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時の権力に忠実な東京地検特捜部「安倍派狙い撃ち」の陰にキングメーカー麻生太郎氏の意向あり〜岸田辞任→総裁選の政局を見据えた「国策捜査」の可能性

自民党5派閥が政治資金パーティーの収入計4000万円を収支報告書に記載していなかったとして刑事告発されていた問題で、東京地検特捜部が最大派閥・安倍派を狙い撃ちして捜査を進めていることが判明した。

安倍派は不記載が5派閥の中で最も多く、立件を視野に捜査されるのは当然だ。

しかし特捜部は「正義の味方」ではない。「時の権力の味方」だ。

安倍派を狙い撃ちする背景には、内閣支持率が続落して来年の自民党総裁選で再選することが厳しい岸田政権から茂木政権への移行を目指すキングメーカー・麻生太郎副総裁の思惑がある。

🔸裏金は1億円超か

5派閥の不記載問題は、「しんぶん赤旗」のスクープを端緒に神戸学院大の上脇教授が告発し、東京地検がこれを受理してマスコミが一斉に報じ、社会問題となった。

各派閥は所属議員にパーティー券販売のノルマを課し、ノルマを超えた売り上げ分はキックバックすることが横行してきた。このキックバック分を収支報告書に記載していなければ「裏金」となり、政治資金規正法に抵触することになる。

刑事告発された不記載4000万円のうち、最も金額多かったのは安倍派の1900万円だった。特捜部のリークに基づくとみられるマスコミ各社の報道では、安倍派の裏金を含む収入と支出の不記載は直近5年間で総額1億円を超える可能性があるという。

塩谷立座長はキックバックの存在をいったん認めたが、5時間後に撤回する醜態をさらした。

国会では、安倍派の事務総長を務めた松野博一官房長官や西村康稔経産相が野党に追及され、「安倍派事件」の様相を強めている。

だが、特捜部が安倍派を狙い撃ちする理由は、それだけではない。

🔸総裁選へ安倍派牽制

内閣支持率が続落し、政権の後見人である麻生氏は来春の予算成立と国賓待遇の訪米を花道に岸田首相を電撃辞任させ、緊急の総裁選で茂木幹事長を担ぐ政権移行シナリオを描いている。麻生派(第2派閥)・茂木派(第3派閥)・岸田派(第4派閥)の主流派体制をなんとしても維持したい考えだ。

ライバルは、石破茂元幹事長や河野太郎デジタル担当相の擁立を検討している菅義偉前首相である。菅氏は無派閥ながら自らに近い30人程度のグループを束ね、二階派(第5派閥)や森山派(小グループ)と連携。派閥の数では主流派に及ばないものの、「次の首相」の人気トップ3を独占する石破氏、河野氏、小泉進次郎前環境相の3人を味方につけているのが強みだ。

5人衆(萩生田光一政調会長、西村経産相、松野官房長官、世耕弘成参院幹事長、高木毅国対委員長)の集団指導体制に入った最大派閥・安倍派をどちらが引き込めるかが勝敗を左右するといっていい。

菅氏は森喜朗元首相が寵愛する萩生田氏との連携を強めてきた。

麻生氏はこれに対抗し、世耕氏を取り込んだ。世耕氏は菅氏と連携する二階氏と地元・和歌山で長年の政敵関係にあり、麻生氏と組むのは自然な流れだ。

残る3人(西村、松野、高木3氏)をどちらが引き込むかが重要な局面である。

ここでポイントとなるが、安倍派の資金などを管理する事務総長の経験者がこの3氏であるということだ。国会で追及された西村・松野両氏は元事務総長、高木氏は現事務総長である。

特捜部の捜査はこの3氏への大きな牽制となろう。特捜部は「時の権力の味方」だ。岸田首相の求心力が低下する今、権勢を増しているのはキングメーカーの麻生氏である。3氏は麻生氏に刃向かいにくくなったのだ。

さらには菅氏と連携する萩生田氏も特捜部の動きに神経を使わざるを得ない。

この事件には「国策捜査」の匂いが漂うのだ。

🔸国策捜査と安倍派分裂

東京地検特捜部検察が東京五輪を捜査したのも、安倍政権で五輪誘致を主導した菅氏や、組織委員会会長だった森氏への強力な牽制だった。

検察はとくに菅氏の復権を警戒している。菅氏は安倍政権で官房長官を務めた時、検察の主流派に意向をはねのけ、黒川検事長を検事総長に押し立てようとして検察と対立した。最後は黒川氏がカケ麻雀問題で失脚して検察側の勝利に終わったが、双方の禍根は今なお解消されていない。

菅氏の復権を防ぐため、麻生氏に肩入れするのは、検察にもメリットがあるのだ。

不記載は安倍派だけではない。本来なら麻生派にも茂木派にも岸田派にもメスを入れなければならない。安倍派だけの立件を目指すのなら、国策捜査を色合いがますます濃くなる。総裁選で安倍派が麻生・茂木連合の支援を打ち出した途端、捜査は「撃ち方やめ」となる可能性もあろう。

国策捜査の行方とポスト岸田レースへの影響をしっかり見定めていかなくてはならない。


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