今年は夏休みの前半にアイスランドを一周した。
天候の都合もあり、観光に出向いた場所は限られた。そんな中でも、Listasafn Samúels(Samúel Jónsson Art Museum・サミュエル・ヨンソン美術館)が印象に強く残った。
アイスランド各地の特筆すべき場所はほとんどご紹介してしまったと思っていたけれど、どうやらサメタイではまだのようなので、ここにご紹介したい。
まずは場所の地図から。
地図を小さくしてアイスランドの全貌を見えるようにすると、西フィヨルドの南側から数えて三番目の半島の先端近くにこの美術館は位置していることがわかる。
一応道路はあるけれど、道路はここでお終いという場所だ。近隣の街からは、落ちたら絶命しそうな絶壁(ガードレール無し・未舗装道路)を走ってくるので、この世の果て感も満載だ。
そんな道を走った果てに見えてくるのが、サミュエル・ヨンソン美術館の色彩だ。
ここはアウトローとして生きたサミュエル・ヨンソンが独自に作った美術館で、西フィヨルドはセラゥルダルル(Selárdalur)という夏しか訪れることができない僻地にある。
サミュエル・ヨンソンは農夫として生活を営み、芸術を学んだことはなく、年金を受領するようになってから、ひとりでコツコツとこの僻地にオブジェや建造物を作った人だった。
この場所を知ったのはシガーロスが『Heima』というアイスランドを一周かながらライブをしてまわるというドキュメンタリー映画で、そのシーンは動画でネット上にでまわっているのでぜひご覧ください。
これを見てわかるように、20年前のここはまだ再建が始まったばかりで、建造物は荒れるままになっていた。あれから年月が経ち、シガーロスがこの動画でその存在を知らしめたこともあり(私もそれがきっかけで知ったし)、現在はほぼすべての建造物が修繕され、建築当時の輝きを取り戻している。
ここを訪れたのは今回が初めてではなく、ツアーの訪問地として組み込んだこともあり、下見も兼ねて何度か通ったことがあった。


撮影時期や天候等が異なるとはいえ、今年音方が断然きれいになっているのがわかると思う。
サミュエル・ヨンソンは建造物や像を作った人なので、内装に彼が書いた絵画などはーーあったのかな?ないはず。現在は建造物の内外に現代アート(アウトロー的な括りの芸術館の作品)の展示をしている。
入場して一番最初に訪れるのは、サミュエルが作った教会だ。



教会の中には、この建造物のインスピレーションとなった建物や、この美術館の歴史がわかる展示等があった。以前はずいぶんと埃だらけでガランとしていた印象だった。
一番奥まった家には小さな寝室も置き、アーティスト・レジデンス兼ショップ・カフェのような感じにしてある。これがオープンしたのが2年前で、私はちょうどそのオープン日に訪れていた。
同じ場所とは思えないほど、内装もきちんと整えられていた。


ここで一番有名なのは、たぶんこのライオンの泉ではないだろうか。この犬っぽい銅像は間違ってもスフィンクスでも犬でもなく、ライオンなのだ。真ん中の白いところに手動でバケツの水を入れるとそれぞれのライオンの口から水が出てくる。そう、泉、ファウンテンなのだ!

2019年の時はアーチのある建造物の2階を見せてもらえたので、上から撮った写真をどうぞ。別の角度から見るのも面白いかと思う。

もうひとつの建造物(確かパレスと呼んでいたかな、つまりはお城!)はアーチの上に狛犬的なライオンか何かがいる。



特に何か凝った作りであるとか、小難しい芸術性はないかもしれない。それでも、農夫が年金を受け取るようになり、夢の世界を現実に作り上げたという魂には感動するのではないだろうか。今の私がまさに年金を受け取り始めたところだが、冬は閉ざされてしまうこの僻地で、これだけのものを作ろうという気持ちはまず起きない。この純粋さと動機にただただひれ伏すばかりだ。
とはいえ、アウトロー・アートは大好きだし、現代のアニメに通じるものを見出したりする。もしや時代の先取り?という感じさえある。
前述の通り、シガーロスのロケ地を巡るコンセプトで一度ツアーを催行して、みなさんをこの地までお連れしたことがある。ツアーの中に組み込むにはなかなか勇気のいる場所だ。だから誰もやらない(笑)。
この美術館へ行こう!と決めて、アイスランドまで本当に足を運び、絶景を眺めながら西フィヨルドの半島の先端まで辿り着く特別な体験が、何よりもとびきりの心の情景になる。時間と熱意がある方はぜひどうぞ。
公式サイトはアイスランド語のみ。
小倉悠加(おぐらゆうか)
東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド在住。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。高校生の時から音楽業界に身を置き、音楽サイト制作を縁に2003年からアイスランドに関わる。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、社会の自由な空気に魅了され、子育て後に拠点を移す。休日は夫との秘境ドライブが楽しみ。愛車はジムニー。趣味は音楽(ピアノ)、食べ歩き、編み物。
