政治を斬る!

オーストラリアから日本を思って(68)世界の政局~少数派が多数派に立ち向かい倒せるのか?~今滝美紀

世界は、「帝国主義」で支配地を拡大し世界覇権を強化しようとする「米・西側諸国」対 “支配される事”に抗う「抵抗の枢軸」の闘いが、激しさを増しているようです。お互いを“悪”“テロリスト”と呼び合っています。日本を含む東南アジア・オセアニアで進む軍事化もその一環ではないでしょうか。            

米国のトランプ大統領もルビオ国務長官も、この中東での戦争前に、覇権を拡大してきたことを誇りに思い、強化する意向を公に述べています。日本の政府・政権メンバーもその場に参加していました。(第64回

ですから、どの国もその渦中にあり、日本の政治・メディアの動きは、自己利益に合うように、日本が付いている米・欧州・西側、または中国の動きに大きく影響を受けていると言えるでしょう。

豪州では日本と同じように中国やロシアを脅威として捉えられていますが、日本以上に、イランへの敵対は、露わにされているようです。

言動が二転三転するトランプ大統領は、支持率を大幅に落とし、米国では「抵抗の枢軸」と見られるパレスチナの人々を支持する人々が増えているという世論調査が出ているようです。

一方で、米・西側諸国の政権から“悪”と見られる、イランの前最高指導者ハメネイ師の7月4~9日の葬儀には、猛暑にも関わらず、広場や長い大通りを参列者が埋め尽くし、4千万人以上の参加があったと報告されてました。100ヵ国以上の要人もイランへ渡航し、ハメネイ師を追悼し、「世界最大級の葬儀だ」とも言われました。彼は約40年間国を導いてきました。

そのような、リーダーは、見たことがありません。

Xからは、私たち西側では見られない、溢れんばかりの人々が、ハメネイ師を追悼する光景が流されていました(こちら)。この違いは、何だろう?と思うようになりました。

イランのことをほとんど知りませんでしたが、この戦争がきっかけで、その様子にふれることになりました。

1953年の西側からの民主的に選ばれたリーダーの転覆、1980~1988年のイラクからの戦争(親米のスニン派サダム・フセイン大統領時)、何十年もの経済制裁を耐え、屈することなく国が造られてきたことを垣間見ました。科学技術が進んでいること、モダンな設備の街の様子を知りました。

豪州ABC(NHK相当)は、ハメネイ師hを次のように説明していました。

「彼はイスラエルとアメリカの影響力に対抗することを目的とした軍事連合『抵抗の枢軸』を創設し、西側の『帝国主義』に憤慨する多くの人々にとって英雄となった」

イラン人のインタビュー「彼(アリー・ハメネイ師)は私たち全員にとって模範となる人物でした。そして私たちは彼の道を歩み続けます」

「アメリカとイスラエルは、自分たちが私たちに何をしたのか理解していない。彼らは私たちをより強くしたのだ。彼らはイランがどんな国なのか、自分たちが誰を相手にしているのかを理解していない」

「彼らは、我々の指導者を殺せば、世界の自由の声は封じ込められると考えた。しかし、この(イスラム)革命がグローバル化したばかりだということを、彼らは理解していない」

もちろん、ハメネイ師やその政治体制に批判的な声も挙げられていました。(こちら参照

イランには国軍とは別に、最高指導者直属の組織IRGC(イスラム革命防衛隊)があります。国軍が反旗を翻しても体制を守るためにつくられたとされます。巨大な経済利権・政治・情報局も組織され、イランの人々の暮らしに浸透した最重要組織です。その傘下に、志願制民兵「バシジ」(Basij)も組織され地域に根付いているようです。

