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秋本事件の贈賄側社長が容疑を認める方針に転じたのはなぜ?検察べったりのマスコミ報道ではよくわからない本当の理由とは?

東京地検特捜部が洋上風力発電事業をめぐる贈収賄容疑で秋本真利衆院議員を強制捜査した事件で、贈賄容疑で家宅捜索を受けた「日本風力開発」の社長が特捜部に対し、一転して贈賄容疑を認める方針に転じたとマスコミ各社が一斉に報じた。社長の弁護士が各社の取材で明らかにしたようだ。

社長はこれまで秋本議員に現金を渡した事実は認める一方、馬主仲間として馬の購入代金にあてる目的だったとして贈賄容疑を否定していた。どういう理由で認める方針に転じたのか、どの記事をみてもわかりにくい。

各紙の報道をみてみよう。

読売新聞は「塚脇社長は、これまでの特捜部の任意の事情聴取に対し、「秋本議員に渡したわけではない」などとして贈賄容疑を否定していたが、弁護人によると、一転して贈賄容疑を認める意向を示したという」と記述するのみで、その理由は明記していない。

産経新聞も「特捜部の任意の事情聴取に対し、これまで否認していた塚脇氏が一転して贈賄を認める方針に転換したことも弁護人への取材で判明」と報道しているが、そこには読売にはない重要な記述があった。「弁護人は同日、辞任した」というのだ。

ここから類推できるのは、弁護人は無実を訴える社長ことに共感して弁護活動を引き受けてきたが、ここにきて社長が何かしらの理由で贈賄容疑を認める姿勢に転じ、弁護方針に食い違いが生じたことから辞任に至ったということである。だが産経を読んでも、なぜ社長が贈賄容疑を認めることにしたのかはよくわからない。

朝日新聞にはヒントがあった(朝日新聞デジタルは当初、記事の大部分を公開していたが、途中からほどなく公開部分を大幅に減らしたため、それだけではよくわからない。昨今の朝日新聞デジタルは原則有料化を強く推進しており、重要な部分が読めず、これでは社会的影響力が低下する一方だ)。

それによると、「弁護人は11日になり、塚脇社長が国会質問への謝礼という特捜部の見解を受け入れ、秋本氏への賄賂と認める方針に転換したと明らかにした。理由については「取引先まで捜索されたことや会社の経営への影響を考慮した」と述べた」というのである。

この記事も十分とはいえないが、社長が贈賄容疑を認める方針に転じた最大の理由は「(特捜部に)取引先まで捜索された」ことで会社経営に不安を募らせたことにあると読み取れる。

つまり、本来は贈賄容疑を認めるつもりはないのだが、特捜部が会社の取引先に一斉に家宅捜索を実施した結果、取引先から迷惑がられ、今後の会社の事業が立ち行かなくことを恐れて、「贈賄容疑を認めるかわりに、これ以上、取引先に家宅捜索しないで」というバーターに応じた、という構図が浮かんでくる。

これは真実を追求する捜査のあり方として適正なのだろうか。

折しも東京地検特捜部は、河井克行元法相の選挙買収事件で、お金を受け取った側の広島市議らに不起訴にするかわりに授受を認めるよう「供述誘導」した疑惑を報道されて世論の批判を浴び、内部調査を進めている。

関係者に圧力をかけて供述を誘導するという意味では、今回の洋上風力発電の事件も同様ではないか。そのような手段で得た供述に、果たして信憑性はあるのか。特捜部は同じ過ちを繰り返しているのではないかーーそんな疑念が浮かぶのは当然だ。

ところが、マスコミ各社は肝心な部分について、何も追及していない。なぜなら、特捜部を批判することは彼らにとってタブーだからだ。マスコミの検察事件報道は、検察のリークにのっとり、検察が描く事件をそのまま垂れ流すもので、検察捜査のあり方を批判することはめったいないからである。

今回の事件をめぐっては、秋本議員が岸田首相のライバルである菅義偉前首相や河野太郎大臣の側近であり、さらには岸田政権が推進する原発政策に反対する再生エネ派の代表的存在だったことから、「国策捜査」との疑念も指摘されている。なおさら捜査の適正さに注視し、厳しく追及するのがジャーナリズムの役割なのに、一連の報道からはそのような問題意識はみじんも感じられない。

検察とマスコミが一体化して岸田政権に有利な事件を進める「国策捜査」の疑いがますます濃厚になったといえるのではないか。マスコミが検察に加担して報道するほど、検察の恣意的な捜査への不信がますます高まるというネット時代の現実を、検察もマスコミもそろそろ認識した方が良い。

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