政治とマスコミを斬る
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これぞ『朝日新聞政治部』紹介記事の決定版! 集英社の若手編集者の力量に感服

日本の三大出版社といえば、講談社、小学館、集英社である。

私の新刊『朝日新聞政治部』は講談社から刊行されたが、ライバル社の集英社がウェブサイト「集英社新書プラス」で本書を紹介するため、私をインタビューしてくれた。

取材を依頼してきたのは、集英社新書編集部の石戸谷奎さん。30歳前後の若手編集者である。

彼が私をじっくりインタビューしてまとめた3回連載がすごかった。これまで本書をめぐり数多くの取材を受け、数多くのインタビュー記事を掲載してもらったのだが、そのなかでも屈指の出来栄えだった。

私は『朝日新聞政治部』を企業小説感覚で読み上げてほしいと願い、ストーリー仕立ての軽快なタッチで書き上げたつもりである。ただし、本書は政治家の素顔から政治取材の内幕、巨大新聞社の内部闘争、メディア史に残る「吉田調書」報道取り消し事件の真実、調査報道のあり方、新聞社のデジタル化の遅れまでテーマがあまりに広く、インタビューですべてを網羅しようとすると、ドツボにハマる。

これまで私をインタビューしてくれた何人もの記者が隘路に陥り、完成した記事は焦点がボケるケースが少なくなかった。自分で言うのも変だが、この本を簡潔に紹介するのは至難の業なのだ。

ところが、石戸谷さんが取材・執筆した3回連載はすべてのテーマを見事に描き切っている。私からすれば『朝日新聞政治部』を紹介する記事の決定版のように思えた。

事前に長文の原稿を送ってもらいチェックしたのだが、構成ぶりはもちろんのこと、細部まで一字も直すところがなかった。取材者・編集者として完璧な仕事だったのだ。練りに練って仕上げたに違いない。

その三回連載が9月2日〜4日、ウェブサイト「集英社新書プラス」で公開された。以下の3本である。

『朝日新聞政治部』著者・鮫島浩氏インタビュー

【前編】(9月2日公開)朝日新聞社はまるでリアル版『半沢直樹』の世界!?

【中編】(9月3日公開)政治取材では「騙される方が悪い」!?  記者の仕事の実態とは

後編】(9月4日公開)選挙報道はもっと面白くできる!”SAMEJIMA TIMES “の挑戦

石戸谷さんを紹介してくれたのは、教育研究者で現在は高知県土佐町で町議をしている鈴木大裕さんだ。私が朝日新聞の言論サイト「論座」で編集者をしていた時、鈴木さんがニューヨーク留学中の子育て経験をもとに執筆した『崩壊するアメリカの公教育:日本への警告』(岩波書店)を読んで感銘を受け、執筆を依頼した。私が退社した後に鈴木さんから「集英社に優秀な若手編集者がいる」と紹介されたのが石戸谷さんだった。

初対面したときの石戸谷さんは訥々としていて器用なタイプの編集者には見えなかった。風貌は決して若手という感じではなく、むしろ貫禄さえ感じたが、会話を重ねると会社組織に染まりきっていない初々しさが伝わってきた。

このインタビューをまとめあげた仕事ぶりをみると、研ぎ澄まされた文章の理解力と構成力を備えた天才肌かもしれない。何よりも記事をつくりあげていく喜びが伝わってくる。将来が楽しみだ。


集英社は戦前の1926年に小学館から娯楽出版部門が分離して創業した老舗出版社である。「週刊少年ジャンプ」や「りぼん」など漫画のヒット雑誌を多数抱える。「鬼滅の刃」の大ヒットは記憶に新しい。

当然のことながら、集英社をめざす学生たちが圧倒的にあこがれるのは、漫画編集者になることである。石戸谷さんもそうだったらしい(漫画部門の花形である「週刊少年ジャンプ」の編集者には「3年ルール」と呼ばれる慣行があるという。3年でヒット作を生み出せなければ配属替えとなり、基本的に二度と編集部には戻れないそうだ。激しい競争社会である)。

だが、彼が数年前に入社した後に配属されたのは、集英社が立ち上げたばかりの新書編集部だった。政治経済をはじめ時事ニュースに土俵を広げるための新設部署である。

石戸谷さんはそこで頭角を現し、次々に話題作を刊行していった。

私は朝日新聞で調査報道に専念する「特別報道部」という新設部署をつくり育ててきた。だから漫画が王道の集英社において、新設の新書編集部の空気がそれなりに想像できる。熾烈な競争が繰り広げられる中枢部門(朝日新聞では政治部や社会部、集英社では漫画部門)と違って、未知の世界へ進出する新設部門は自由奔放で、失敗を恐れず挑戦することが許され、風通しが良いものだ。そのような環境のなかで、石戸谷さんはのびのびとその能力を開花していったのだろう。


特別報道部を廃止して政治部や社会部という縦割りの世界へ逆戻りした朝日新聞社と、「鬼滅の刃」など漫画の大ヒットに甘んじず時事ニュースにも進出する集英社。勢いの差は歴然としている。

新聞社より出版社のほうがデジタル化による「出版不況」の荒波を早くに受けた。その分、新陳代謝が先に進んだ側面もあろう。定期購読者に支えられてきた新聞社が双方向時代への対応に出遅れたのに対し、出版社はひとつひとつの販売部数や読者の反応に敏感だ。メディア企業体としての明暗がくっきり浮かんでいる。

私は朝日新聞記者として27年間、取材する側にいた。『朝日新聞政治部』を上梓したおかげで、多種多様なメディアから取材を受ける側になった。そこから見えるメディア論はとても興味深い。