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泥沼・衆院東京15区補選の注目度をさらに押し上げた国民民主党の候補者取り下げ騒動〜ラウンジ勤務の過去、生活保護の不正受給疑惑、涙ながらの動画配信と削除…大混乱の背景は?

自民党が大逆風のなかで迎える4月28日投開票の衆院3補選のうち、東京15区(江東区)が大きな注目を浴びてきた。

小池百合子・東京都知事が国政復帰を目指して出馬するとの観測がじわりと浸透。自民党都連が候補者の公募をはじめようとしたところ、自民党本部は「待った」をかけたことで「自民・公明・小池(都民ファースト)」の連携の可能性も取り沙汰されている。

さらにここにきて、国民民主党が擁立を表明していた元フリーアナウンサーの高橋まり氏(27)の出馬をとりやめたことが思わぬ波紋を広げている。いったい何があったのか。

高橋氏は立教女学院小学校から大学進学を目指していたが、父親が経営する会社の倒産で退学し、生活保護を受給して奨学金で慶大を卒業してきたという経歴をアピールしてきた。学生時代には「ミス慶應コンテストファイナリスト」にも選ばれたという。自民党の裏金事件を受けて「政治とカネの問題に憤って出馬を決意」したとしていた。

その高橋氏は2月25日未明に突然X(旧ツイッター)へ「国民民主党から『立候補を断念しろ』と言われ、涙をのんで引き下がることにいたしました」「理由は、ラウンジで働いていた過去があるからです」と投稿。「生活保護を経験し、頑張って奨学金で慶應を卒業しましたが、多額の返済が残りました。1日でも早く返したいという気持ちが強く、一時期ラウンジで働きました」「それが悪いこととして立候補できないのであれあば、『底辺で頑張る女子は一生チャレンジすら許されない』のでしょうか」と”暴露”したのである。

さらにインスタグラムには涙ながらに「一時期生活保護を受け、お金に困っていた時期があります。その時期にラウンジという夜のお店で一生懸命働きました」「私のそのような過去や自身のセクシャリティ、生い立ちすべてを党にご相談した上、体調不良を理由に辞退しろと指示を受けました」と訴える動画を投稿。SNSでは国民民主党の対応を批判する声が広がる一方、「生活保護の不正受給に当たるのでは?」との疑問視する投稿も飛び交い、大炎上したのだ。
国民民主党の玉木雄一郎代表はただちに「国民民主党はラウンジ勤めのみを理由に立候補の断念を求めるようなことは決してありません」と投稿し、高橋氏に法令違反があった可能性を示し、詳しくは26日に記者会見して説明するとした。

玉木代表が示唆した「法令違反」は「生活保護の不正受給」と受け止められ、高橋氏への批判が高まった。一方で玉木代表が「ラウンジ勤めのみを理由に」と表記したことは「ラウンジ勤めが出馬取りやめの主要原因」と受け止められ、国民民主党への批判も広がったのである。

国民民主党は26日に記者会見し、高橋氏に法令違反の可能性があるために公認を取り消したとしたものの、法令違反の内容についてはプライバシーを理由に明らかにしなかった。高橋氏は一転して「政界を引退するためしばらくこのアカウントを休止する」と投稿し、政治関連のすべての投稿を削除した。

この問題をどう考えたらよいのか。

国民民主党が過去の職業を理由に出馬を断念したとしたら「差別」というほかない。これは玉木代表自身も認めるからこそ、高橋氏の主張を打ち消す投稿をただちに行ったのだろう。

だが、本音では「過去のラウンジ勤めが発覚したら選挙に勝てないばかりか、党としても批判を浴びる」ことを恐れて「生活保護の不正受給」を口実に出馬断念を迫ったとしたら、極めて不誠実な対応ということになる。玉木氏が当初の投稿に「ラウンジ勤めのみを理由に」と書き込んだことで、そうした疑念を惹起させる事態を自ら招いた。

この騒動で懸念されるのは「生活保護の不正受給」に焦点があたったことだ。自民党政権下で貧富の格差が拡大するなか、自民党は近年、「生活保護の不正受給」をあえて政治争点化し、「金持ち優遇政策」への批判をかわす世論工作を仕掛けてきた。生活保護の不正受給額は全体ではほんのわずかなのに、それをことさら取り上げ、世論の不満を振り向けようとしたのである。

国民民主党が高橋氏の出馬取り消しの理由として「生活保護の不正受給」を強調する場合、そうした流れに拍車をかけることになる。プライバシーを理由に法令違反の中身を明らかにしなかったのは、そうした事情もあるのかもしれない。

とはいえ、法令違反の理由を明らかにしない限り、国民民主党の公認決定や公認取り消しの判断が適切だったのか、外部から検証しようがない。政党への不信解消と公認予定候補のプライバシー保護を比較した場合、国民民主党は政党への不信解消を優先して法令違反の中身をできる限り説明する責任があるのではなかろうか。

高橋氏の側にも数々の疑念が残る。政治信念に基づいて出馬断念の経緯を暴露したのなら、生活保護の不正受給の批判を浴びた後、なぜただちに投稿を削除したのか。さらに「政界引退」をいとも簡単に表明するほどの決意で出馬を決意したのか。

何よりも政党の候補者として出馬を表明した以上、出馬を断念するのなら、SNSで一方的に表明するだけではなく、記者会見を開いて経緯をきちんと説明して質疑も受けるべきである。それを放棄して逃げ出すようにアカウントを休止するのは極めて不誠実な対応だ。

選挙制度にしろ、政党助成金制度にしろ、今の日本の政治制度は、政党に極めて優位につくられている。衆参選挙の比例区には政党しか参加できず、選挙区の選挙活動も政見放送をはじめ政党公認候補に認められていることが無所属候補には認められていない。巨額の税金を政党を支給する「政党助成金」制度は、政党本位の政治を実現するための中核政策といえるだろう。

これらはすべて「政党への信頼」を前提とした制度である。政党は国民に開かれており、説明責任を十分に果たし、ガバナンスがしっかり機能していることを大前提として制度設計されているのだ。

ところが、自民党の裏金問題で明らかになったのは、最大与党でさえ、政党のガバナンスはいい加減で、裏金づくりを阻止するどころか、発覚しても自浄作用が働かないという現実だった。

躍進する維新で所属議員のスキャンダルが相次ぐのも、全国各地で候補者擁立を急ぐあまり、候補者選定が甘くなっていることが原因と言えるだろう。旧NHK党を揺るがしたガーシー騒動や党首をめぐる混乱も、政党への信頼を大きく揺るがした。

私たちは本当に政党を信頼し、政党に有利な選挙制度を続け、政党に莫大な税金を与える政党助成金制度を維持していいのか。今回の国民民主党の騒動も、政党主体の政治のあり方を改めて見直す契機となるのではないか。

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