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こちらアイスランド(233)なぜ都市部はEU賛成?アイスランド国民が訴えたかった「生活の解放」〜小倉悠加

アイスランドのEU加盟交渉の再開を問う国民投票が2026年8月29日(土)に行われた。結果は「見送り」。つまりは加盟交渉再開反対の民意が示された。

反対 52.8% 118,040票
賛成 47.2% 105,339票
有権者登録者数:272,690人
投票者数:225,031人(82.5%) 白票:897票 無効票:755票
 ソース:EU加盟交渉に関する国民投票 Þjóðaratkvæðagreiðsla um aðildarviðræður við ESB

結果はご覧の通り。反対52.8%、賛成47.2%。ごく僅差だ。

都心部ではレイキャビク北部選挙区が反対42,5%、賛成57,5%、南部選挙区では反対45,5%、賛成54,5%と賛成が半数以上を占める。特に北部では15%以上の差がある。地方はすべて反対が過半数を占めた。都市部には特殊な事情があるのか?

報道機関によってはあたかもアイスランド国民がEU加盟を拒否して、国家としての独立を保ったというような見出しだけれど、実態はぜーんぜんそうではない。

今回、国民投票に至った背景を少しだけおさらいしよう。

アイスランドはすでに欧州経済領域(EEA)加盟国であり、商品、人、サービス、資本の移動はEU加盟国と同等に行うことができる。しかしながら2008年に経済崩壊を起こした。
アイスランド・クローナという独自の極小通貨を維持するより、ユーロ圏になった方が安定するのでは?という理由から加盟交渉を2009年に開始した。しかし2013年の政権交代時に交渉凍結を決定。

凍結の理由の大きな要因に漁業権の維持がある。小国であり島国である。かつては外貨獲得の9割を漁業に依存していた。漁業は国家の基幹産業でありアイデンティティだ。

時代は変わり、外貨獲得はアルミの精錬、観光業に徐々にシフトしていった。現在では観光業が第一位で、水産は第二位だ。順位は入れ替わったが、漁業は基幹産業のひとつであり、国家のアイデンティティであることは揺るぎない。

EU加盟には漁業権の問題が大きくクローズアップされた。過去にはイギリスとタラ戦争までしたくらいなので、その大切な海里をここで手放すことはできない!というのはその通りではある。けれど、漁業権の歴史を見ていくと、漁場はいっそのこと解放した方がいいのではと考える人がいてもおかしくないのが現状だ。

日本の報道ではあたかもアイスランドが国家主権維持を国民が決断したというような切り口も見え隠れしているけれど、庶民レベルで考えられていることとはかけ離れている。

投票の結果が辛くも反対派が過半数を占めた。逆に言えば、なぜ加盟賛成派が半数近く存在するのか?これに関してを言及した報道機関は少なかった。

加盟反対派のことは多く報道されたので、ここではなぜ賛成派の思いを伝えたい。もちろん事情は一筋縄ではなく、複雑な事情が入り組んでいる。なのでざっくりとお伝えすることしか私にはできないことをお断りしておきたい。

EU加盟賛成の理由

1.経済安定とユーロ導入:2008年の経済崩壊後に交渉が開始されたのはこれが一番大きな理由だった。

2.安全保障の強化:現在でもNATOの傘下ではある。ロシアを含む現在の国際情勢を見ると、長いものに巻かれておくのが得策に見えないことはない。確かに国民生活にこの事項は重要だ。

3.EU意思決定への直接参加:これは諸刃の剣でもある。EUの意思決定に参加できるけれど、内政の干渉につながる事態もかんがえられる。

4.貿易・投資の拡大:EEA圏内なので、EU加盟でどれほど違いが出るのか、そこまで調べていない。

5. U構造基金へのアクセス:地方開発などの基金を受けられるそうだけど、これ以上この国をどう開発しろと?というのが私の感想。

ーーーというもっともらしい理由が賛成派の言い分だそうだ。AIよ、簡潔にまとめてくれてありがとう。

さて、ここからは国民の生活、庶民の目線で物事を見ていく。

アイスランドの漁業権を牛耳るのは3社、ごく一部の所有者が潤う構造

アイスランドの大企業は漁業会社だ。Samherji hf.(サムヘルジ)、Brim hf.(ブリム)、Síldarvinnslan hf.(シルダルヴィンラン)がトップ3社で、これらの会社はほんの一握りの家族が所有している。

外貨獲得第二位の産業に5%の国民しか従事しておらず、利益は一握りの家族が甘受している状態だ。

タラ戦争時代(1958年ー1976年)は中小の漁業会社や漁業組合が各地に点在していた。国の根幹産業の漁場を守る。あの頃であればその考えは国民生活の正義だった。

現在は生活圏の地元に漁船を持っている中小の漁師はほとんど居なくなってしまった。それは漁業権を維持する条件が厳しく莫大な金額がかかるため、企業が中小の会社や組合が漁業権を手放していった結果でもある。

結局、アイスランドの漁業権はごく少数の企業(同族)に支配されている。国際的な価格競争はあれど、アイスランド国内に関しては独占企業と同じことだ。

スーパーの鮮魚売り場に並ぶのは多くて5種類で、通常は2-4種類程度しかない。ウニやホタテなども獲れるが、ほとんど輸出されてしまう。

漁業大国であるなら、なぜ地元に安価な魚が売られていないのか?エビはなぜ殻なしで身をボイルした旨みが抜けた状態を冷凍して売るのか?もー、本当に見た目ばかりで美味しさを削ぎ取ったものしか売ってないって・・・。おっと、論旨が外れて失礼。