IRGCは米国・豪州等主な西側諸国は、テロ組織に認定しています。日本はテロ組織に認定していませんが、イランへの制裁には参加しています。

人々が厳しく取り締まられるのは、外国からの多くの工作員が乱入するため、治安や内乱罪を防ぎ、主権を維持するためのものだと見えます。

主権を外国に渡すためか、または、主権を守るためか、どちらのためのスパイ防止かで、見え方が違ってきました。

イデオロギーの対決

私は宗教的ではありませんが、共感できる考え方は、あります。

イランの政局は、日本のように、主に自己利益によって動くものとは、違うメカニズムが働いているようです。

豪州SBSは次のように報道しました。

「イラン当局は、ハメネイ師の埋葬と葬儀に参列した大勢の人々を、1979年のイスラム革命から半世紀近く経った今もなお、(イスラム教シーア派)神権政治国家の人気と、その根強いイデオロギー的熱意の証拠として提示している」 

イランの人々からは、「私たちはイマーム・フセインの子孫だ」という声にふれます。

歴史的なイスラム教のシーア派とスンニ派の分裂・対立が今も続き、利用されているようにも見えます。イスラム教を世界的に人口を見ると、スニン派が90%前後、シーア派が10%前後で圧倒的に少数派です。

中東やアジアでもほとんどが、スニン派が主流で、親米派の国々です。

一方、シーア派が主流の国は、イラン・イラク・イエメン・バーレーンです。

イスラム教で“イマーム”とは「導く人」という意味だそうですが、スニン派では、人々の合意や選挙で選ばれます。

シーア派では、預言者ムハンマドの血を引く特別な指導者を“イマーム”と呼びます。このイマームは神から特別な恩恵を受け、宗教的にも政治的にも絶対的な権威を持つ。「カリスマ的指導者」とみなされるそうです。

シーア派は、日本の天皇が血族で続いてきたことと共通していると感じました。一方で、今回の皇室典範法改正は、政治的に、遠縁から、主に外部により選ばれることになり、スニン派的に変わってきているように思いました。

余談ですが、日本の皇室からは、イランを心配する声や平和を訴える声がきこえます。これは、西側諸国や日本政権とは、反するもののようです。トランプ大統領は先日、日本を、イスラム共和国日本(the Islamic Republic of Japan)と呼び話題となっていました。共和国とは天皇や王を置かない国を意味します。間違えるとは思えませんが、何を意味するのでしょうか?読み過ぎでしょうか?(こちらその様子

ウクライナの攻撃やNATO(米国と欧州の軍事組織)を支持するような発言を異例に行ったチャールス国王の英国皇室には、収入がありますが、公費から3年前の2倍近く9990万ポンド(約220億円)に予算が上がったことに、驚きが湧いていました。日本の皇室は、その約半分の費用が費やされているようです。

また、7月にアメリカの建国250年が祝われました。日本でも、トランプ大統領と高市首相を模したようなドローンショーが披露され、海外で話題になっていした。

政治経済学者ノートンさんの次のような投稿を見つけました。

「まさに属国の典型例だ。アメリカは日本に二度も原爆を投下し、今もなお76もの軍事基地を日本に維持し、5万4千人の米兵を駐留させている。恥知らずにも、かつての宗主国の独立記念日を祝っている。しかも、実に屈辱的だ」(こちらそのX投稿

何とも言えない気持ちになりました。

時空を超えたシーア派の人々の伝説と生き方

イマーム・フセインは、権力による腐敗や不当な支配に屈せず、正しい信仰と正義を貫いて命を捧げた「究極の殉教者」であるため、シーア派の最大の英雄とされているようです。

伝説のカルバラーの戦い

歴史の広大​​な広がりの中で、特定の出来事は時間的な境界を超越し、不正や退廃に対する永遠の抵抗の象徴となっています。その歴史を快く思わない、消し去りたい勢力もいるかもしれません。

オーウエル(Orwell)小説「1984」で「過去を支配する者は未来を支配し、現在を支配する者は過去を支配する」という言葉を残しています。どの出来事が取り上げられ、何が取り上げられないのか…。

私は、これまで、シーア派で伝説とされる“カルバラーの戦い知らされることも、ふれることも、ありませんでした。

680年、ウマイヤ朝のカリフ(最高指導者)であるヤズィード1世(フセインからは廃退で不正な独裁者とみなされた)から忠誠を迫られました。フセインはイスラム共同体の腐敗を正すため、これに屈することができませんでした。そして、赤ん坊や女性を助けて欲しい、イスラム教の無い土地へ引き下がるので、許してほしいと戦いを避けようとしました。

