8月19日、永田町に「ゴリラ」が現れた。
正式名称は「護憲リベラル共生」。略称が「ゴリラ」だ。共同代表は衆院選で落選した川内博史氏と阿部知子氏、幹事長は平岡秀夫氏。いずれも旧立憲民主党のリベラル系を代表してきた政治家である。
掲げる政策も「元祖・立憲」そのものだ。憲法9条を維持し、米軍基地を縮減、辺野古移設に反対し、原発を一日も早く終わらせる。そして皇位継承については、長子による継承を可能にする皇室典範改正を掲げる。
つまりゴリラとは、消えかけた「立憲リベラル」の旗を、もう一度掲げ直そうという試みなのである。
問題は、これが野党再編を促すのか、それとも野党の細分化を加速するのかだ。
現在、立憲・中道・公明の3党は8月末をめどに合流協議の結論を出そうとしている。大きな野党の塊をつくり、自民党に対抗するという構想だ。
そこへゴリラが登場した。
もし立憲リベラルの支持層や現職議員がゴリラに流れれば、3党合流は「大きな塊」どころか、立憲リベラルを外に押し出した新たな分裂を生むことになる。
すでに参加者として、立憲の石垣のりこ氏、打越さくら氏、杉尾秀哉氏らの名前が取り沙汰されている。さらに中道の野間健氏や社民党の大椿裕子氏らの名前も浮上している。今後、誰が正式に参加するのかが焦点になる。
そして、最大の注目人物の一人が小沢一郎氏だ。
川内氏は記者会見で、小沢氏も加わる可能性を示唆した。小沢氏自身もこれまで、中道では自民党に対抗できないとして、新たな政治勢力の必要性を繰り返し訴えてきた。
ただし、小沢氏の理念は「護憲リベラルの結集」だけではない。何よりも「自民党に対抗できる政権交代勢力をつくる」ことが主眼だ。ゴリラが単なるリベラル政党になり、野党を細分化するなら、小沢氏の政治戦略とは矛盾する。
だからこそ、小沢氏がゴリラにどう関与するかは重要だ。ゴリラが「落選した旧立憲議員の再起団体」で終わるのか、それとも小沢氏の選挙戦略と結びついて、もう一つの野党再編軸になるのか。ここには大きな違いがある。
一方、枝野幸男氏、蓮舫氏、辻元清美氏、小西洋之氏ら、旧立憲リベラルを代表する政治家たちも注目される。
特に参院には、旧立憲リベラルの有力者が残っている。彼らが中道に残るのか、ゴリラと連携するのか。それによってゴリラの規模は大きく変わる。
西村智奈美氏の立ち位置も興味深い。西村氏は中道の副代表でありながら、旧立憲リベラルの政治家でもある。ゴリラに参加するのではなく、中道の内部からリベラル色を維持する立場だ。今後の3党合流の形次第では、この立ち位置そのものが揺らぐ可能性がある。
さらに8月20日、連合の芳野友子会長が、地方組織から3党合流への慎重論が相次いでいることを明らかにした。
これは重要な変化だ。
中央の産別労組には「大きな塊」を求める声が強い。しかし地方では、公明党との関係や選挙区事情もあり、「本当に3党を一緒にしていいのか」という警戒感がある。しかも、そこへゴリラが登場した。
つまり現在の野党再編は、「3党で一つになる」のか、「リベラルはゴリラを中心に別の勢力をつくる」
のか、二つの方向に引っ張られている。
8月のNHK政党支持率でも、中道は1.7%まで急落する一方、共産党は3.4%に上昇した。既存野党の再編が進むどころか、野党支持層そのものが細分化しているように見える。
これは日本政治の大きな転換点かもしれない。
1996年の小選挙区制導入以降、日本政治は「自民党対民主党」という二大政党制を目指してきた。2009年には民主党政権が誕生した。しかし民主党は分裂を繰り返し、現在は自民一強の下で、野党が多党化している。
ゴリラは、その象徴なのかもしれない。
「野党を一つにまとめる」ことが政権交代への道なのか。それとも、理念の違いを抱えたまま無理に一つになるより、多党化したうえで連立を組む時代に移るのか。
ゴリラの登場は、単なる新団体結成ではない。
日本政治が「二大政党制」から「多党・連立時代」へ移行する、その分岐点になる可能性がある。