本的な文書を入手し、事業の全体像や疑問点を理解するまでは、役人を相手にした電話取材でなんとかなる。過去3回では役所取材のコツを紹介したつもりだ。

2月24日、私ははじめて港区産業振興課を訪ね、これまで対応してくれた係長と名刺交換をした。とても紳士的でさわやかな方だった。いろいろお手数をおかけしました。ありがとうございます。引き続き部長との面会設定、お願いします!

同課の一角にある港区商店街連合会の事務局も覗いてきた(このスペースの家賃は区が免除していることはすでに触れた)。机がふたつ。事務局職員が一人座っていた。きょうのところは覗くだけにして、またいずれ。

さて、これからは別の作戦実行だ。電話ではちょっと難しい取材である。私は港区役所の隣の建物にある区議会に向かった。アポイントをとっていたのは、共産党港区議会議員の風見利男さんである。

風見さんとは初対面だ。港区役所の代表電話から共産党の区議会控室につないでもらい、電話口に出てきた方に港区民であることを伝えたうえで簡単に自己紹介し、「スマイル商品券」の税金の使い方が適正かを調べていること、すでにインターネットで記事を配信しているので目を通してほしいこと、できればお会いして「スマイル商品券」の追及に力を貸してほしいとお願いしたところ、数日後に折り返し連絡をいただいたのだ。

私は共産党員ではない。アンチ共産党ではないが、共産党支持者でもない。だが、土地勘のない地域にいきなり取材に入る時、まずは共産党の地方議員と会うことが多い。ひとつは地域の問題にまじめに取り組んでいる議員に当たる可能性が高いこと。もうひとつは、多くの地方自治体は「共産党をのぞくオール与党」で、行政を批判的にチェックしているのは共産党の議員だけというケースが多いからだ。

毎年1〜2億円で継続してきた港区の「スマイル商品券」の発行額が10倍に膨らんだのは、コロナ危機が訪れた2020年度からだ。2020年当初予算では発行額は例年通りだったが、港区は6月区議会に提出した補正予算で発行額を一気に10億円に増額したのである。

私が注目したのは、この2020年6月に港区長選挙があったことだ。武井雅昭区長はこの選挙で、自民党、国民民主党、公明党、社民党、都民ファーストの推薦を受け、5選を果たした。そして、この直後の区議会に提出した補正予算で「スマイル商品券」の発行額を10倍に増やしたのである。区長選挙で「スマイル商品券」事業は現職区長の商店街関係者に対する強力なアピールポイントになったのではないだろうか。ここから先は取材のターゲットを「区長の政治姿勢」に広げていこう。

この区長選挙で主要政党としては唯一の対立候補を擁立したのは共産党だった。武井区長を推薦した政党は「与党」である。共産党は唯一の「野党」といえる。与党より野党が区政追及に前向きなのは間違いない。港区も「共産を除くオール与党」である以上、まずは共産党の議員に会って「スマイル商品券」追及について協力できないかを探ることは有効な手段だ。

私は数回の電話取材を通じて係長を説得し、区役所から文書を入手したが、有力な区議会議員ならこのくらいの文書は電話一本で入手できる。私は朝日新聞政治部に着任する前の駆け出し時代に埼玉県庁を担当し、自民党の県議会議長に食い込んだが、たいがいの内部文書は彼を通して即座に入手できた。最初から区議会議員の力を借りて役所から文書入手を試みるのもひとつの方法である。その方がラクだ。

ただし、その場合は区議会議員の政治的思惑に利用されるリスクがある。まずは自分の力でできる限り情報を入手し、追及するテーマを自ら絞ったうえで、対等な立場で区議会議員と連携するほうが、調査報道の主体性を維持するうえでは望ましい。ここは大切なポイントだ。特に与党政治家から情報をもらう場合はどのようにして対等な立場を維持するかが新聞記者にとって死活的に重要である。ここで間違えると単なるゴマスリ記者に堕落する。

昔から取材現場では「役人は政治家に弱く、政治家は記者に弱く、記者は役人に弱い」と言われてきた。役人は政治家に嫌われて出世できないことを恐れ、政治家は記者に批判されて落選することを恐れ、記者は役人から情報をもらえずに特オチすることを恐れる。この三角関係を上手に使ってネタを取れと先輩に教わった。近年は政治家と役人と記者の関係は大きく変わったが、いずれにしろ、取材相手が何を望み、何を恐れているかを察することが情報を上手に入手する秘訣である。

区議会のロビーでお会いした風見さんは温和そうな方だった。すでに私が「スマイル商品券」を追う過去3回の記事に目を通してくれていた。そのうえで共産党としてもスマイル商品券をめぐる問題がないか調査したうえで、2月28日から区議会予算特別委員会ではじまる新年度予算案の審議で質問することを検討すると話してくれた。新年度予算案にもスマイル商品券を10億円分発行するための予算が計上されているのだ。

港区の部長が私に対して改善策を説明する場合、共産党の区議会の質問にもその改善策を示すだろう。区議会議員による区議会での質問と取材に基づく報道(SNSでの発信を含む)を連動しながら、区役所に情報開示や政策の改善を求めていくと、事態が動きやすい。

区議会は区民の代表である。区民は遠慮なく区議会議員に協力を求めればよい。区議会議員の最大の仕事は区政の監視である。税金がフェアに使われているのか、それを監視する場が区議会の予算審議だ。区民の行政監視に協力する責務が区議会議員にはある。そしていちばん協力してくれた区議会議員に次の選挙で投票すればいい。飛び抜けて協力してくれた区議会議員がいたら、その議員への投票を知り合いに呼びかけてあげたらいい。区議会議員選挙の投票に行かないのはもったいない。もっと区議会議員を活用すれば良いのである。(つづく)


港区が開示した2020年10月発行「スマイル商品券」事業の決済額

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