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岸田首相、半泣き記者会見に至る三つの誤算①岸田派にも裏金捜査②安倍派一掃人事の見送り③官房長官人事の固辞〜来春の予算成立と訪米を花道に退陣の流れが強まる

岸田文雄首相が臨時国会閉幕にあたって開いた記者会見は異様な雰囲気だった。自民党安倍派を直撃した裏金捜査で失った政治の信頼を回復する先頭に立つと強調しつつ、岸田首相の表情は神妙で、今にも泣き出しそうな場面もあり、いまから退陣表明するのではないかとさえ感じる様相だった。

来春の予算成立と訪米を花道に退陣する流れがますます強まってきたとみていい。岸田首相自身、その覚悟を固めつつあるように私には見えた。

岸田首相がここまで追い詰められたのは、ここ数日間で岸田首相にとって極めてショッキングな出来事が相次いだからだ。

ひとつめは、岸田派にも数千万円の裏金疑惑が浮上し、東京地検特捜部が捜査しているという報道が相次いだことだ。

岸田首相はこれまで岸田政権からの「安倍派一掃」を掲げてきたが、自らの足元にも裏金捜査が迫っていることが発覚し、「安倍派狙い撃ち」の正当性が揺らいだ。先手を打って自ら岸田派を離脱し、派閥会長も退任していたのだが、それは言い訳にはならない。

これまで菅義偉前首相らから「首相が派閥会長にとどまるのはおかしい」と批判されても「歴代首相でも派閥会長を続けた例はある」と反論し、岸田派会長の座にこだわってきた。裏金事件で派閥批判が高まった途端に派閥から逃げ出したという印象は免れない。

まさに安倍派への批判が岸田派にブーメランとして跳ね返ってきた格好で、岸田首相にとっては強烈な一撃となった。

岸田派は収支報告書への記載ミスとして訂正する方針だが、それなら安倍派も「ミスだった」と言い訳しかねない。いったいどこに違いがあるのか、岸田首相は年明けの通常国会でも防戦一方になろう。

次は意気揚々と掲げた「安倍派一掃」人事を断念したことだ。

岸田首相は安倍派の政務三役15人(閣僚4人、副大臣5人、政務官6人)を全員更迭する方針を党幹部に伝えて息巻いていた。安倍派を「悪者」扱いにして成敗し、岸田内閣の人気を回復して低迷する内閣支持率を引き上げる切り札にするつもりだったのだ。

これに対し、安倍派では「裏金をもらっていない議員まで更迭するのはおかしい」「岸田派はどうなっているのか」と激しく反発。党内全体にも慎重論が広がりった。さらには岸田派にも裏金疑惑が浮上したことで、安倍派一掃人事の見送りに追い込まれたのである。

首相が党幹部に伝えた人事をただちに撤回することになった影響は計り知れない。これから先、首相が何を表明したところで、「反発を受けて撤回されるかもしれない」となれば、誰も信じなくなる。岸田政権が受けだダメージは大きく、求心力を大幅に低下させることになった。

最後に、内閣の要である官房長官を浜田靖一防衛相に打診したものの、固辞されたことだ。

今回の人事については「今更、泥舟内閣に乗りたくない」として入閣を固辞される事態が相次ぐことが予測されていた。入閣すれば政治資金問題をマスコミに徹底的に調べられる。しかも岸田内閣は来春に退陣するとの見方も強まっている。たった数ヶ月の短命閣僚に終わる可能性が高いのに、政治資金を徹底的に洗われるリスクだけを背負うのは割が合わないということだ。

岸田首相としては、無派閥の浜田氏を内閣の要に起用し、自らも派閥を離脱して「無派閥」を旗印に自民党改革を進める構想を描いたのだろうが、浜田氏の固辞であっけなく崩れた。しかも浜田氏が固辞したニュースは瞬く間に流れ、「やっぱり…」という空気が永田町に流れた。人事の裏側がただちに表に出るほど、岸田首相の求心力は落ちているといっていい。

二人目にも固辞されると人事全体を断行できなくなる恐れがある。岸田首相はやむなく、身内である岸田派からナンバー2の林芳正氏を官房長官に起用することにした

しかし自民党内からは「岸田派にも裏金疑惑が発覚しているのに、岸田派から登用するのは身びいきではないか」と反発があがり、「岸田派以外に引き受けてがいないほど岸田首相の求心力は落ちている」と舐められることにもなった。

しかも岸田首相は9月の人事で林氏を外相を交代させ、派閥運営を任せたばかりだった。外相として存在感を高めていた林氏への警戒感を強めていたことも外相交代の理由だった。林氏に官房長官就任を求めたことで、岸田派内でも林氏の影響力が増大し、岸田首相の立場は弱くなる可能性もある。

永田町では「選挙は政権を強くする。人事は政権を弱くする」という格言がある。まさに今回の人事は「政権を弱くする」典型である。来春の予算成立と訪米を花道にした首相退陣の流れはますます強まった。

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