久々にドライブの話題。F210(fjallabaksleið syðri)から派生するヘクラ方面(Hekla)への道を走ってきた。この入り口はF210号線を通る度に眺めていて、いつか走ってみたいといつも、いつも、本当にいつもこの前を通る度に思っていた。
彼はどうやら溶岩を抜けて通るありがちな道だと想像していたらしく、なかなか食指が動かなかったそうだ。なので通りがかりはするけれど、実際に通ったことがない道だった。
2026年9月半ば、例年であれば私たちは西フィヨルドまでブルーベリーを摘みに行っていた。今年は意外にも近場で間に合ってしまい、遠出をしなくても一定量確保することができた。果物の種類が限られ値段も高く旬のものなど望めない国において、野生のベリーは唯一自らの手で収穫ができる稀有な食材だ。「ベリー摘み楽しいな、らんら〜〜ん」とはほど遠い、真剣な仕事だ。とはいえ、摘むのは無我の境地なれて楽しい🫐
ラッキーなことに今年は8月末から9月初旬、3回ほど摘みに出て10キロ強を確保した。ありがたい。
思いがけずベリーに割く時間をドライブにまわすことができた9月12日の土曜日、天気もまずまずなので未走破であるヘクラへの道を進むことにした。
今年の夏はほとんどフャットラバック(fjallabak)へ行けなかったと私は盛んに嘆いていた。なのであの美しい大地までまた足を伸ばせることがとても嬉しかった。
最近は道路番号にFがつく山岳道を走る日本人観光客も増えたようだ。もしや私がこのサメタイでご紹介してきたことも大いに影響しているのでは?と思える節も結構ある。
山岳道は怖い場所ではないけれど、一定の知識と心構えがないとトラブルや事故を誘発する危険性は舗装道よりもずっと高くなる。甘く見ない方がいいということを、ここで強調しておきたい。
夏の間は川さえ気をつけていれば大体は通れる。ただし9月に入ると雪の問題が突然目の前に現れる。道路が見えていればまだいいけれど、場所によっては雪が降るとすぐに道の痕跡が消えてなくなる。なので基本的には入らない方がいい。もっともランドマンナロイガルのように、観光客がひっきりなしに通る道であれば近年は道がわからなくなることはない。それでも、立ち往生はある。


「Hekla」というこの看板を見た時、あぁやっと走れると感慨深かった。この前を何十回通ったのだろうとも考えた。大抵夕方遅くに通ったりとか、先を急いでいたりとか、時には入り口近くの道が氷と雪で行き先が見えなかった時もあった。あぁやっと、やっと先を見ることができる。
走りはじめの付近は、フャットラバックでよく見る、草さえ生えていないような荒涼とした風景だった。遠くには山々が見えて、その中のいくつかは雪化粧だった。

雪にはまだ早いけれど、山の頂上近くならあり得ると思いながら道を進んだ。
うん、いい場所だ。ひらけた場所は清々する。
すると目の前に雪に覆われた白い山がいくつか現れてきた。
「あぁ、雪が降ったんだ」
当たり前でしかない感想をつぶやきながら少しずつ深い場所へと入っていった。すると予想通り、周囲にちらちらと雪がまだらに残る場所にやってきた。
「あぁ、やっぱり」
まったく私の言語感覚はどうなっているのだろう。幼稚園児のような表現力しかない。最近本当に日本語に詰まることが多くなりすぎて、そろそろ本当に、日本に戻って日本語修行をしないと大人として生きていけないのではと真剣に考えたりする。まじで。

そんな風景が少し続いた時に現れたのがこの山だった。どうやら中腹は緑色の苔がうっすらと表面を覆い、頂上近くと道路近くは土色の山に、雪がうっすらと積もっていた。雪の間から山肌の色が透けて見えて、その感じがなぜか私には浮世絵のように見えた。
「美しい」
そんな場所を通り抜けると、今度は往来のある道路だけ雪がなく、道路以外の場所が白で埋め尽くされそうな場所に出てきた。
「へ〜、やっぱりここまで積もったんだ」
そう、この程度であれば雪があるかもと思っていたのが、まさにこんな感じの場所だった。

雪の積もり具合を見るのも楽しかったし、この道は単調ではなく、山の間をすり抜けたり、山を上り下りしたりと、かなり起伏のある面白い道路だった。
「思っていたのよりもずっと風光明媚だね」と運転手の彼。確かに。そこまで長い距離ではないので、山越も含む起承転結のような感じの道だとは私も思っていなかった。

おっとおっと。走り進むと雪は予想外に深まっていった。雪が積もりそうなカーブが続く場所では、勢いで通らないと雪で足止めされそうな場所まであった。


ジムニーは小型車だ。雪道はあまり得意ではない。新雪で軽かったため、多少雪深い場所も勢いで通ることができたけれど、これが重いベタ雪だったり、何度も踏み固められたような冬の雪だったら、通行に苦悩していたかもしれない。
交通はあまりないとはいえ、週末なので一台も車が通らないということはないと思った。立ち往生したとしても、まぁ何とか助けを求められるか?!という打算もちょぴっとあり(本当はよくない)、これは引き返した方がいいという感じでもなかったので、とりあえずは進めるだけ進んでみようということに。
ここらへんが積雪のピークではないか?と思ったところが実際にピークであり、その後は難なく雪から抜け出した。全く雪のないエリアに戻っていった。
アイスランドのハイランドの道は毎年粘って雪が積もり始める頃まで走りに行く。去年の写真を見ると10月20日まで走れていた。同じエリアの9月28日の写真があり、どこを見ても雪はなかった。
毎年天候の変化があるとはいえ、3年ほど遡ってみたが、今年は雪が圧倒的に早い。
道はほどなく別の幹線道路から枝分かれした道につながり、ついでなので数十メートル寄り道をしてロイザスカゥル(Rauðaskál=赤いボウル)という場所を訪れた。文字通り、赤土でできたお椀のような場所だ。

ヘクラ山の頂上は雲が覆い被さっていた。走り出した時は天気がよかったのに、この場に到着して小雨が降り始め、風も出てきた。
午後3時。時間的にはまだ早いけれど、ここから別の場所へ走るといっても天候が崩れ始めたので、欲張らずに素直に家路へつくことにした。前日、前々日と、二晩続けてコンサートへ出向いたので、少し疲れが溜まっていたこともある。
「今日は早めに帰って、家でゆっくりしようか」
我々も歳をとったものだ。ほんの数年前だったら、絶対に別の場所へと足をのばしていたことだろう。レイキャビクへは2時間強で戻れる距離だ。この後3時間ほど周辺を探求た後、家路のどこかで夕食をとり、レイキャビクへは夜に戻ればいい、日照を最大限に活用しよう!という気持ちが起きないのは、やっぱり歳だよなぁ、と。
という感じで、今回はドライブのお裾分けでした。
小倉悠加(おぐらゆうか)
東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド在住。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。高校生の時から音楽業界に身を置き、音楽サイト制作を縁に2003年からアイスランドに関わる。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、社会の自由な空気に魅了され、子育て後に拠点を移す。休日は夫との秘境ドライブが楽しみ。愛車はジムニー。趣味は音楽(ピアノ)、食べ歩き、編み物。
