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総額15億円「スマイル商品券」の謎〜港区のコロナ目玉政策を追え!【3】読者から届いた“新疑惑”

東京都港区のコロナ目玉政策「スマイル商品券」。この連載は、そこへ投じられた税金の行方を追う取材を同時進行的にお伝えする試みです。まずは前回までのあらすじをどうぞ。

港区は区内の一部店舗で利用できるプレミアム率30%の「スマイル商品券」の発売を港区商店街連合会へ補助金(事務費)を出して任せてきた。コロナ前は1〜2億円程度だった年間発行額はコロナ後に桁違いに増大。2020年度は20億円、2021年度は25億円に膨れ上がった。

2021年度下半期の15億円分について港区産業振興課を取材すると、港区商店街連合会は港区から発行額の10%にあたる事務費1.5億円を補助金として受け取り、紙商品券の業務をリクルートへ、電子商品券の業務をみずほ銀行へ委託していたことがわかった。しかし、事務費1.5億円はどのように使われたのか。その内訳について港区は「個人情報」として公表を拒んだ。

一方、港区商店街連合会は港区役所3階に拠点を構え、家賃を免除されていることが判明。私は港区産業振興課の係長に対して「港区が家賃を免除するほど公共性の高い商店街連合会に対して支出した税金の使途を『個人情報』を理由に公表しないのはおかしい。港区と商店街連合会は癒着していると疑われても仕方がない」と迫り、事務費の使途開示を要請。係長は1週間後の2月7日までに回答すると約束したーー

そして 1週間がたち、約束の2月7日がやってきた。

連載初回、第2回を公開した後、たくさんの意見や情報がさまざまなルートでサメジマタイムスに寄せられた。全国各地の自治体で商品券をめぐる様々な問題が浮上していることがわかった。

この連載では「役所の壁」を突破する取材のノウハウを明かしていく。前回記事を読んだ読者からは「参考になった」「自分も試してみたい」とのコメントもいただいた。読者の皆さんもこの連載を参考にし、ジャーナリストになったつもりで役所に情報開示を迫り、それぞれの街の「商品券の謎」を解明していただきたい。「取材の自由」はマスコミの専売特許ではない。デジタル時代は誰もが取材し、誰もが発信できる「みんながジャーナリスト」の時代である。

私が特に注目したのは、スマイル商品券に過去4回応募したという港区在住の読者からの情報提供だった。要約して紹介したい。

家族や勤務先の社員ら60人分をまとめて紙商品券に応募しました。大半は港区役所で配布していたパンフレットに付いていたハガキで申し込みました。過去3回の当選率は7〜8割でした。ところが今回の15億円分では60件のうち当選したのはわずか6件だったのです(当選率は10%)。しかも当選した6件はすべてハガキではなくオンラインで申し込んだものでした。当初は紙商品券への応募が殺到して当選率が下がったとばかり思っていましたが、サメジマタイムスの記事で紙商品券の応募者が2万2279人、当選者が9003人(当選率は約40%)と知り、驚きました。ハガキでの申し込み分はデータ入力に手間がかかるので、抽選する際に最初から除外したのではないでしょうか。

データ入力に手間がかかるハガキでの申し込み分を除外して抽選したのではないかという疑念である。抽選は公正に行われたのかという不信感と言えよう。

たしかに全体の当選率は4割なのに、60人分をまとめて応募したこのケースは当選率が1割しかなく、しかもハガキで応募した人はすべて落選したというのは、確率論的に極めて低いことが起きている。この読者が疑念を抱くのも無理はない。

こうした不信感を招かないためにも、抽選の仕方を含め、事業の透明化は極めて重要だ。抽選は誰がどのような手法で行なっているのか、抽選以外に当選者が決まる「特別枠」(例えば「区長枠」「区議会議員枠」「商店街枠」など、いわゆる「お友達枠」)は本当にないのか。この事業が公正に実施されているという信頼を区民から取り付けることは絶対に必要である。