しかし、ヤズィード1世は、飢餓と侮辱を与え、屈服することを求めました。不正や退廃にひれ伏すことができなかったフセインは、敵軍数万名と自軍数十名での戦いを選び殉死します。

ヤズィード1世は、悪政のためその後、3年で失脚したとされます。

フセインは、カルバラーの地で壮絶な最期を遂げ、自らの信念のために妥協せず、不利を承知で戦い抜いた姿勢が“永遠の抵抗”と“正義の象徴”となりました。これが、シーア派の中心的イデオロギーとなり、今もなお引き継がれているようです。

これが、多くのイランの人々は、戦時中に避難するのではなく、街頭に出て、抗議の声を上げている所以でしょう。                  

豪州SBSでは、ハメネイ師の葬儀が連日報道され、大勢のイランの人々が、復讐を示す赤い旗を振り、「トランプに死を」「アメリカに死を」(これは一般のアメリカ国民を指すのではなく、イラン攻撃をする人々を指すそうです)という合唱が、響き渡る様子が伝えられました。(こちら参照

また「ヘイハット・ミンナ・アル=ジッラ」という諺も豪州ABCで紹介されました。よく使われる最も有名なアラビア語の諺で、「屈辱的な人生よりも尊厳ある死を選ぶ」という意味だそうです。

ハメネイ師が、暗殺計画があっても「人々が避難できない所に、自分たちだけ、逃げることはできない」と自宅に止まり、死を受け入れるように、殉死しました。この選択は、イランの人々に、より覚醒と団結をもたらしたように見えます。

三島由紀夫の姿が浮かんできました。彼の最後は、私にとって、過激すぎ直視できませんでしたが、何を伝えようとしていたのかを、ふと考えてしまいました。

シーア派はキリストを敬う

キリストが、十字架刑で処刑されるきっかけとなったのは、エルサレム神殿で商人や両替商が、貧しい人々を騙していたこと、それを容認する高僧たちに憤慨し、不正や腐敗を受け入れられなかったことだと言われます。

キリストは、富は人の心を奪ってしまう可能性があるため、人は神とお金の両方に仕えることはできないと教えたそうです。彼は人々に、富を独り占めするのではなく、分かち合い、飢えた人々に食料を与え、困っている人々を世話するようにと頻繁に説いていたそうです。

シーア派は、キリストを預言者として、敬っているそうです。

豪州でも、キリスト教の人々は、困っている人々への、チャリティー(慈善事業)を行うことで知られます。

トランプ氏は、困っている人々に使うお金は、無駄だ、と低所得者層への援助を削減しています。莫大な戦争費用を要求します。どのような方法でも、お金を稼ぐ人々は、優遇され、そうでない人々は、切り捨てられる、という風潮ではないか、と感じてしまいます。

キリストの原始的な教えを信じる、キリスト教の人々は、レバノン、シリア、アルメニアに存在しますが、これらの人々の町が、攻撃され、廃土化し、消えています。

例えば、レバノン南部のティルス(Tyer)は、紀元前2500年頃からフェニキア人によって築かれた、聖書や世界史において重要な地中海古代都市です。キリストが足を運び母親たちに、教えを説いていたとされます。豪州では、このティルスが連日、集中攻撃される様子が報道されました。

キリストの死後、その教えを広めた、サイモン(Simon)の墓(聖廟シャマーン・アッ=サファ廟)は、世界遺産リストに登録されていました。サイモンは、イスラム教のマフディー「導かれた救世主」の祖先であることから、この墓は、キリスト教とシーア派の聖地とされています。しかし、ここも攻撃で、倒壊されてしまいました。

その上、救命救急士や自然保護家、校長など、社会を維持するのに必要な人々の命も失われました。停戦中のガザでは、日々命が失われ、冠婚葬祭に参加する人々、ワールドカップの放送を企画する人々、頭部や胸を撃たれた赤ん坊がなくなるという、報道が相次ぎません。