食料の輸入・流通はごく一部の同族が独占状態。

アイスランドは小国、島国、寒冷地で農作物があまり育たない。温室で作れるものはあるが、種類も量も限られる。食料の大半は輸入品に頼っている。この分野も限られた同族業社に牛耳られている。

アイスランドの代表的なスーパーマーケットのブランドは売り上げ順にトップ5は以下の通りだ。

1. Bónus(ボウヌス:Hagar社)

2. Krónan(クロウナン:Festi社

3. Nettó(ネトゥ:Drangar社)

4. Hagkaup(ハグクイプ:Hagar社)

5. Krambúðin(クラムブゥディン:Drangar社)

ボウヌスとハグクイプはHagar社が、ネトゥとクラムブゥディンはDrangar社が所有しているブランドだ。クロゥナンは別会社とはいえ、元を辿るとボウヌスとクロゥナンは同じ所有者で、同族内で会社買収が行われる。
もちろん現在は機関投資家や年金基金等もあり、どの家族がどこをどれだけ所有しているかは以前ほどは分かりやすくない。どちらにしても、小売だけではなく、卸売、輸入元等、同族でほぼ固まっている。

アイスランドは日常の買い物で見せかけの競争は作れるが、たいした競争ではない。

話は飛ぶが2017年にアイスランドにコストコが登場した時、人々は狂喜乱舞し、一般スーパーの販売価格が劇的に下がったものもあった。コストコ価格に太刀打ちできないと、いちごの生産をやめる業社も出てきた。確か国産トイレットペーパー会社が潰れた覚えも。一時的なショックだったとはいえ、ぬるま湯の中にドボンと大きな氷が投入されるとどうなるか、の実例だった。

石油の輸入は食品輸入業社と重なる

グリーン・エネルギー100%の国とはいえ、燃料は石油にまだまだ頼っている。ここも独占企業だ。

1. N1(エヌ・エヒット:Festi社)所有はクロゥナンと同じ。日本のヨドバシ、ビックカメラ的な家電ショップElkoや薬局チェーンLyfjaもこの会社が所有。

2. Olís / ÓB(オリース/オゥビエ : Hagar社)所有はボウヌス、ハグクイプと同じ。燃料インフラ会社Olíudreifingもこの会社の所有。

石油業界はこれまで何度も談合を行っている・・・どこの国でもよくある話だ(ため息)。

さて、もうこのくらいで私がお伝えしたいことは読み取っていただけると思う。ついでに書いておけば、アイスランドは報道機関も同族所有だし、不動産所有の大手も同じ。この大手が近年家賃を大幅にアップしたため、我が家もいきなり20%アップの大打撃を受けた。

とにかくこういった生活に不可欠な物品やサービスは同族が所有する会社やら投資会社に帰結していく。アイスランドの生活の実態は一部の家族に生活基盤を支配されているのだ。

報道機関の見出しは、どこもアイスランドが主権・独立を保つことにして万々歳、のような論調が目立つ。実態は、そんなことよりも生活の基盤を同族から解放してくれ!!というのが切実にある。都市部での賛成派が多いのは、こういった日々の生活に関する物事が大きいと感じる。

アイスランドの富はごく一握りの同族に独占されている。それを打破するきっかけは外部からの圧力が最も効果的だ。それは約10年前のコストコの参入で私も実体験した。コストコ一店舗であれだけの衝撃がスーパーマーケット業界全体に走ったのだ。ユーロ加盟となり、同じような価格で商品が入り始めたらどうなるか?

人は変化を望まないものだ。苦しくも安定しているなら、それでいいと思ってしまう。それが生かさず殺さずでも。変化を望まない層は一部のリッチ・ファミリーであり、彼らは潤沢な資金があるのでいくらでも加盟反対キャンペーンをやれる。

現在のアイスランドではもう行き場がないと考える層は都会に多く、また、アイスランドは約20%が移民で占められている。彼らはほとんど加盟賛成派であろう。

「加盟反対、万世」では決してない。外圧を求めてしかるべきという考えは、現在アイスランドで暮らしていると納得いくことが多い。

でも、国民投票で再交渉は凍結された。政治のトップに気に入らない政党の首がすげ替えられると、一縷の希望を託して次の任期で別の首が少しでもマシなことを祈って過ごす。加盟賛成派はそんな気持ちではないか、と。

大きなところを履き違えて解釈してる人もいるみたいだけど、今回の国民投票は加盟を決定づけるものでも、辞退するものでもなく、あくまでも「交渉再開」にすぎない。交渉後、合意に至らずということも当然ある。本来であれば、全体像を明らかにした上での国民投票が順当ではないだろうか。

私自身はアイスランド国民でもないので意思決定権はないし、アイスランドのお魚のコインがなくなるのは寂しいので、このままでいい。この年齢になると新しいことに順応するのが大変だし、ここで制度がドカンと変更になると情報処理が追いつかない。どちらにしても、アイスランド国民の意思に従うしかない。

それから投票日はたまたま天気が最高によかった。こういう日は郊外の住む保守派が「天気もいいし、投票でもしていくかぁ」と散歩がてら、ドライブがてら投票にくるので、投票率が上がる傾向にある。つまりは保守票が増えることを意味する。今回のように僅差の場合は結果がこれに左右されることが多く、今回はまさにその通りになった。

今回の国民投票の結果に法的な拘束力はない。それでも政府は民意を尊重し、結果を尊重すると表明して再交渉は2028年まで凍結された。

小倉悠加(おぐらゆうか)
東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド在住。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。高校生の時から音楽業界に身を置き、音楽サイト制作を縁に2003年からアイスランドに関わる。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、社会の自由な空気に魅了され、子育て後に拠点を移す。休日は夫との秘境ドライブが楽しみ。愛車はジムニー。趣味は音楽(ピアノ)、食べ歩き、編み物。


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