ところが、これまでの記事で示してきたとおり、この「スマイル商品券」は、港区が港区商店街連合会に事業を丸投げし、さらにリクルートやみずほ銀行に委託発注されている。しかも港区は港区商店街連合会に支出した補助金(発行額の8〜10%。今回の15億円分については1.5億円)がどのように使われたのか、リクルートやみずほ銀行にいくら支払われたのかという税金の使途について「個人情報」として公表を拒んでいるのだ。これでは疑念は深まるばかりである。

この読者からの情報提供にはもうひとつ、見逃せない指摘があった。要約しよう。

港区商店街連合会の加盟店が紙商品券を受け取り、裏面にスタンプを押して指定金融機関に持ち込めば、すぐに額面で資金化できることがわかりました。つまり加盟店が紙商品券を入手すれば、30%のプレミアム付きの額面でただちに換金できるのです。規約では一応、加盟店が自ら紙商品券を購入して換金することは禁止されていますが、実際には全く歯止めになっていません。これは抜け道です。

これはいよいよ怪しい話である。私は港区スマイル商品券のサイトを開き、実に目立たないところに「規約」という文字をみつけた。それをクリックすると、「発行事業規約」というページに飛んだ。なるほど、ここにはこのスマイル商品券事業のルールが書いてある。一般の区民がこのページにたどりつくのはなかなか難しいだろう。

規約第9条には加盟店の「責務」が列挙されている。「紙商品券を現金化し、又は自らの事業上の取引(商品仕入等)に利用しないこと」や「紙商品券を譲渡し、転売し、又は再利用しないこと」などだ。そして最後にこう明記されている。

万が一にも自ら紙商品券を購入して自らの店舗で利用されたかのように偽り換金する行為その他の不正行為をしないことについて同意するものとし、紙商品券の利用について区振連が証憑類等を提出することを求めた場合には、直ちにこれに応じるものとする。(注:「区振連」とは港区商店街振興組合連合会。港区商店街連合会のなかで法人格を持つ組合の集まり)

行政の「規約」には難解な文字が並んでいる。そこは辛抱して、じっくり読み、頭を整理するしかない。この規約でまず最初に理解すべきことは「加盟店も商品券を購入できる」ということだ。ただし、加盟店が事業上の取引に使ったり、譲歩・転売したり、さらには自分の店で別の客が利用したかのように偽って換金したりする「不正行為」を禁じているのである。

では、そのような「不正行為」は誰がどのようにチェックしているのだろう。私に情報提供した読者は「(規約は)実際には全く歯止めになっていない」と言っている。たしかに加盟店が従業員を総動員して大量に商品券を購入し、自らの店舗で利用されたかのように偽ったり、あるいは別の加盟店が購入した商品券と丸ごと交換したりしてただちに換金した場合、労せずしてプレミアム率30%の「利得」を手に入れることができる。これは規約の「不正行為」に該当するが、実際に見抜くことができるのだろうか。

そもそもスマイル商品券は、商品券を購入する区民や区在勤者を支援することではなく、商品券を扱う地元商店街を支援することを目的とした政策である(だからこそ購入者は誰でもよく、希望者から抽選で選ぶのだ)。「受益者」は港区商店街連合会の加盟店なのだ。

港区が「受益者」たる商店街連合会へ補助金を支出し、応募から抽選・当選者への通知までの業務を丸投げして、はたして事業が公正に実施され、税金が適正に使われたという信頼を区民から得ることができるのか。やはり事業の運営は外部の目で監視されなければならないはずだ。

港区に以上の疑問についてぶつけなければならない。私は電話を待った。港区産業振興課の係長から電話がかかってきたのは2月7日午後3時。この1週間前に約束した通りの時間だった。この国の役人は几帳面である。

係長はこの一週間、区役所内でどう対応するのか協議を重ねてきたという。私が「今日の回答はどのあたりまで了解した内容ですか。課長ですか?部長ですか?」と尋ねると、「部長です」と教えてくれた。

