政治を斬る!

こちらアイスランド(229)『海の女』の歴史がつづるアイスランド社会のもう一つの姿〜小倉悠加

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40日間の出張を経て自宅に戻って一週間ほどが経過した。天気がそれほどよくないこともあり、まだどこにも出かけていない。それでも帰宅後間も無く、とてもきれいな虹が自宅のバルコニーの前に広がっていたので、まずはそのお裾分けを。

自宅はきれに掃除されていた。気持ちよく戻ることができた。気遣ってくれた彼に感謝。だけど、日本から持ってきた日めくりカレンダーが長い間めくられていないままだった。

「日めくり、めくるの忘れちゃった?」と尋ねると、

「君の誕生日をお祝いしてないから、誕生日前の日のままにしてある」と。

お〜、そんな意味があったのか。私の両親はあまり誕生日を派手に祝う人ではなく、特に子供の頃は祝ってもらった覚えがなく、私自身は誕生日を祝ってもらう必要はない。ひとこと「誕生日おめでとう」と言ってもらえれば十分だ。けれど、西洋人の彼にとっては誕生日は大切に扱うべき日で、そう軽々とはすっ飛ばせない。

その心遣いはありがたくいただくことにした。間もなくどこか夕食に連れて行ってくれるそうだ。

というのが近況報告。

これだけではせっかくこのサイトまで読みにきてくださった読者に申し訳ないので、家を留守にしていた間、出先で読んだ本をご紹介したい。

「アイスランド 海の女の人類学」

アイスランド関係の内容であるため、日本滞在中に仕入れておいた本だ。頭が軽い私には学術本だと厄介かもと少し構えた。おせんべいは硬い方が好きでも、本はやわらかい内容でないと寝てしまう。ところが、これが意外にも大変に興味深く読み進むことができた。

これはアイスランド人に聞き取り調査を行ったエスノグラフィーだった。

おっと、「エスノグラフィー」という使ったこともない横文字言葉を書いてしまった。私は日本人に広く浸透しているカタカナ英語以外は使いたくない派なのだ。

エスノグラフィーとルポルタージュは紙一重だ。それなら「ルポ」って言葉でいいじゃん、と実は思う。なぜアカデミーはカタカナ横文字言葉を使いたがるのだろう?

ん?だから「人類学」にしたのか。それなら素晴らしい。

原題は『Seawomen of Iceland: Survival on the Edge』で、訳せば「アイスランドの海女たち:崖っぷちで生き残る」のような感じだろうか。

確かに原題を日本語にしただけではアカデミー感は出ないし、どのような話なのかわかりにくい。というような諸々を考慮すると、「人類学」と題したことは素晴らしく適切だったと思う。

要は1700年代後半から1800年代半ばに大変に活躍した女性の船長がいた。そんな彼女の存在を知った人類学者の著者が調査に乗り出し、各地で「海の女(=船員)」がどれほど存在したのかを丁寧に人を訪ねて炙り出していった。そこから見えてきたことはーーー。

植民地時代のアイスランド社会の底辺を支え、自由に身動きできなかった女性たちが、船員として航海に出ることにより、経済力と自由を見出していった。これにはいろいろな見解があろうかと思うけど、これをアイスランドの男女平等のルーツと見ることもできるかと思う。いや、これほど男女平等の世界が1700年代から生まれていたことに驚きを覚える。

また、ここに登場する人物の逸話もアイスランド女性の力強さと粘り強さの根源を垣間見ることができる。

どの地域に女性が海で活躍していたかの地図を見ると、なるほどと地理的に頷けることも多い。地方のコミュニティで催される小さな歴史展示会に出会したことが何度かあり、そんな時によく見るのがモノクロの小さな漁船の写真だった。そこに女性が乗っていることは気づいていて、たぶん魚を岸に降ろす手伝いをしていたのだろう、魚を処理する前の手伝いであろうと勝手に想像していた。

この本を読むと彼女たちが正式な船員として雇われ、時には船長が女性だったこともあった、と。幼い頃から父親と漁船に乗り、海の女になると志してそうなった人も少なくないようで、意外な物語が数多く展開されていった。

正式な船員であれば、男女の賃金差はゼロ。腕さえよければ男性以上の稼ぎを上げることができた。船長になる女性もいて、地域の人々(男女を問わず)から大変尊敬される存在であったことも。

アイスランドに関わり今年で25年が経過しようとしている。アイスランドに住居を移して10年だ。海の女の話はアイスランド国内でも声高に語られることがない。

アイスランドに住んでいるという個人的な事情もあり、大変に興味深く楽しく読み進めた。人類学というアカデミーなタイトルに惑わされず、アイスランドの括りで入手してきて本当によかったと思えた。読書がこれほど確かったのも久々で、勢いづいて次の積読本に手をだそうとしている。

小倉悠加(おぐらゆうか)
東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド在住。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。高校生の時から音楽業界に身を置き、音楽サイト制作を縁に2003年からアイスランドに関わる。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、社会の自由な空気に魅了され、子育て後に拠点を移す。休日は夫との秘境ドライブが楽しみ。愛車はジムニー。趣味は音楽(ピアノ)、食べ歩き、編み物。