今も続く、シーア派とスニン派の争い

レバノンでは、スニン派とシーア派は約32%で同じくらいですが、取り決めで少数のキリスト教マロン派、20~30%から大統領(親米派)が選ばれ、権限を持ち、シーア派の多い南レバノンが攻撃を受けても、国軍により防衛されていないことが、非難されています。

シーア派のハズボラ(選挙で選ばれた政党の軍事組織で、西側でテロ認定)が、防衛していましたが、米国から武装解除が要求されています。

シリアもスニン派で、過激派テロ組織出身のアル・シャラア氏(親米)が武力で、政権を奪い、国内は混乱のままです。

イラクはシーア派が主流派です。しかし、イラクの石油販売による利益は、米国のニューヨーク連邦準備銀行を通して、イラク中央銀行の口座に入金されるので、米国の判断でその資金は、凍結される可能性があるでしょう。そのため、5月に決められた、新首相はシーア派ですが、政治経験のない、超裕福層のビジネスマンが、妥協案として就任しました。トランプ大統領に受け入れられたアリー・アッ=ザイディー首相です。

これらの国々では、米国などから、シーア派の民兵組織の武装解除が要求されています。それに、シーア派の人々は、従うのかが注目されます。

イエメンでは、イランに近く、シーア派の多い、アンサール・アッラー(通称フーシ派:主な西側諸国、サウジアラビア・UAEからテロ認定)が首都サナアを含む、人口の多い地域を治めています。それに対抗して、サウジアラビアが支援していると見られ、世界的に認められるイエメン政府が存在します。内戦が続き、空海領域の封鎖が行われ、食料や薬の欠乏で、何年も人々が苦しんでいるそうです。

ハメネイ師の葬儀に出席した、アンサール・アッラーの一団が、空路で帰還する中、サナア空港が爆撃されました。彼らは、サウジアラビアの攻撃だ、主張しました。近隣の空港に、着陸し、11年ぶりに封鎖を破ったことが、話題になりました。

中東での争いが、激しくなる中、アンサール・アッラーは、紅海のバブ・エル・マンデブ海峡を通過しようとする、サウジアラビアのタンカーを攻撃したことが、伝えられました。

フィリピンでは7月22日、南アジア諸国連合(ASEAN)が開かれ、米国ルビオ国務長官が出席する中、激しい反米デモが起きました。デモ隊は、中国との緊張の高まりを非難し、米軍基地の拡大と資源搾取によってフィリピンの主権を疑問視し、米政権とマルコス政権の両方を非難していました。(こちら参照

ウクライナへの欧州連合の軍事関与や支援が強化され、ロシアの内陸部、民間、石油施設の攻撃が激しくなっています。これをロシアは欧州の地域の「不安定化政策だ」と非難しています。兵士が戦死する中、ウクライナからの多数のドローン攻撃はAIによるものだ、とも見られています。抑制的だったロシアからの報復も強化され、こちらも泥沼の激化に突入しているのではないか、との見方があります。
7月23日は、ASEANの傍らフィリピンで、米露の外相が、ウクライナとロシア停戦について会談しました。ロシアは、2025年プーチン大統領がアラスカで米国へ示した提案を改めて強調し、また停戦を唱えながら「キエフ政権への武器供給を継続することは容認できない」と非難し、30分強で終了したようです。破棄される交渉、守られない合意が繰り返される中、多くの国々が叫ぶ “平和的な話し合い” は、結果を出すどころか、戦争と激化を招き、ただの時間稼ぎか、パフォーマンスのように見えてきます。

おわりに

世界の石油などの資源の欠乏、経済の混乱など、お構いなしで進められる攻撃。

自分をキリストに例えたような投稿をするトランプ大統領は、まず、面目を保つことに必死のようです。

その攻撃に、屈しそうにないイランとシーア派抵抗連合。

世界は“武器の歴史だ”とも言われます。ルールなど存在しない世界では、桶狭間の戦いのように、少数派でも、より効果的な武器や作戦・戦略で勝つことがあります。

そして、何より戦争の拡大とエスカレーション、被害を止めることができるのでしょうか…。

今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホストファミリーとグレートオーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。