役所取材で最も重要なことは「誰の責任で決めたのか」を常に明確にすることだ。役人はつねに主語をぼやかし、責任の所在をあいまいにしたがる。「区としての判断です」と言われても、「区長が決裁したのですか? 部長ですか?課長ですか?」と尋ね、最終決定者の個人名を確認しておくことが絶対に必要だ。上司の意向を忖度して何とか誤魔化そうとする役人は少なくない。この係長はそうではなかった。好感が持てる。

役人はウソや隠し事がバレて問題が大きくなった時に上司から「トカゲの尻尾」として切られることが怖い。だから自分自身に責任があることを明確にされてしまったら、よほど腹をくくらない限り、ウソはつかない。財務省の公文書改竄は「組織ぐるみ」だからこそ出来た。官僚個人が全責任を背負ってあれほどの不正行為をすることはふつうはありえない。

自分の権限で判断できなければ、役人は上司に判断を仰ぐ。「責任の所在」を上にあげていくのである。ウソや隠し事を許さない姿勢を明確に示し、係長→課長→部長というように判断者の「格上げ」を迫るのが取材の秘訣だ。それは末端の役人の身を守ることにもなる。最終的に区長が政治家として判断するところまで追い込めば大成功だ。

話がそれた。係長の説明に戻ろう。彼は1週間前に「個人情報」として公表を拒んだ事務費の内訳をあっけなく語り始めたのである。

「すでに決算を終えた2020年10月の10億円分について説明しますね。この時の事務費は7000万円でした。これを港区商店街連合会に補助金として支出しています。商店街連合会はこのなかからリクルートに4000万円を支払い、事業全体の進行管理やホームページの作成、コールセンターの設置、商品券を引き渡す郵便局への業務発注などを委託しました。このほか商品券の回収や集計などの業務を○○証券に2600万円で発注、事業を広報するチラシやポスターなどの印刷を◯◯印刷に340万円で発注、その他新聞折り込み広告などに100万円弱。以上が7000万円の内訳です」

これは一歩前進である。「個人情報」として公表を拒んだ前回は何だったのかという疑念は募るものの、そこを蒸し返すのはやめよう。少なくともスマイル商品券事業について事務費のおおまかな内訳を公表するのは「前例」となった。ひとつ壁は超えた。

でもこれで満足してはいけない。この内訳がほんとうに正しいのか。この金額が本当に適正なのか。これだけではまだまだ情報が足りない。ひとつ情報を得たら次の情報を迫る。芋づる式に情報開示に追い込んでいく。それが大事だ。

「◯◯係長、ありがとうございます。一歩前進ですね。せっかくなので、この内訳を記した決算報告書などの文書が港区にはあるはずです。この文書をいただけませんか。区民に対して隠す理由はないでしょう」

「いや、それは私の一存では…」

「ええ、部長の判断を仰いでいただければよいです。私が決算関連の文書一式を情報公開請求してもいいんです。でも情報公開請求というのは行政と区民が対立した時の最後の手段なんですよ。お金もかかるし時間もかかる。区民にとっては負担が重いです。皆さんも情報公開条例に基づいて処理するとなると業務の負担が重いでしょう。スマイル商品券に何もやましいところがないのなら、情報公開請求を経ずに、率先して文書を開示できますよね? そうしませんか? 部長がどうしても嫌だというのなら、こちらも覚悟を決めて、大量の情報公開請求を含め、あらゆる手を尽くして徹底的に戦うしかないですが」

「商店街連合会の意向を聞いてみます」

「いえ、決めるのは商店街連合会ではありません。区役所です。今回のケースでは部長ですね。部長の意向を確認してください」

これは係長の判断を超えている。次回の宿題となった。つづいて抽選の公正さに対する疑念である。係長はまたしても前回より詳細な説明をはじめたのだった。

「抽選について前回しっかりと説明できていませんでした。今回の発行額15億円分のうち、電子商品券が10億円分、紙商品券が5億円分なのですが、紙商品券への応募が殺到して大量の落選者が発生したのに対し、電子商品券は余りがでまして…。実は電子商品券は1万2355人が申し込んだのですが、これは予定枠を下回っており、全員が当選しました」

なんと! 電子商品券は全員当選だったのか! 「電子商品券の当選者数は何人と見積もっていたのですか?」との問いに係長は「1万5800人です。紙商品券に落選した人々に連絡し、電子商品券が余っているのでどうですかと声をかけることを検討しています…」

前回の係長の説明によると、紙商品券は応募者が2万2279人で当選者が9003人(当選率40%)だが、電子商品券は応募者と当選者をまだ確認していないということだった。今回から始めた電子商品券への応募が予定より大幅に下回り、予算枠が余ってしまったことを、公表したくなかったのだろう。港区役所内では「余った電子商品券の枠」をどう処理するかでてんやわんやだったのではないか。

このように「不都合な事実」があるときに役所はたいがい「確認していません」と誤魔化す。このワードが出た時は要注意だ。そこには何か「不都合な事実」が眠っている。

「もうひとつお伝えしなければならないことがあります。前回、担当者は『抽選に区が立ち会った』と申しましたが、実際は立ち会っていませんでした。当選者のリストはリクルートと港区商店街連合会が作っています」

ーー港区は抽選には関与していないということですね。では、当選者の最終決定に責任を持っているのは誰ですか?

「港区商店街連合会です」

ーーということは、港区商店街連合会は、自分たちも商品券に応募して購入できる一方、自ら当選者を決めているということになりますよね。そしてその当選者が公正に決定されたことを港区はチェックしていないんですよね?

「はい。しかし、公正に抽選されたものと確信しています」

ーーどうしてそう断言できるのですか?

「モラルをもってやっていると思っています」

ーーもうひとつあります。なぜ紙商品券に応募が偏ったのか。紙商品券のほうが「譲渡や転売」がしやすいからではないですか? 自分の店で使ったように偽って換金する「不正行為」は本当にないのでしょうか? 港区は自らチェックしているのですか?

「いえ、港区はチェックしていません」

ーーチェックするのは誰の責任ですか?

「港区商店街連合会です」

ーー商店街連合会は回収した商品券の通し番号などを確認し、適正に使用されたかというようなチェックはしているのですか?

「そこまではしていないと思います。しかしそのような不正行為は絶対ないと思っています」

ーーでも、実際に不信感を抱いている区民がいます。不正行為がないことを証明できないですよね。

「疑わしいという指摘をいただいたことについては反省しています。もしそのような実例があれば教えていただきたい。ご指摘を踏まえ、どうすれば疑念を招かないか、今後はどのようなやり方がいいのか、港区として検討しているところです」

役所が「違法」や「不正」を認めることはよほどの事態である。そのなかで少なくともこの係長の言葉のように「見直し」を認めるのは一歩前進だ。もちろん「見直し」ただけで何も変わらないことも少なくない。ここは念押ししておく必要がある。

ーー私は区役所から補助金を得てスマイル商品券の事業を丸投げされている港区商店街連合会の加盟店が商品券を購入し、自分の店で利用されたかのように偽って簡単に換金できる仕組みそのものが区民の疑念を招いていると思います。そしてそれをチェックする仕組みがないことも疑念を膨らませている一因だと思います。さらには港区商店街連合会が区役所内の事務所をタダで使用していることも「癒着」の疑いを招いていると思います。これらについて、港区として「まったく問題はない」と考えるのか、何かしら「問題点」や「不適切な部分」があると判断して改善するのか、明確に回答してください。

係長は「そうですね、電子商品券になれば追跡しやすくなりますよね」と言った。係長も紙商品券の「不透明さ」をうすうす感じているのかもしれなかった。その改善策として電子商品券化をさらに進めることを検討しているのだろうか。

係長は私の質問について部内で検討し、2月16日に回答することを約束した。(つづく)

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